婚約破棄されたので捨てられたクマちゃん人形に命を宿したら破滅した私を幸せにしてくれた件〜バカにした王子を大富豪になって見返します!〜

ぺんぺん

第1話

「アンナ・パトロクロス。お前に命令だ。お前のスキルを使い、リンナを生き返らせろ!出来なければ婚約破棄だ。」



無責任な言葉だと思った。



私はマキナ王国の王太子、レグス・マキナ殿下と婚約関係にある。


この世界は、十二歳で神からの祝福として一人に一つ、スキルを貰える。

私が貰ったのは「命をたくし」、自分の命を誰かに貸し出すというものだ。




まるで神様が言っているような気がした…私の命は私のじゃないと…。




でも…私にだって意地くらいあるのだ。

だから…


「嫌でございます。命を、なんだと思っているんですかっ…!」


レグス殿下にそう伝えた。

しかし…


「お前の命なぞどうでもいい。所詮しょせん、雑務が少しできる程度の公爵令嬢なんて、そこら中に沢山いるからな。そうか、嫌なら…」


雑務…?国の政治が、雑務?

私は今まで、彼のために沢山のを行っていた。


彼がやらないからだ、私と婚約しておきながらリンナにうつつを抜かして遊び呆けているだけ。


それでも良いと思ってた、どんなに彼の好みの綺麗なドレスを着ても、どんなに可愛く化粧をしても、振り向いてくれない。



私に魅力がないから………だから沢山努力してきた…なのに。



私の元へ足早あしばやに歩み寄り、おびえる私の禁髪を握って持ち上げた。

私の赤い瞳が気に入らないのか、にらみながららされた。



頭皮ががれるかと思えるほどの痛みが、私の身体の制御を奪った。

痛がる私に殿下は言う。


「いいか?必ずお前にスキルを使わせてやる。お前は死ぬのが怖いだけなんだろ?だったら死ぬより痛い目に合わせてやるよ。」


その王太子とは思えない口調で、私をおどした。



なんで…私の命は…………?



そんなに軽いものなの……………?



レグス殿下が兵士の身につけてる剣を抜いた。


そしてそれで…私の腕を切りつけたのだ。


「いやぁあああ!」




痛い…痛いっ…!


左腕が動かない……完全に…神経をたれた…。



レグス殿下はそれでも私の髪を掴んで振り回しては、四肢ししを斬りつけた。

血眼ちまなこになり、まるで何かに取りかれたように…


何度も…何度も。



私がスキルを使うと言うまで。


泣き叫び過ぎて、力を無くした私を放り投げ。

信じられない一言を殿下が吐き捨てた……。



「さっさと死ねよ…ブス。」



なんということか…王太子の面影おもかげなどなかった。

これが絶対王政…私は、彼に逆らえない…。

この場にいる誰もが…逆らえないのだ。


私の目には…悪魔のように映っている。

そして目線の端には…



口パクで「ざ・ま・あ」と言ってくる、死んだはずのリンナが映った。



わたしは王城から逃げた………。


行くてなんてない…。

実家にも帰れない、帰れば母様達が酷い目に会う。



豪雨の吹き荒れる街灯がいとうともっていない夜の街を一人、孤独に歩く。




冷たい雨の中で一人だ…それは、私の人生を物語っている。


絶望と狂乱に満ちた、薄汚れた泥だらけの人生。




しばらく雨に打たれながらぼーっと石造りの道を歩く。

私のどこに落ち度があったのかと…ずっと考えていた。



私と婚約破棄をするほどに、この顔はみにくいだろうか?



しかし、目鼻立ちは美人と称される母と瓜二つの私。

違うとすれば、この赤い瞳…。

不吉の象徴とされる赤い瞳だ。



──泣き叫んだ。



涙なのか雨なのか分からないほど顔を濡らし、絶望に打ちのめされた心が限界に達している。


ふと、視界に雨に打たれるボロボロのクマの人形が入った。


人に踏まれたのか足跡と土で汚され、なんとも見るにえない姿だ…今の私のように。


話し相手が欲しくて…クマの人形に話しかけてみた。


「クマちゃん…辛いね。私たち、どうして生まれてきちゃったんだろうね……。ねぇ、貴方はまだ生きたい?」



一瞬クマの黒い、つぶらな瞳が輝いた気がした。

それはまるで、私の問に答えるかのようだった………。


「そう…まだ、生きたいんだ。なら、私の命をあげます…。もう私が持っていても仕方がない命だけれども、貴方なら…きっと尊い命にしてくれるでしょうから…。」


そうして私は、クマちゃんに「生きて欲しい」と願いを込めて命を貸し出した。


ここで私の人生はまく引きだ………。




クマちゃん…………………ごめんね。



どうかお元気で………………お幸せに。




◇◇◇




俺はクマの人形だ、クマちゃんと呼んでくれ。


九歳かそこらの小娘に買われ、一日で捨てられた灰被りの人形の俺だが…使命ができた。

それはこの命をくれたアンナ・パトロクロスっていう隣に寝てる、べっぴんさんを幸せにすること…。


アンナは最期にこう言ってた。



「生きて欲しい」ってな、それはアンナ。

俺もお前に生きてて欲しいんだぜ?



