第93話 捕虜交換の旅です。
えっと、フィリベルトです。
カミロ・グリエゴ公爵の返還が決まりました。
捕虜になった兵士たちは、既にラフティーの街でファルケ王国へ返還されており、ファルケ王国から結構なお金と結構な食料を頂いたということです。
その一部がケイン・ハイデマン伯爵の所にも回ってきています。
ケイン様ホクホクです。
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「何で私がファルケ王国の王都まで連れて行く必要が?」
ケインが聞くと、
「え……お前が見たいんだってさ」
バージルが軽く言った。
「それに、お前が行くのなら、護衛が少なくて済むだろ?
兵を動かせば、その分の食料と金が要る」
「身代金をふんだくったって聞いてますが?」
「それはそれ……。
国内の整備に使うさ。
お前だって、一部は貰っただろう?」
「褒美だと思っていましたが?」
「お前への褒美はリズだ」
「酷いですね」
「嫌なのか?」
「そりゃ、欲しいですよ。
だから、頑張っているんです」
「その弱みに付け込むのがこの王なのだ!」
バージルわっはっはと胸を張る。
(弱みに付け込んでるってオッサン言い切ったよ……)
ケインはバージルを睨む。
しかし、
「護衛は、そっちで準備してくれ。
食料も持っているだろう?」
という言葉で、ケインはトビケンに行くことになった。
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ってな話を俺はケイン様から聞かされたうえ、
「という訳でフィリベルト、一緒に頼む」
とケイン様が俺に言ってきた。
意味が分からず、
「何で俺なんっスか?」
俺は当然聞き返す。
しかし、ベルト様から情報が漏れていたようで、
「えっ、父さんに強いって聞いてるから。
ドラゴンくらいは片手なんだろ?
ミンクの一撃にも耐えたとか?」
俺のことを話すケイン様。
「ミンク様の一撃に耐えたのはベルト様ですよ。
それにドラゴンを片手という訳には……」
正直、今の俺なら、野良のドラゴンぐらいは一撃ではあるが、それは言わない。
何とか言い訳をして、何とか逃げようとしてはみたが、
「まあ、それでも、父さん並みにはなっている訳だ」
とケイン様は引かなかった。
「で、何で俺なんっスか?」
もう一度理由を聞くと、
「俺が一人で動くと婚約者が増える……と、うちの婚約者たちが警戒していてな。
実際、アネルマやミアのこともあって、俺が動く時には戦える強い奴を前に出そうという事になった。
要は、俺の壁だ」
とケイン様は事情を俺に言う。
「だったら、ベルト様でも!」
「父さんは母さんとの仲を考え、同行しないらしい」
(ベルト様、ミランダ様にぞっこんだからなぁ……。
その点は、ケイン様と違うよなぁ……)
ケイン様を見ながら考えていると、ケイン様が咳払い。
「同行するなら二人で……と言ってたけど、俺がトビケンに行くと魔法師団の教師役が居なくなるから母さんは行けないんだ。
まだ、ディアナも小さいし。
そこで、若くて独身者で強い男というと……」
ケイン様が俺を見る。
(ミランダ様、育児をラクザルに任せてるの知っているんっすよ!)
っていうのは言わない。
「え~~。
結局ケイン様の婚約者絡みじゃないですか」
文句を言ってみたが、
「仕方ないだろう?
一人でウロウロしたら、知らない間に一人増えるんだ。
お前が動いてくれたら、俺の代わりにイイトコの女性といい感じになるかもしれないぞ?」
と俺の肩を力いっぱい掴んで言う。
「イダダダダダ……。
痛いですよ!」
「おお、すまん」
「俺、そういうの要りません!
それに、獣人なんて相手する女性なんて居ないでしょ?
従者にだってするのも珍しいんですから」
俺が言うと、
「そうなの?
