城ケ崎先輩の役に立たない焼き鳥アイデア
タカば
城ケ崎先輩の役に立たない焼き鳥アイデア
うちの大学には変な先輩がいる。
名前は城ケ崎芽衣子。
一年先輩の彼女は、そこそこの頻度で大学にやってくる、そこそこ不真面目な学生で、結構な頻度で俺についてきて、そこそこの時間まで俺の部屋にいりびたる。
そして、毎回独自のアイデアを披露するが、だいたい役に立たない。
実に面倒な先輩である。
「真尋くん、いいことを思い付いたぞ」
「……何ですか」
そろそろ腹時計が食事をとれと主張し始める夕食時。ドアを乱打する狼藉者が現れたので、玄関に行ってみると、そこには城ケ崎先輩が立っていた。
「焼き鳥を食べればいいんだ!」
ずい、と焼き鳥が詰まったパックを突きつけられる。
相変わらず、彼女の台詞には結論しか存在しない。いつどこで誰がどうしたら焼き鳥の話になるんだ。
「だって、今日はゲーム大会だろう?」
「確かにそのつもりですが……」
今日は新作ゲームの発売日だ。内容は単純。巨大なモンスターを狩って狩って狩りまくる、爽快アクションゲームもの。俺も先輩もシリーズファンで、今日は一晩中ゲームして遊ぶ約束になっていた。
ゲーム中に何を食べるかまでは約束していなかったが。
「いいかい、真尋くん。ゲーム大会ということは、食事中もゲームで遊ぶということだ。だがしかし、コントローラーを握ったままでは、食べられるものも食べられない!」
「ワンハンドで食べられるファストフードが定番ですね」
「ファストフード、悪くない選択肢だ。しかし、ハンバーガーは片手で持つと間から具がはみ出るし、フライドポテトは手が油まみれになる! 同様の理由でフライドチキンもゲームごはんには向いていない!」
「……ピザは?」
「あれは具とチーズが垂れるじゃないか!」
「そういえば、この間ピザソースをこぼして服にシミ作ってましたね」
「その記憶は消去しろと言ったはずだ! とにかく、ゲームしながらでも食べられる料理は意外に少ない!」
ゲームしながら食事しない、という選択肢はないんですか。
「そこでこの焼き鳥だ! 串がついているから、手が汚れない! それに串が刺さっているから、ゲームしながら口に咥えていても崩れない!」
それ、めちゃくちゃ行儀悪くないですか。
食事中にゲームやってる時点で、そこそこ行儀悪いですが。
「……でも、この焼き鳥タレ味ですよね? パックにいれて振り回したせいで、持ち手の串のところまでタレでべたべたになってますよ。これをつまんだら、結局手が汚れませんか」
「あああああああっ!」
城ケ崎先輩は玄関に崩れ落ちた。
しかし、焼き鳥のパックはしっかり持ったままだ。食べ物は粗末にしたらダメだからね。
「我が計画は破綻した……ん?」
ふと城ケ崎先輩が顔をあげた。
「真尋くん、何かいいにおいがするぞ。カツっぽい感じの……」
「ゲーム大会用に、揚げ物を作ってたんですよ」
「なに?! わざわざ家で揚げ物を作ってくれてたのは嬉しいが、油ものは手が汚れるぞ! コントローラーをギトギトにする気か!」
「そう思って、串揚げにしてみました」
俺はちょうど今出来上がったばかりの皿を先輩に見せた。
串を打たれた一口サイズの野菜や肉が、カツの衣を纏って並んでいる。
「これなら、手を汚さずゲームしながら食べられる……私の問題点を全てクリアするとは! く、悔しいが……おいしそう……」
「関西風ソースもありますよ」
「二度漬け厳禁のアレだな! それ絶対うまい奴じゃないか!」
城ケ崎先輩は串揚げを見つめた。すっかり俺の料理に目を奪われた彼女の手の中で、焼き鳥のパックがへしゃげる。パックの端からたれた焼き鳥のタレが、そこそこたわわな胸の上に垂れそうだ。
俺は彼女の手から焼き鳥のパックを取り上げた。
「せっかく買ってきてくれたし、こっちも食べましょう。串のタレを拭いたら、ゲーム中は手が汚れないでしょうし」
「ごちそう二倍だな!」
今日も城ケ崎先輩のアイデアは……焼き鳥がそれなりにおいしかったから、役に立たなかったわけではないか。
城ケ崎先輩の役に立たない焼き鳥アイデア タカば @takaba_batake
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