アンナの貸してくれた命には、アンナの記憶が全て入っている。

あのクソ王太子に好かれる為に学んだ知識だ。


だがそれも全て水の泡と化し、こうして人生を諦めちまった…。



俺はアンナが好きだ。



男ってもんは、一目惚れしちまう生き物で…健気けなげなアンナに心をグッと掴まれちまった…。


だからよぉアンナ。



「お前は俺が幸せにしてみせるぜ…安心して少しの間眠っときな。いつか大富豪になって戻ってくるぜ?」



とりあえず、アンナを人目のつかない場所に移動させた。

昼間は人が出てくるため、夜中にこっそり隠れながら。


少しずつ…少しずつ。


そうしてたどり着いたのが、町外れにある森の洞窟。


丁寧に草でベッドを作って、虫や獣が避ける草を入口に置いた。

人形の俺だが、アンナの命が宿ったことで、少し人間の力が出せるようになったらしい。


アンナを寝かせる…。

アンナは今、スキルの効果によって保護されている。

だから死ぬことも老いることも、発動中は無いのだ。



意識のないアンナの顔は…眉目秀麗びもくしゅうれいそのもの。


たとえこの恋が叶わないとしても、ずっとそばに痛いと思うほどに…。


長居すればそれだけ未練が残るので、さっさと森を出た。



森を出てすぐ、三人の子供に発見される。


「おい!何だこのクマ!汚ねぇ!!」


「こっち来んなよ!!臭いんだよ!」


「あっち行け!!」


石を投げられ、罵詈雑言ばりぞうごんを吐かれた。

まぁ…ガキのやることだ、怒っても仕方ねぇ。

ここは少し注意するだけで…


「おい!お前ら!何をやってるんだ!?クマをいじめるな!!」


俺が注意しようとしたその時、低い声の白髪の男がやって来た。

子供達はその言葉を聞いて逃げていく。

その男は俺に手を差し伸べて言う。


「クマちゃん。大丈夫だったかい?いや、済まない人間かな?そういうスキルなんだよね?」


「あぁ…そんなもんだ。ありがとな。」


「いや感謝されるほどの事じゃない。ただ私のスキルがここに招いただけなのさ。」


「お前のスキル?なんだそれは?」


「秘密だ。」


助けてくれたのは、世界最大級の商会の会長を務める。

グレン・ライラックだった。


「俺に何の用だ?」


「私の商会に入らないかい?」


「なぜ?」


「君が大富豪を目覚ましているから、それも愛する女性のために。私はその手助けをしたい…。」


こいつ…心が読めるのかもしれない。

大富豪への道は一人じゃ無理だ…こいつを上手く利用しよう。


「わかった…お前の商会に入る。だが条件が一つある。」


「いいだろう。言ってくれ。」


「お前が死んだら、商会を俺に継がせろ。」


驚愕した顔で俺を見つめるグレン。


「……………私が子供を産めないことを知ってたのかい?」


「いいや、ただお前が何故か知ってる俺の夢、大富豪への一番の近道だからだ。」


「しかし、それは約束できない。ただ言えるのは、結果次第ということのみ。」


「それで十分…。」


こうして俺達は結託けったくした。

それからの日々は休む間もない怒涛の人生…クマ生だった。


俺が入った時期に経営困難に陥り、没落しかけた。

それを何とかグランと協力して食い止めた。


それで誕生したのが、とある化粧品だ。

各肌に合わせシリーズ化したその保湿剤は、爆発的に大ヒットし、再びライラック商会は世界一におどり出た。


事務的なことや、化粧品については、アンナが人知れず努力した知識のおかげで全て上手くいった。


そうして四十年…俺は生きた。

今、目の前で焼かれてるのは…八十歳でぽっくりっちまったグレン身体だ。


俺の身体も既にボロボロだ。

元々ボロボロだった部分を、グレンが下手くそのくせに頑張って直してくれて、ほつれた糸も何もかもに愛着が湧いちまった。


そろそろ…俺も潮時しおどきだな…。

無事、ライラック商会の会長に就任したが…そろそろアンナに会いたい。


実は四十年間一度も会っていない。


安否の方はスキルの仕様で常に確認していたが、顔は見ていないのだ。


グレンの葬儀そうぎを終え、森に向かう。

しかし森に向かう途中…



ブチっ…!



