第30話 体育祭は物議を醸しだす


 午後の部が始まった。午後一番の競技は借り物競争からだ。


「紗耶香行こうか」

「うん」


 男子が先に始まる。俺はスタート二組目だ。


 スタートに立つと誰も早そうだが、これは借り物によっては時間が掛かる。足の遅いのは気にならない。


パァーン。


 案の定、俺が一番最後にカードエリアに着いた。早速一枚を拾い開けて見ると

「えっ!これ冗談?」


 何だよこれ。チラッとテントの方を見ると何故か鏡さんが期待の目で俺を見ている。どゆこと?


 仕方ない、俺はテントの側に行って


「鏡さん、済みません。お姫様抱っこさせて貰います」

「えっ!」


 俺はテントの内側に入り座っている生徒会長をそのまま腕で抱え上げた。

「えっ、ええ、えええー!水森君これって?」

「済みません。お題なんです」

「そうなの♡」


鏡さんが俺の首に手を回して来た。

「こうした方が楽よ♡」


「「「「おおーっ!!!!」」」」


「これは驚きです。何と二年A組水森君が鏡生徒会長をお姫様抱っこしています。なんてことだー!!!!」

解説者が好きな事を言っている。



 周りの声を無視してゴールまで走る。途中、

「水森君、ずっとこのままでもいいよ」


 苦しくて声が出せずに前だけ見て走っているが、何て事言うのこの人。



「はあ、はあ、はあ」


 俺は生徒会長をお姫様抱っこしたまま、手に握ってある紙をゴールで待っている生徒に渡す。そして生徒会長を降ろすと


「発表します。今到着した二年A組水森君の持っていた紙には……なんとー!生徒会長をお姫様抱っこしてゴールするでしたー!」


「「「「「おおーっ!」」」」」

「「「すげーっ!」」」

「俺もやりたかったー!」



「水森君ありがとう嬉しかったわ。こんど一緒にね♡」

「お、俺戻ります」

「あ、ちょっ、ちょっと。もう。少し位話をしてもいいじゃない」



「京子、良かったじゃない。でも性急過ぎると仕損じるわよ。だけど誰こんなの書いたの?」

「ふふっ、私。ちょっと掛けて見たの、彼との運命を。ぴったりだったわ」

「はぁーっ、いつもながら凄い事を」



 私鏡京子は彼が一年の時から知っている。水森先輩の弟として。そしてとても頭が良く、優しくて、友達思いだという事も。更には彼の女友達関係も。

 だから私が彼を幸せにする。あの子の頭なら私と同じ大学に来れるはず。今はゆっくりと友達関係を醸造して行けばいい。



 席には戻らずスタートにいる紗耶香の近くに行くと何故か顔を赤くしてプンプン顔で怒っている。

 理由は分かるけど仕方ないよ。お題を書いた奴が悪い。これは後でフォローしないと。


 見ていると次が紗耶香のスタートだ。


 パァーン。


 紗耶香がお題を拾った。えっ、いきなりこっちに戻って来る。俺の前に来ると


「明人、一緒に来て」

「えっ?」

「早く!」



「おっとー。先ほど生徒会長をお姫様抱っこした二Aの水森君が今度は可愛い女子に手を引かれています。これは大変だー!」

全く好きな事を言ってくれる。


「なんだあいつ。今度は女子に手を引っ張られている」

「あんな奴死刑だー!」

「そうだ。自分だけいい思いしやがって」

 不味い、男子を敵に回している。


 ゴールした。紗耶香が手に持ったお題を係の子に渡している。まだ手を離さない。

「二Aの一条さんがゴールしました。さて今度のお題は?」


一瞬係の子が紗耶香を見た後

「なんとー!二A一条紗耶香さんのお題は、私の大切な人ですー!」



「なんだって!」

「誰だー。死刑だー!」

「許さねー!」

「死ねー!」


 はあ、どうなってんだ。不味いよー。



「あの子も水森君との繋がりは強そうね」

「京子、あの子誰?」

「水森君と同じクラスの一条紗耶香」

「まさかあのお題?!」

「そうよ」

「はぁー!」




 最後の競技が終わり、校長先生と鏡生徒会長の話が終わると俺達は教室に戻った。

クラスの人が寄って来る。


「水森君めだったわねー!」

「かっこ良かったわよ」

「私もあんなお姫様抱っこされてみたいな」

「いやまあ」


「水森、凄いな」

「美人で誉れ高い鏡生徒会長をお姫様抱っことは!」

「俺もやってみたかったぜ」

「そ、そうか」


 紗耶香がご機嫌斜めだ。まだプンプンしている。

「どうしたんだよ」

「ここに聞いてみなさい」

と言って俺の胸を指で指した。


「いや、そんな事言ってもあれはお題を書いた人が悪いんで有って………」

「あれを引いた明人が悪い。それに生徒会長抱っこしている時、嬉しそうな顔してたじゃない」

「えーっ、無茶苦茶だよ。それにそんなことないよ。運ぶの必死だったから」

「だったから……?!」

「なに?」

「何でもない!」

 プイッと前を向いてしまった。



 結果は俺達白組三位、紅組一位でクラスの中が賑わっていた。まあとにかく終わった。


放課後、流石に今日は図書室を開けない。そのまま帰る事にした。



帰り道

「なあ、いい加減に機嫌を直してくれよ」


プイ。


「機嫌直してくれたら一つだけ何でも言う事聞くから」


急に立ち止まって

「一つだけ?」

「じゃあ、二つ」

「分かった。機嫌直してあげる。一つ目は明日私の家に来て」

「えっ、いいけど」

 なんだろう。それに二つ目って?


―――――


 鏡京子。うーん。分からん?


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る