第91話 (閑話)訓練です。

 えーっと、とある騎士です。

 ケイン・ハイデマン伯爵に雇われました。

 鬼神でしたっけ?

 試験の際にはベルト様にボコボコにされましたが、見どころがあると雇われた次第です。

 自分に見どころがあると言われるのは嬉しいもんです。


 雇われた後、訓練が始まります。

 するとある日、ベルト様が女の子を連れてきました。

 浮気ですか? 浮気なんですか? 職場でイチャイチャ?

 想像しながらニヤニヤしていると、女の子が光り、ラムル村の訓練場に洞窟が一つボコンとできました。


 えっ?


「ミンクちゃんありがとう」

 ベルト様がそう言うと、

「いつでも言えばいいぞ」

 と言って、女の子はラムル村の伯爵の屋敷に走って行きました。

 ディアナ様と遊ぶそうです。


「さて、入るぞ」

 とベルト様と一緒に洞窟の中に入れば、魔物がウヨウヨ。

 見たところオークです。

 上位種のハイオークも居るようです。


「じゃあ、訓練する。

 ここに居るオークどもを倒せ!

 一人で一匹倒すのはお前らじゃギリギリ難しい。

 だから、お前ら三人にオーク一匹程度になるように考えてやるんだ。

 決して、一人で相手しないように。

 あと、倒したオークは触っておくように。

 回収するからな」

 ベルト様は背後からオークに襲われていたが、振り向きもせずに剣を突き出し、オークを倒しました。


 すげー、ベルト様すげー。


「そうだ、ケインが居れば治療できるが、今は居ないので助けられない。

 怪我しないように」

 そう言うと、ベルト様はオークの中に突っ込んでいきます。

 一刀の下に、オークが斬り捨てられていました。


 我々の三人組は、あらかじめ決められており、そのメンバーで戦います。

 でも、最初の一頭が大変でしたが、倒すたびにオークが弱くなっていくのがわかりました。


 あれ? オークってこんなに弱かったっけ?

 倒したから強くなった?

 魔物を倒せば、魔力の一部を体内に取り込むと聞いたことがあります。

 しかし、実際にそんな訓練をさせられるとは思いませんでした。


 倒すたびに強くなることが嬉しくて、途中からは、皆ヒャッハーと叫びながらオークを狩ってしまいます。

 そのうち、オークでは物足りなくなり、必死になって上位種を探すようになりました。

 そして、全てのオークを討伐しました。


「はい、今日はこれまで。

 誰も死ななかったな!

 良かった、良かった」

 ウンウンとベルト様は満足げに頷きます。

「次はリザードマンだから、もっと強くなるぞ。

 最終的には野良のドラゴンぐらいは一人で狩れるようになろう」

 ベルト様は恐ろしいことを言いました。

 リザードマンは龍の因子を持っていると言われ、剣だけでなくブレスも使うと言われています。

 私は戦ったこともない相手です。

「どうやって勝てば?」

 騎士の一人が聞くと、

「首を飛ばしたら絶命する」

 と、一言。


 ベルト様、それはどんな魔物でも当てはまります。


「それに、リザードマンは尻尾でバランスを取っているからな、尻尾を斬れば動きが悪くなる。

 敵の弱点をつくのは当たり前のことだ。

 理解しておけ!

 それと、一対一でなければ、何とかなる。

 今日はそれぐらいの力はついている」

 熱く語るベルト様。


 そんなこと当たり前のように言われましても……。


「ちなみに、ベルト様はダンジョンをどこまで?」

 別の騎士が聞くと、

「ああ、カイザードラゴンと戦った。

 さすがに一撃で負けたがね」

 と苦笑いしていました。


 え?

 最下層まで行っている?

 だからあの速さで動ける?

 そう言えばオークのこん棒を片手で受け止めていました……。


 洞窟から出ると、日が傾きかけていました。

 空も赤くなってきています。


 朝からずっとでしたか……。


 外には多くの荷馬車と屈強な冒険者が並んでいました。

 その中に小太りな商人。

「ルンデルさん。よろしくお願いします。

 数としては百ぐらいでしょうか」

「はい、ベルト様お任せを」

 そんな話が終わると、

「冒険者の方々、中のオークを荷車に。

 早々に解体しなければいけません」

 ルンデルと言われた商人が冒険者に指示を出すと、冒険者が荷車を引いて洞窟の中に入り、オークの死体を持ち出します。

 しばらく見ている間に全てを運び出したようでした。

「ケイン様に、いつも通りにしておきますと連絡をお願いします」

「畏まった。

 次はリザードマンだ。

 剣や鎧を着た者も出るだろう。

 もう少し人手が要るかもしれないな」

「了解しました。

 また連絡させてもらいます」

 話が終わると、ルンデルという商人は去っていきました。


「今日の晩飯はオーク肉だぞ。

 帰って風呂で汗を流せ!」

 ベルト様は颯爽と先頭を歩き、宿舎に向います。


 俺たちが倒した魔物の収益は我々に還元されています。

 当然伯爵の懐にも入るらしいのですが、確かにうちの騎士団の宿舎は綺麗で布団もフカフカ、食い物もうまいのです。

 風呂も付いていて何なら給料も高いぐらい。

 俺はこの騎士団に入ってよかったと思います。

 強くなっているのもわかります。


 次はリザードマンかぁ……頑張らないとなぁ……。


 そんなことを考えていますと、オーク肉を回収しに来た冒険者の一人がベルト様の連れてきた女の子に絡んでいました。

 助けねばと私は近寄りますが、その前に女の子の見えない拳が冒険者の鳩尾に刺さります。

 豪快に嘔吐する冒険者。

「運が良かったな。

 昔の私なら、お前たちなど肉片になっていただろう。

 今はケインに勝手に殺すなと言われているから、手を抜いている。

 私はミンク。カイザードラゴンだ。覚えておけ!」

 女の子は冒険者を一瞥すると去っていきました。

 あの女の子はベルト様より強いらしいです……。


 カイザードラゴンが闊歩するこの村。

 大丈夫でしょうか?

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