第20話 一時の静けさ

 

 俺は学校のある駅に降りた。もう綾乃を待っている事も彼女が待っている事もない。改札を出てすぐに学校に向かう。


 学校に着いて下駄箱で履き替え、階段を上がればすぐにAクラスだ。Bクラスを通る事はない。それが気楽で良かった。あいつ(綾乃)の顔を見る事が無いから。


 俺が教室に入って自分の席に着くと正則が寄って来た。

「おはよ明人」

「おはよ正則」

「どうだ。だいぶ落ち着いたか」

 そう言って俺の胸の辺りを指さした。


「まだだよ。そう簡単には消えないさ。でも俺が悪かったんだろう。仕方の無い事だ」

「そんな事ない。お前は優しすぎる。俺は高橋さんを絶対許せない。隅っこにいたあの子を笑顔にしてあげたに。それなのにこれじゃあ………。明人、俺や薫はいつもお前の側にいるから悩む前に声掛けろよ」

「ありがとな正則。でももういいよ」


 正則が俺の側から去って鞄から一限目の授業の教科書を取出しながらちらりと周りを見ると何故か皆俺を同情の目で見ている感じがする。気の所為だろうか。

でももうみんな知っているんだろうな。ちょっとした晒し者気分だ。



 昼休み、購買にパンと牛乳を買いに行った。学食は利用しない。自分だけが気にしているだけかも知れないが、周りが俺を好奇の目で見ている感じがする。


 購買から教室に戻ると好きなSF系の本を広げながら食べ始めた。正則が近づいて来て

「明人、俺達と一緒に食べないか?」


 チラッと見るとBクラスからやって来た今泉さんが手を振っている。

「正則、ありがとう。でもこの本読みたいから」

「そうか、いつでも声掛けろよ」


 そう言って自分の席に戻って行った。ほんと正則は良い奴だ。


周りの女の子からも

「水森君、可哀そ過ぎる。なんであんなに良い人を」

「私もおおぴらには言わないけど高橋さんが、水森君を裏切るとは思わなかった」

「ほんとだよね。それに相手と毎日会っているって聞くよ」

「「酷いね」」


 自分一人で居ると小声で話されても良く聞こえる。チラッと一条さんの席を見るといなかった。学食でも行っているのか。




 放課後、俺はいつもの様に図書室を開けてPCを立ち上げると、常連さん達がやって来た。みんな本を読んだり書き物や勉強したりしている。


 ガラ。


 入口の扉が開いて一条さんがやって来た。何も言わず受付のすぐそばの席に座ると教科書とノートを取出して勉強し始めた。今日の復習でもやっているんだろう。


 彼女が来て二十分位経った後、教科書とノートを持って俺の所にやって来た。それをカウンタに置くと

「水森君、ここ分からない」


カウンタでは見辛いので教科書を受付の机にある俺の教科書の上に置くと

「ああ、これは……」


 うっ、俺を覗き込む様にして教科書を見ている。彼女は綾乃と違い胸が豊かだ。下を向いている所為でそれが思い切り強調されている。


 胸を見ない様にしながら

「一条さん、もう少し離れてくれると」

「えっ、でも見えないから」

 ほんとは意味分かっているけど。


「とにかく説明しにくいよ」

「分かった」


 ちょっと離れると

「ここは公式の使い方が間違っている。ここはこの公式を使ってみて」


 一条さんは何故か席に戻らずに俺の席で溶き始めた。

「ほんとだ。解けた。ありがとう一条君」


 やっと離れてくれたので俺も自分の教科書に目を落とすと少ししてまた一条さんがやって来た。


「ねえ、ここは」

「これは、こっちの公式。出来ればそっちの席で解いて」

「はーい」

 聞き分けが良くなったようだ。


 偶に来る生徒の貸出返却の処理をしながら彼女の相手をしていると下校の予鈴がなった。


 今日は一条さんは直ぐに片付けて

「水森君、ありがとう。また明日ね」


 えっ、毎日来るつもり。確かにあの時、図書手続き以外の時間なら良いとは言ったけど………。



 それから毎日一条さんは放課後図書室に来ては勉強しながら俺に分からない事を聞いて来た。


 そして一学期末テストが終わり掲示板に成績結果が張り出された。


 一位 水森明人

 ・

 十位 高橋綾乃

 ・

 十五位 一条紗耶香

 ・

 二十八位 白石克己


 なんと俺が一番だ。やったぜ。


「水森君、やったね」

「ああ、でも一条さんも十五位じゃないか。中間までは…」

「それは言わないで。これからも宜しくね」

「えっ?!」

「良いじゃない!」



 明人が一位だ。凄いな。私は遊んでばかりいたからこの結果だ仕方ない。でも誰、明人の側にいる子?なんで私以外に明人の側に女の子がいるの!




 教室に戻ると早速正則が近づいて来た。

「明人凄いじゃないか。一位やったな」

「ありがとう」


 他の男子達も

「水森、凄いな。なんか気分スッキリだ」

「俺もだ。水森今度俺にも勉強教えてくれ」

「構わないけど」


「水森君ほんと。ねえ私にも教えて」

「うんうん、私にも」

「あ、ああ」

 何だ。これは?


「でも水森君一位ですっきりしたわ。あれ十位だものね。遊び過ぎよ」

「そうよね。私もすっきりしたわ」

「そうそう」


 皆さんあまり同情しなくても。でも俺の目標は全統高二模試だ。このままでは済ませない。



 放課後、図書室にいると一条さんがやって来た。

「水森君、勉強教えてくれてありがとう。両親も喜ぶわ。ところで、学期末試験も終わったし、もし良かったら……一緒に帰らない?」

 また断られるんだろうな。


「いいよ」

「えっ、いいの?」

「うん。図書室閉めるまで待ってて」

 もうあれから二ヶ月半も経っている。学期末試験も結果が出せた。吹っ切るにはこの子と話をするのも良いかもしれない。


「もちろん」

 やった。ふふっ、これで………。




 図書室を閉めて鍵を先生に返して下駄箱に行くと一条さんが待っていた。


「水森君帰ろ」

「うん」



 駅までに行く途中


「もうすぐ夏休みだね。水森君何か予定あるの?」

「何もない。夏休みの宿題やって後は勉強」

「はっ?勉強?夏休みだよ」

「うん、八月下旬に全統高二模試が有る。それを受けるんだ」

「全統高二模試。何それ?」

「全国統一高二模試の略称で。全国の高校二年生を対象にした統一模試」


 なんか、水森君って違う次元の子なの。私模試自体知らなかった。


「じゃ、じゃあさ。その勉強の合間。そう頭休めに私と会わない?」

「えっ、なんで?」

「何でって。会いたいのに理由いるの?」

「いやでも、もうそういうのは」

「水森君。勘違いしないで。別に水森君が好きな訳じゃないよ。でもまあ会いたいんだ」

 この子意味分からない。でもいいか。


「いいよ」

「やったー!」

 そんなに喜ぶことなのか?


 駅に着くと

「水森君ってどっち」

 指でホームを差すと

「あっ、私と同じだ」

 聞くと何と俺が降りる駅の一つ前だった。


「ふふっ、これで会いやすくなったね」

「…………」


―――――


一条さん何気なく明人に近付いてきますね。


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る