材料が足りないのでその都度買いに行く鳥MCの料理番組

ケーエス

分量とかガチで書くと参考にしたサイトの転載みたいになるので(以下略)

「「品薄~クッキング~!」」


「さあ始まりました! 品薄クッキング! どうもトリの助です!」

 トリの助は翼をパタパタさせた。

「本日も料理研究家の品川先生にお越しいただきました! 先生、今日は何を?」

「はあーい、今日はですね」

 淵メガネのおばさん研究家が答えた。

「フライパンで20分でできるカンタン! 焼き鳥です」

トリの助が固まった。聞き間違ったのかな?

「や、焼き鳥ですか…?」

 トリの助の翼が震え出す。

「はあーい、焼き鳥です」

 品川先生は満面の笑みで答えた。今日の天気は晴れで心地良い、そんな顔。

 トリの助はスタッフの方をちらちらと見た。スタッフは何も言わない。カンペも出ない。トリの助は荒ぶる翼を抑え込んだ。


「それでは材料を教えていただけますか?」

「はあーい、長ネギ、鶏もも肉」

 トリの助がごくんと喉を鳴らした。

「あと調味料ですね、醬油、砂糖です」

「それだけですね?」

「それだけです、焼き鳥なので」

 品川先生は頷いた。トリの助の翼が少し動いた。


 では品薄クッキング~スタート!


「さあ、それではまずはどうしましょう?」

「はあーい、まずは下ごしらえですね。ではまず鶏肉がここにありませんので、トリの助さん、とりに行きましょう!」

「はっ、はい……」

 トリの助のトサカが震えた。



 SHINAUSU Cooking~(重低音イケボ)♪



「さあ、ええ……」

「どうしました?」

 トリの助が放心している。何を隠そう、ここは鶏肉生産ラインだからである。さっきからトリの助の前に丸裸の肉にされた鳥たちが生前の姿そのままに流れているのだ。ADがトリの助に向かって「説明と感想を」とカンペを出した。

「あ、ええと」

 トリの助が口をパクパクさせるがマイクに音が入らない。ADが「もっと大きな声で」とカンペを出した。

「ここが生産ラインでえす、ああすごい光景ですね」

「そーですね。我々はこの子たちの貴重な命を頂いているわけですからね。感謝しないといけませんね」

 品川先生が手を合わせて目をつぶった。トリの助も目をつぶって翼を畳んだ。



 SHINAUSU Cooking~(情熱をかきたてるように)♪



「はい、スタジオに戻ってまいりました。では再開しましょうか」

 トリの助の目はずっと目の前のテーブルに置かれている鶏肉に向いている。

「はあーい、まな板がきれいなうちに」

 品川先生がテーブルを見渡した。鶏肉しかない。

「長ネギを切ろうと思いますので」

 先生がトリの助にウインクした。

「行きましょう」

「はい」

 トリの助は死んだ目で深くうなずいた。


 SHINAUSU Cooking~(心の底に忍び寄るように)♪



「ええ」

 受験に落ちた直後の虚無感がトリの助に絡んでいた。

「ここが」

 トリの助はもはやカメラを睨んでいた。

「ネギ畑ということですね」

「そーですね」

 品川先生が微笑んだ。

「私、ネギ大好きなんですよ~!」

「あ、そうすか」

 トリの助に向かってADが「もっと元気に」とカンペを出した。ただ彼に有害植物だらけのこの場所で気丈に振る舞うことなど不可能だった。トリの助の翼はもう動いていない。

「ええ、こちらが生産者でネギ芸人のほっしー★さんです」

「どうもー!」 

 ひょうきんな出っ歯の男が出てきた。トリの助の睨みが男の方に移った。そのようなことは知らず、ほっしー★はくねくね踊り始める。

「ネッギ、ネギネギほっしー★でえす! ビタミンBにビタミンC、アミノ酸と栄養豊富、疲労回復、風邪予防、あよいしょっ! ネッギ、ネギネギほっしー――」



 SHINAUSU Cooking~(吹き散らす風のように)♪



「スタジオに戻ってまいりました」

 トリの助はホラー映画を見るかのごとくちらちらと目の前の材料を見ている。

「ではどうぞやってください」

「はあーい、じゃあネギ切っていきますねー」

 トリの助には包丁が断頭台に見えた。ネギが、そして鶏肉が切り刻まれていく。彼はそのたびに唾を飲み込んだ。

「ではフライパンで焼いていきますー!」

 もちろんこの間にも調味料を求めて外出したのは言うまでもない。


 肉やネギが鋼鉄のコロシアムの中で転がされたり裏返されたりして、トリの助が白目を剥いた。そして遂に――。



 SHI・NA・U・SU~? Cooking(道を尋ねようと思ってやっぱりやめときながら爽やかに)♪



「できましたー! 焼き鳥です!」

 品川先生が満面の笑みで皿に盛りつけた焼き鳥をカメラに見せつけた。

「あれトリの助さん?」

 ADが必死にカンペを出した。「意識取り戻せ」

「試食ですよ?」

 トリの助は白目を剥いてブルブル震えるだけだった。


 フライパンで5時間! カンタン焼き鳥! 皆さんも試してみてはいかが~?







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

材料が足りないのでその都度買いに行く鳥MCの料理番組 ケーエス @ks_bazz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