第29話 誰だって苦手な物はある
俺は体育館裏から教室に戻って来ると紗耶香が心配そうな顔で俺を見ている。何と言おうか考えたが、言葉を弄するより正直に話した方が良いと思い、
「やっぱり告白だったよ。でも良く分からないんだ。断ろうとする前に帰ってしまって」
「えっ、どういう事?」
「うーん、良く分からない。取敢えず今はいいって言っていた」
「そうなの?確かに良く分からないわね。でも明人、昨日言った事覚えているよね」
「大丈夫だよ。紗耶香」
一人の女子が俺の方をじっと見ている。柏原さんだ。紗耶香は体をこちらに向けているから気付かないけど。なんか気になるな。
今日の最後の時間はLHRだ。そしてみんなで決めなければいけない事がある。そう間近にせまった体育祭だ。
俺は、運動は苦手だ。特に球技なんて大の苦手だし、走るのも遅い。体は固いし出来れば当日は休みたい位だ。
クラス委員が前に出て
「みんな、体育祭の出場種目を決める。必ず一人二種目は出てくれ。自薦で出たい種目ある人は言ってくれ」
こういう時は早く言った方が勝ちだと思い、スパッと手を上げる。
「おっ、水森積極的だな。どれにするんだ?」
「玉入れと綱引き」
「分かった。だが綱引きはチーム対抗だ。もう一つ選んでくれ」
「えっ、それで二つじゃ駄目なのか?」
「個人種目で二つだ」
「えーっ、じゃあ借り物競争」
これならば足の速さはあまり関係ない。
「分かった」
クラス委員の隣にいる書記が、俺の名前を黒板に書き上げる。
ふふっ、玉入れも綱引き適当にしていられる。みんなでやるから俺が適当にしても分からない。借り物だって適当にすればいいだろう。
後は、我関せずと外を見ていると
「明人、私どうしようか?」
「紗耶香は運動系得意だから好きなのにしたら」
紗耶香と話をしている間にもどんどん決まって行く。
「じゃあ、私も玉入れと借り物にする」
「そうか」
「あの、私も玉入れと借り物にします」
「一条さん、玉入れは埋まってしまったよ、借り物は大丈夫だ」
「一条さん、足早いからリレーにしなよ」
「そうだよ」
「どうしよう明人」
「うん、リレーいいんじゃないか」
「ではリレーにします」
「「おおーっ」」
男子諸君何故そこで歓声が出る?
体育祭の出場種目も決まり、LHRは終わった。みんなが教室を出て行く中で
「紗耶香、図書室」
「うん」
水森君と一条さん仲いいな。彼が元気になってくれたのはとても嬉しいけど。なんか割込む隙ないなあ。駄目かな。
「桃子、部活行くよ」
「あっ、行く。待って」
そんな話をしているとは露知らず、俺達は鍵を預かった後、図書室へ向かった。
「明人、玉入れと借り物とは考えたね」
「ああ、俺は運動全般苦手だからな。紗耶香は運動神経いいから」
「ふふっ、でも借り物一緒だね」
「えっ、何か期待でも?」
「ううん、何でもない」
今日は俺の当番だ。紗耶香は受付の側のテーブルで勉強している。いつもの常連がやって来た後、二十分位して綾乃がやって来た。
今日は受付の側でなく窓側のテーブルからこちらを見る様に座っている。前髪はアップしているが眼鏡を掛けている。お化粧はもうしていない様だ。
見られるのは嫌だが仕方ない。少しでも彼女の視線が見えない様に斜め座りにし直した。
しかし、昨日の人、鏡京子って誰なんだろう。三年生って言っていたけど。そんな事を考えながら本の貸出や返却処理をしていると下校の予鈴が鳴った。常連さん達が徐々に帰っていく。綾乃も帰ったようだ。
図書室内にいる生徒がみんな帰ったのを確認してから、
「紗耶香、この本、書棚に戻して」
「うん、分かった」
俺は書棚に戻す本の処理をしてPCをシャットダウンした。
図書室の鍵を担当の先生に返却した後、下駄箱に行くと誰もいない。綾乃は今日は普通に帰った様だ。
…………。
そして体育祭当日、
良く晴れた日になった。紗耶香と一緒に学校に行くと先生や体育祭役員になった生徒が朝からグラウンドを色々準備している。
体育着に着替えてからグラウンドに行くともうずいぶんな人が出ている。やがて全校生徒がグラウンドに並んで校長の話が終わると生徒会長が話を始めた。
「えっ!」
「どうした水森?」
「いや…何でもない」
なんて事だ。鏡京子まさか生徒会長とは!
今日は髪の毛を後ろに一つにまとめている。眼鏡を掛けているが凄い美人だ。体育着で胸が強調されている。ちらりと周りを見ると男子の集中力が凄い。
話も終わり、ハチマキの色と学年に分かれてグランドの周りに移動する。幸い紗耶香と俺は同じ白組だ。正則と今泉さんは紅組。
競技が始まった。俺の出番はまだ後だ。
「明人行って来るね」
「ああ、頑張って」
「うん」
チーム対抗リレーが始まる。一周二百メートルのトラックを半周ずつする。スタートは俺達の反対側。先生や来賓がいる側からだ。紗耶香は向こうで順番を待っている。
パァーン。
スタートした。
紗耶香は三番手。あっ、バトンが渡った。フォームが綺麗だ。凄く早い。俺より早いんじゃないか。
コーナーを曲がった。でも揺れが凄い。男子の視線も凄い。みんな何処見ているんだ。全く自分のチームを応援しろ。
紗耶香が次のランナーにバトンを渡してトラックの内側に退くとこっちを見て軽く手を振っている。おれも小さく手を振った。
紗耶香が帰ってくると
「お疲れ、早かったな。フォームが綺麗だったよ。俺より早そうだ」
「ふふっ、多分明人より早いかも」
うーん、やっぱりここでもイチャイチャか。水森君と話す機会無いかな?
「桃子、出番だよ」
「分かった」
私は百メートルに出る。思い切り水森君にアピールできないかな。
俺の出番だ。そう玉入れ。一瞬で終わった。お手玉を網に投げりゃいい。楽だ。
昼休みになり教室に戻り食事となった。
二人で教室に戻ると
「明人、今日はちょっと気合が入っているんだ」
紗耶香が袋からお弁当の入った箱を取り出して開けると
「おおーっ!凄い」
最初に目が行くのは大きな鶏唐揚げが五つ、これも大きなウィンナー五本、出汁卵焼きが五個、他にレタスの上に乗ったミニトマトやナスの素揚げなど色とりどりだ。
「凄いな、これ皆紗耶香が作ったの?」
「うん、今日は早く起きて作った。ちょっとお母さんに手伝って貰ったけど」
「だよな。こんなに多いんだもの。嬉しいよ」
「はいこれ」
そう言って紗耶香は大型の携帯ポットから良く冷えた麦茶を渡してくれた。そうか、袋一つがやたら重かったのかこのせいか。
「明人食べよ」
「うん」
「「頂きまーす」」
「明人一緒に食べていいか」
誰か直ぐに分かった。
「もちろんだ。紗耶香いいよね」
「もちろん」
正則と今泉さんが加わって賑やかな昼ごはんになった。
―――――
まさかの生徒会長参戦ですか!
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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