そうなんだ」
今更ながら知ったとでもいうようにケイン様が言った。
この世界では獣人の人口比が違うせいか、人間は獣人を見下す傾向にある。
ベルト様のように本来の能力を見てくれる者ならいいが、そうでない者も居るのだ。
そのへんはベルト様に教育されているケイン様も人間だからとか獣人だからとかいうのは気にしないらしい。
はあ……と、俺はため息つき、
「意外とうちの騎士団や兵士って獣人多いんですよ?
だから、うちのベルト様や気にしないケイン様は珍しいんです」
というと、
「そうなのか?
まあ、いいじゃん」
相変わらず軽い。
「で、どうする?」
ケイン様が聞いてきた。
「ベルト様に言われていますから行きますよ」
カミラ様の意見がミランダ様に届き、ベルト様から俺に伝わったようだ。
師匠であるベルト様の言う事は聞くしかない。
再び俺は、はあ……とため息をつくと、
「はいはい、ケイン様の従者でいいんですね」
俺が聞くと、
「ああ、それで頼む」
ケイン様が言った。
こうして俺も、ケイン様の従者としてトビケンに向かうことになる。
とは言うもののカミロ・グリエゴ公爵がラフティーの街まで到着するには時間がかかる。
カミロ・グリエゴ公爵には、ダンジョンによるバイパスを知られてはならない。
そのためにラフティーの街までは、ゆっくりと護衛付きの馬車で移動してもらうことになっている。
まあ、移動だけでも結構かかる。
ラフティーの街に到着すれば、連絡が来ることになっているから、それまではベルト様とダンジョンに入ったり、訓練の日々だろう。
まあ、俺も旅は嫌いじゃない。
楽しみにしておきますか……。
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えーっと、引き続きフィリベルトです。
前回の報告からしばらく経ち、現在、トビケンに向けて移動中です。
ちなみに周りは全てファルケ王国の兵士です。
五十名ほどでしょうか。
(しかし、いくら兵士が少なくてもいいって言っても、俺とケイン様だけってどういうこと?)
俺は見回してしまいます。
「んー、俺でも何とかなるんだけど、フィリベルトが居ないとカミラたちに怒られるから……」
「とばっちり……って奴ですね」
「そうだな、王から俺への依頼が、お前に飛んだって感じだ。
諦めろ」
(ハイハイ、諦めてますよ……)
俺は「はあ」……とため息をつく。
この任務を受けてから、ため息が多くなったような気がする。
ケイン様はライアンに乗り、俺はファルケ王国のカミロ・グリエゴ公爵を乗せた馬車に乗り、ラフティーの砦から外に出てしばらく行くと、そこで大勢のファルケ王国の兵士と合流。
カミロ・グリエゴ公爵が乗った馬車を引き渡し、俺はファルケ王国が連れてきた馬に乗り換えていた。
おっ、デカいな。
しかし手綱を扱うが、言う事は聞かない。
暴れ馬って奴か?
ファルケ王国の兵士がニヤニヤと笑っているのが気に入らない。
ロウオウよりは小さいか。
ライアンよりも……。
「フィリベルト、いつまで遊んでいる?」
ケイン様が言うので、
「仕方ないですね」
殺気を出すと、馬が暴れなくなった。
「行くぞ」
俺が声をかけるだけで駆け足を始めると、ファルケ王国の兵士が唖然とする。
「いい馬をありがとうございます」
俺は嫌味を言う。
まあ、確かに気は強そうだが、ミンク様には負ける。
(おっと、気をつけねば。
あの
「なぜ殺(や)らん!」
カミロ・グリエゴ公爵の声が聞こえる。
ツカツカとケイン様が馬車に近づくと、馬車の壁越しに手を突っ込み、カミロ・グリエゴ公爵の首根っこを掴んだ。
「カミロ・グリエゴ公爵。
ここからは、あなた達の国です。
しかし、俺は客人だと聞きました。
そして、俺の従者にいたずらをするのは勝手ですが、俺や従者がそのせいで言うことをきかなくなったり、カミロ・グリエゴ公爵が生きて帰らなかったりしても、あなたが責任を取ってくださいね」
カミロ・グリエゴ公爵を近づけ、窓越しに睨み付けるケイン様。
そして、指に作った青い魔力の球が高速で平原に飛んでいくと、大きな爆発を起こし、きのこ雲が上がる。
数秒後に凄い突風が俺たちを襲った。
馬車が倒れそうになる。
ケイン様ときのこ雲を見比べ、再び唖然とする兵士たち。
すると、
「調子に乗ると国が無くなりますよ」
ケイン様が公爵を見てニヤリと笑うのだった。
(俺へのイタズラの報復のため?