子供に左足をもがれた…………。


そこはグランが直してくれた箇所で…。



ブチっ…ブチっ…………。



最後には、かろうじて右手だけ胴体に繋がっていた。




満身創痍まんしんそういだ…。




進む間もなく襲い来る子供の罵声ばせいと暴力。

俺は子供が好きだ、何故ならアンナが好きだから。

だから怒るなんて出来ねぇ…。



何とか残った右手だけで胴体を引きずり、例の洞窟までたどり着いた。


「よぉ〜アンナぁ…。帰ってきたぜぇ?」


久しぶりに見たいとしのアンナだ…。


「ちっとも変わってねぇなぁ…相変わらず綺麗だ。」


俺はアンナの左手の甲にキスをした。

そして一言…ずっと言いたかった一言を言うんだ…。



「借りたもんを返しに来たぜ…?」



ここで俺のクマ生は幕引きだ…………。




なぁアンナ………幸せになれよ?




◇◇◇




意識が覚醒した…。

目を開ける、知らない天井だ。

でもすごく見慣れた天井…。


私の左手にモフモフとした何かが乗っかっている。




「クマちゃん……?」




瞬間、クマちゃんの記憶が全て頭に流れ込んできた。

彼の魂が言ってる「好きだ」と………。、


「私も…私も、好き。あなたが、好き…………。」


自然とそう言葉が漏れた。

そしてクマちゃんの記憶に、レグス殿下に復讐する為の計画があった。

記憶が言ってる…私がやれと。


「うん…クマちゃんありがとうね…。私、絶対レグス殿下に復讐するから…天国で見てて。二人で、破滅させてやりましょう?」


私は記憶の通りに行動した。


まずはライラック商会を隣国のアルスベルド王国に移し、商品の流通を全てマキナ王国だけせき止めた。

商会の方々は私が名乗った瞬間に全てを理解し、従ってくれた。


ありがとう…クマちゃん‥。



すると五年で国民、主に女性がアルスベルド王国に移り、男性もそれを追う形でマキナ王国から消えていった。


流石世界一の商会だよ!クマちゃん!


それから、会長としてせき止めた理由を話せとマキナ王国の王城に呼び出された。

そして現在…私はレグスの前に立っている。

六十三歳となり王となったレグスが、私を見て呆けた声を出した。


「は…?お前…アンナ?」


私は、十八歳でクマちゃんに命を託し、目覚めて五年たったので、実は二十三歳なのだ。


四十年間は…代わりにクマちゃんが生きてたから…。


「なぜ驚いているんですか…?四十年前、お話したはずですよ?命を託している間は歳を取らないし死なないと…。」


「ふんっ…!生きていたとはな!」




私は嘲笑あざわらってやった…自分の代で大国から弱小国家まで成り下がらせたレグス殿下を。




「それで…我が商会のマキナ王国への商品の流通ですが…もちろん。破棄させていただきますね?貴方も私との婚約を破棄したんです。やってることは同じですよね?何もおかしくありません。ざまぁみろ。」


そうして言いたいことだけ行って清々しい気持ちでマキナ王国を後にしました。


あとはクマちゃんの後継人として、商会をさらに大きくしていき…気がつけばマキナ王国は攻め滅ぼされていました。


そしてついに、私もクマちゃんの所へ行く時が来ました。



「せめて………天国では、二人で暮らしたいわね……クマちゃん………。」




◇◇◇




「おい、お前…なんでこんなところで寝てんだ?」


意識が覚醒する…目をか開ければ……。


「クマちゃん…クマちゃん!?」


咄嗟とっさに抱きついた、だって目の前にクマちゃんが居るから。


「なんだおめぇ!?いきなり抱きつくな!初対面で抱きつくとか痴女ちじょかてめぇ!?」


初対面…?

確かに、面と向かって話すのは始めてだ。

それなら名乗って見よう。


「アンナ・パトロクロス!覚えてない…?」


「知らねぇな…。」



そっか…クマちゃんは、元々は命なんてない人形だ。

多分ここは天国で、そもそもクマちゃんの魂がある方がおかしいのだ。


神様…貴方はなんて心優しい方なのでしょう…。



私にもう一度チャンスをくださるんですね?



わかりました、今度は必ず…幸せになります。




「クマちゃん…突然ですが、私は…貴女が…。」





──────────────────────

【あとがき】

「面白かった!」


「続きが気になる!!」


「今後はどうなる!!!」


と思ったら


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