5.
頭からシャワーを浴びて、適当に髪や身体を洗う。あの様子を見るに、十年前のことを思い出した様子は無かったなと息を吐いた。もしかしたら、絞殺している時に無意識化で思い出したのかも知れないけれど、全部を覚えているわけではないようだから、それでいいと思った。
俺も蓮も、親元から離れて暮らしている。同じ県に住んでると言えど、地元から大学のある市までは時間がかかりすぎる。そのため安いアパートを借りてはや三年目になる。時間や金がかかるのも本音だが、一番の理由はあの家の空気に耐えられそうになかったからだ。きっと高校卒業までは、と両親は我慢してくれていたんだと思う。それでも、あの日を境に日に日によそよそしくなっていく両親と、時折聞こえる怒鳴りあう声が、どうしても嫌で仕方がなかった。
「柚、いつまで入ってんの」
扉の外から聞こえてきたノックと声に、現実に引き戻されたことを悟る。泡も、物思いも、全部流してしまえ。そうしてバスタオルで身体を拭いて、用意していた服を着る。髪は乾かさなくていいか。短髪ってこういう時に非常に楽だ。蓮の買ってきたカツサンドを奪って、平らげてやる。文句を言う口に、買い置きのスナック菓子を突っ込んで黙らせた。やっぱり、石鹸の匂いだね。なんて言葉は、気付かないふりをしてしまうことにした。
蓮の監視体制と言うのは、拍子抜けするほどに緩いものだった。出掛ける時にはついてきて、スマートフォンを弄れば横から時折覗き込む。電話をする時はスピーカーにすること。それくらいの監視で、とりわけ不便でも不愉快でもない。ただただ、いつも通りの彼がそこにいるだけだった。
僅かに変化があったのは、その日の夜だ。ちゃっかり布団を持ってきた蓮と並んで各々寝床についた。そうしてそのまま、目を閉じた。
気がつけば、酷くくらい山の中にいた。一人ではない。隣には似たような年代の青年がいて、それが蓮だということも分かった。ああ、これは夢だ。あるいは、記憶を遡っているのかもしれなかった。
二人で、穴を掘る。深く、深く掘る。ザク、さく、カツン。硬いものに当たる音がして、ああ、また石が埋まっていたのか、と覗き込めば、そこには骨があった。正真正銘の、骨だ。一人分の骨が、ここに埋まっている。それが、やけに恐ろしかった。蓮はそれを気にも留めずに掘り進め、横にあった袋から、元カノを引っ張り出した。それを穴に入れて、元のように埋めようとした瞬間に、足首を掴まれた。
「柚くん、どうして」
死んだはずの彼女が、記憶の中の声そのままで喋りかけてくる。
「どうして、ねえ」
「蓮くんのせいなの?」
「貴方も同罪よ」
「酷いひと」
止まらない声が、俺を責め立てる。それがどうにも恐ろしくて、息が、上手く吸えない。罪悪感を、覚えているのだろうか。ああ、視界が白い、誰かが呼んでいる、ような?
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