第25話 季節は秋だけどまだ暑い
二学期が始まってもう二週間が経った。この季節は色々賑やかだ。学園祭、体育祭、そして中間テストと期末テストに修学旅行だ。
それに加えて俺が受けた全統高二模試の結果が学園祭の後、帰って来る。
最初は学園祭。来週末に行われる。夏休み明けで時間も無い中、催し物を決めて準備をしなければいけない。
その催し物を決める為、午後のLHRが賑わっている。
「我がクラスの催し物だが、メイド喫茶と普通の喫茶店で得票が同じだ。この二つに絞ってもう一度決めるぞ」
まあ、なんというかどっちもやりたくない。やっても裏方にして欲しいものだ。学園祭の実行委員に決まった男子と女子がみんなの意見を取りまとめている。俺には出来ないな。
窓側一番後ろに座っている俺は我関せずと外を見ていると
「水森はどれがいい?」
うっ、何で俺に聞くんだ。前に顔を向けると紗耶香がどうするの?という顔をしてこっちを向いている。困ったな。
「普通の喫茶店が良いと思う」
「何でだ?」
それ聞くの?
「いや、メイド喫茶とか今から洋服調達するの大変だと思うし」
「それはさっき話したじゃないか。聞いてなかったのか」
「えっ?!」
「洋服は江藤が知合いの貸衣装屋が有るからそこで安く借りれる事になっている」
江藤って誰だ。あいつか、こっち見てニタニタしている。
「じゃあ、メイド喫茶」
「「「おーっ」」」
何で騒いでいる?
「良し。水森の一票でメイド喫茶に決まった。それでは何を提供するか決めよう」
「えっ?!」
「明人がメイド喫茶選ぶなんて!」
紗耶香がこっちを見てぷんぷんしている。どうも俺の選択は誤っていたらしい。
話も進み
「提供する物も決まった。役割分担を決めよう。メイドしたい人手を上げて」
シーン…………。
「誰もやらないと出来ないよ。他薦でいいから誰か推薦して下さい」
「一条さんが良いと思います」
さっき衣装を借りれると言っていた奴だ。紗耶香が困った顔をしている。
「私も賛成。一条さんやるなら私も」
俺が疲れ顔で二学期始めに登校した時、最初に声を掛けてくれた子だ。確か柏原桃子って名前だった。ショートカットの丸顔で目がパッチしている。
「それなら私も」
他の子も同意し始めた。
「どうする紗耶香」
「うーん、恥ずかしいけどみんながそう言うなら」
「では男の店員を決めよう」
「「「はい、はい」」」
何でこんなに手上げているんだ。俺は裏方がいい。
「明人しないの?」
「いや、俺は裏方がいいよ」
「そうなの」
おいそんな目で俺を見るな。
「分かったよ」
「水森君もやるそうです」
「おい、紗耶香」
「よし、じゃあ決まりだな。予算計算して生徒会に出すけど絶対通るとは限らないからな」
通らないでくれ。
放課後、図書室を開けるとパタパラと常連さん達がやって来た。紗耶香は図書システムの操作を覚えるのが早く、もう一人で本の貸出返却を行う事が出来る。
本がどこの書棚にあるかは基本的にカテゴライズされているので、順次覚えていけばいいと思い、日々の貸出返却処理は交代で行っている。当番でない方が受付の側でその日の復習をするという事にしている。
今日は紗耶香が当番だ。俺は直ぐ側のテーブルで復習をしていると側に女子生徒がやって来た。頭を上げると
っ!綾乃だ。金髪だった髪の毛は黒に戻して前髪はアップしているが眼鏡にしている。とても寂しそうな顔をしているが俺には関係ない。
何も言わずに俺がいるテーブルの反対側に座ると勉強を始めた。どういうつもりだ。
とてもじゃないが俺を裏切って他の男と散々した女の近くに入る程俺のメンタルは強くない。
教科書とノートを片付けると受付の予備椅子で本を読み始めた。
ちょっと綾乃視点
今日のLHRで学園祭の催し物を決めた。外で模擬店をやる。六人一組で六組で交代する事になった。私のいるBクラスは、三十六人なのでちょうど良かったのだけど、私は全く話した事も無い人達のグループに入れられてしまった。
白石君はおろか石原さんや笠原さん、かつて一緒に遊んだ人達は私に声を掛けてくれなかった。結局五人決まったけど一人足らないグループに入らされた。
でもその人達とは話した事も無いのでどうやって一緒にやればいいのか分からない。何となく役を決められた。私は後ろで具材を切る役目。
こんな時明人がいれば。これでは中学の時に後戻りだ。
理由は分かっている。克己と遊び過ぎた所為だ。石原さん達も私に近付いたのは彼から頼まれたから。今は克己も会ってくれない。
一人で家に帰るのも嫌なので図書室に行けば明人に会える。話なんかできないだろうけど明人の顔は見ていられる。だから閉室までいればいい。
来て見れば、一条さんが受付をしている。明人は直ぐ側のテーブルで勉強していた。これはと思い、直ぐに明人の前で勉強を始めたけど、彼は受付の予備椅子に行ってしまった。今本を読んでいる。
…………。
下校の予鈴が鳴った。図書室内にいる人達も帰り始めた。
「紗耶香、閉室の準備しよう」
「うん」
綾乃も出て行き誰も居なくなったので、返却された本を書棚に戻して図書室の鍵を閉めた。
紗耶香と一緒に下駄箱に行くと何故か綾乃が出口にいる。俺は無視して紗耶香と一緒に校門に向った。
明人と一条さんが私の前を歩いている。手を繋いで楽しそうに話をしている。本当は私があの位置にいたのに。
駅に着くと二人は同じホームに向かった。私は反対方向だ。何となく涙が出て来た。
―――――
綾乃ちゃん、今になってやっと分かったみたいです。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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