それとも、公爵の言葉にムカついたから?
まあ、どっちにしろ悪役は苦手なくせに……)
俺はケイン様を見て苦笑いする。
俺たちを置いていくように、ファルケ王国の護衛部隊がカミロ・グリエゴ公爵の馬車を囲み進み始めると、俺も後を追った。
ケイン様のアピールのお陰か、兵士が寄り付きもしない。
どこかの村で宿に入ると、夕食になる。
そして、「お前が行け! お前が行け!」な騎士たち。
(まあ、あの魔法見たあとじゃなぁ……)
しかし、その中から一人の気が弱そうな女性が押し出されるように出てきた。
そして、
「お食事をお持ちしました」
震えながら食事が乗ったトレイを持ってきた。
(俺たちはバケモノか何からしい。
一応、ケイン様は「バケモノ」と言われてるしなぁ……)
ケイン様をチラリと見る。
「ありがとう」
ケイン様が言うのに合わせ、
「本来は私が取りに行かなければならないのに申し訳ありません」
と俺が言うと、
「えっ?」
と女騎士は驚いていた。
「持ってきてもらって礼を言う事に驚く理由が?」
ケイン様が聞く。
「それは……。
思ったより普通だったから……です」
「ああ、この人は基本普通ですよ。
剣と魔法が半端ないだけ。
やらかすことがデカいんです」
俺が言うと、
「そういう事。
こんな風になる予定じゃなかったんだけど、いろいろあってこうなってしまった」
俺は女騎士に、
「主に女絡みですけどね……」
と耳打ちしておく。
「お前、余計なことを言うな!」
「こういう事を言っておけば、女性は引くのでは?」
「そうかもしれないが……」
冷めた目で見ている女騎士。
「話が長くなったね。
じゃあ、いただくとしよう」
ケイン様が食事を食べ始めた。
すると、
「毒が入っているとは思わないんですか?
ただのバカか豪胆なのか」
(すげっ……ケイン様に対して、この女騎士……バカって言うんだ……)
俺は驚いた。
そして、
「入ってたら入っていた時。
まあ、フィリベルトは死ぬかもしれないけど、俺は魔法が使えるから」
(えー、俺死ぬんっすか?)
嫌な顔をしてケイン様を見ると、
「即死じゃなきゃ、魔法で治すさ。
それに、お前は鼻がいいだろ?
毒が入っていたらわかるはずだ」
と俺に言った。
「まあ、そうですけどね」
俺は鼻を掻く。
俺とケイン様の会話が面白かったのかクスクスと女騎士が笑う。
「しかし凄いですね。
この殺気の中を余裕なんて……」
というと、
「ああ、これくらい、某カイザードラゴンの威圧にはかなわないよ」
「ちなみに、この人の周りには、まあまあなバケモノも居るからね。
だから、バケモノって言われてるんっスよ」
ケイン様と俺は答えた。
「さて、あまり俺たちと話をしていてはいけない。
嫌われても困るしね」
ケイン様が言うと、
「名前を言っていませんでしたね。
私の名はエレン。
お二人のお手伝いをすることになります」
「俺がケイン。こっちが……」
「フィリベルトです。
よろしくお願いします」
俺とケイン様は頭を下げるのだった。
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