第24話 新しい平穏
今日から二学期だ。俺は隣駅紗耶香の家のある駅のホームで待っていた。
改札を通りこちらのホームに向かう紗耶香が目に入った。側に来るとアイロンが効いて折り目正しくなったスカートと白のハイソックスが似合っている。
まだ、夏服のままだから思い切り胸が盛り上がっているのが分かる。あの時の事ちょっと思い出すと見ていて恥ずかしい。
「おはよ明人」
「おはよ紗耶香」
「ふふっ、今日から一緒に登校だね」
「そうだな」
夏休みの数日前に紗耶香と約束した。一緒に登校すると。それが今日から始まった。
学校のある駅の改札を出ると見慣れた学校の制服を着た生徒が一杯歩いている。並んで歩いていると手を繋いで来た。
「えっ」
「いいでしょ」
「まあいいけど」
言われても、なんか断れない。俺って軟弱かな?
学校が近づくと俺達の事をチラチラ見る生徒もいるが、気にせずに下駄箱に行って履き替えた後、教室に入った。
みんながこちらを見ている。俺と紗耶香は手を離すとそのままお互いの席に行ったが、紗耶香が鞄を机の上に置くと直ぐに俺の所に来た。
「おはよ明人。朝から熱いな」
「おはよ正則。まあこんな所で」
「おはよ中島君、今泉さん」
「うん、おはよ一条さん」
「あれ水森君と一条さん手を繋いで入って来たよね」
「うん、見た。どういう事?」
「でも中島君や今泉さんは知っている見ただけど」
「うーん、でもいいんじゃない。水森君明るくなった感じで」
「そうね」
女子は大方好意的に見てくれたようだ。良かった。
予鈴が鳴って担任の南沢美幸先生が入って来た。今日もとても可愛い。
「おはようございます。皆さん体育館に行くから廊下に出て下さい」
がたがたと席を立って廊下に出る途中、クラスの男子が
「水森、一条さん新しい彼女?」
「うんまあ」
「そうか、羨ましいな。俺なんか高校に入ってまだ一人も出来ないのにな」
「ごめん」
「いや、お前が謝る事ない。まあでも良かったよ」
男子の感触も悪くない様だ。
俺達は体育館で校長先生の長~いお話を聞いた後、教室に戻った。
直ぐに南沢先生が入って来て時計をちらりと見ると
「まだ時間有るから席替えしようか。この箱の中に席順書いたカードが入っているから窓側の一番前の人から引いて」
最初の生徒が立った。俺は直ぐに順番が来た。サッと箱からカードを取り出すと
な、なんと窓側一番後ろだ。完璧!
その後は、紗耶香や正則が順番を待って順に引いて行く。紗耶香がこっちを見ている。
最後の人が引き終わると
「はい、直ぐに移動してね」
俺はサササッと窓側一番後ろの席に移動するとふふふっと笑顔をしながら紗耶香がやって来た。
「明人、前だよ。やったね」
何と紗耶香は俺の前の席だ。完璧だ。正則は、真ん中一番後ろだ。
「はい、移動したら、クラス委員は自由研究だけ皆から集めて私の所に持って来て。他の宿題は各担当の先生に渡す様に」
そう言うと教室を出て行った。
二限目と三限目だけ授業が行われたが宿題の答え合わせだ。簡単に終わった。
放課後になると紗耶香を連れて職員室に行く。図書委員になる為だ。
「先生、一条さんが図書委員になってくれるというので来て貰いました」
「ほう、そうか。それは良かった。これで水森も一人体制が無くなるな。一条さんこのシートのここに学年クラスと名前書いて」
「はい」
「はい、じゃあこれ図書室の鍵、水森良かったな」
「えっ、はい」
先生はどういう意味で言ったんだろうか?
図書室の鍵を開け、受付の机に座ると早速PCの図書管理システムを起動した。
「紗耶香、これ図書管理システム。本の貸出返却や書棚への本の戻し、後、利用者カードの発行も全部している。ゆっくり覚えて」
「分かった、明人♡」
二学期初日だが、常連さん達はいつもの様にやって来ていつもの事をしている。
何人か図書室に来た生徒が夏休み中に借りた本の返却をして来たので紗耶香にシステムの使い方を教えた。
今日は一応二時半で図書室を閉める事にしている。途中紗耶香の作ってくれたサンドイッチを食べている。
彼女の作った卵サンドは絶品で本当に胃が掴まれそうだ。
本の貸出返却手続きをしていない間にシステムの使い方を教える。呑み込みが早くて助かる。
後三十分で閉室になるという時、女子生徒が入って来た。
っ!綾乃だ。お化粧して髪の毛を金髪にしている。どういうことだろう。
彼女は入って来ると書棚を見ながら歩き一つの本を取るとこっちやって来た。
俺の元カノだからって本を借りてはいけないって事は無い。
「明人、これ借りる」
何故か紗耶香の顔をじっと見ている。
俺は貸出手続きを済ますと本をカウンタの上に置いた。本当は触りたくも無い。
彼女はカウンタから本を取るとそのまま図書室のテーブルに座って本を読み始めた。
綾乃視点
夏休み、克己と毎日会えると思っていたけど、三分の一も会えなかった。連絡しても用事があるという返事だけ。
今日久々に学校で会える、帰り一緒に帰れると思ったら朝の挨拶だけ。その後は他の女の子石原さんや笠原さん達と話している。帰りもその子達と帰ってしまった。
そう言えば石原さん達も前の様に私を誘ってくれない。こちらから声を掛けてもそっけない。
あの子達以外の女の子達とはあまり話した事無いから何となく教室では一人ぼっちな気分だった。
だから、図書室に来て見た。図書委員は私が止めて明人一人と思った。だからもし私がまた図書委員をやると言えば明人は喜ぶかもしれない。そう思っていたのに。
誰なのあの子。一年の時、居たけど話もしなかった。名前は確か一条紗耶香。明人とは接点が無かったはず。結構可愛いけど私の方が可愛い。私よりちょっと胸が大きい位。
明人と楽しそうにしている。なんで。明人の彼女は私なのに。
…………。
二時半になった。一応入り口に張ってあるので、常連の人達はゾロソロと帰り始めた。
綾乃も帰ったので俺は返却本を書棚に返すと紗耶香にシステムに入力する方法を教えてPCをシャットダウンして二人して図書室を出た。
鍵を担当の先生に返却して下駄箱に行くと
えっ、綾乃が下駄箱で立っている。俺は思い切り無視してローファーに履き替えて帰ろうとした時、
「明人一緒に帰らない?」
全く無視して通り過ぎようとすると近づいて来て俺の手を掴もうとした。
「触らないでくれ。近寄るな。白石と一緒に帰れば良いじゃないか」
「明人、誤解だよ。克己とは…」
「克己って呼んでいるんだ」
「……、白石君とは別れた」
「俺には関係ない事だ。紗耶香帰ろう」
「うん」
綾乃が悲しそうな顔をしているけど俺には関係ない。
なんで、ちょっと白石君と遊んだだけなのに。私の彼はまだ明人だよ。
―――――
綾乃さん、ちょっと、なんですよ。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます