未来から来た彼女

つばきとよたろう

第1話

 その日、通学路にある横断歩道で、先輩に出会うことは分かっていた。不良というほどではないが、学ランを標準から少し崩して、誰よりも格好付けて着ている。眼鏡も実用性よりは、いわゆるおしゃれ眼鏡だ。木田未来は分かっていても、その術中にはまってしまった。


先輩、格好いいす。


 未来はわざわざ横断歩道を渡って、反対側の信号機の下に待っていた。学校へ向かうには、車道を横断したので、もう一度渡る必要はない。信号は赤だから、視界を遮るように時々車が走ってくる。それが未来の頭の中でカウントされているような錯覚を起こす。もう直に信号が赤から青に変わる。渡っていいのだ。未来は運動会の徒競走で、用意ドンする児童みたいに身構える。


 そこで未来は、ポケットの中の白いハンカチをわざと落とした。先輩は気付いてくれるだろうか。


 先輩は横断歩道に落ちたハンカチを拾い上げた。

「おい、君。これ落としたぞ」

「あっ、私のハンカチ。ありがとうございます」

 未来の作戦通り行った。

「何かお礼をさせて下さい」

「お礼なんていいよ」

 先輩は癖っ毛の頭を掻いた。


 その時、車道から大型トラックが、猛スピードで現れた。先輩は未来を突き飛ばして、衝突を回避させた。が、先輩は間に合わず、巨大な車体に跳ね飛ばされてしまった。周りの景色が真っ赤に染まった。

 この結末は、何度繰り返しても変わらない。未来と先輩は出会うべきではなかった。出会った瞬間に、もう別れなければならないなんて悲惨すぎる。


 未来はヘッドホンのボタンを回した。これで鏡の中の時計のように、時間を遡らせることができる。信号が変わる前に戻っていた。歩行者信号が青になると、未来は何もせずに先輩と擦れ違った。猛スピードで大型トラックが走ってきたが事故は起こらなかった。先輩と未来も出会うことも別れることもなかった。

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未来から来た彼女 つばきとよたろう @tubaki10

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