第84話 ファルケ王国へ行くことにします。
(暇だ……。
砦も準備して、あとはファルケ王国が来るのを待つだけ。
しかし、いつ来るのかもわからず、とにかく暇だ。
執務関係は、ルンデルさんに任せてあるしな……。
やるのも決済のみ。
俺居なくても領地経営は勝手に進む……。
まあ、上手く回っているってことなんだろうけど、俺って要るの?)
ケインはエリザベスの護衛で馬車に乗りながら外を見て考えていた。
そんな様を見て、
「どうかしたのですか?」
と聞くエリザベス。
ケインは視線をエリザベスに向けると唐突に、
「リズ、ファルケ王国に行ってみたいんだが……」
と言う。
「なぜ?」
驚くエリザベス。
ケインは素直に、
「ん、行ったことないから。
正直暇なんだ。
今のところファルケ王国からの進軍もないようだし、向こうの様子も直接知りたいし」
と頭を掻きながら言う。
すると、エリザベスが、
「許可が出るかしら?
国交もないのよ」
と難しそうな顔をするが、
「んー、行くなら一人で行こうかとは思ってる。
ミンクに乗ってファルケ王国側に出たら、あとは旅人風に向こうの王都でも目指すかな。
国境を越えてしまえば勝ちだと思っている」
とどこ吹く風。
「帰りは?」
レオナの問いに、
「帰りはこの指輪でミンクを呼んで帰るさ」
とミンクの指輪を指して答えると、
「確かに、ケインだったら、行軍を確認してから帰って対策できる訳か……」
ラインが頷いていた。
(おっと、その通り)
ケインはラインを見てしまう。
すると、
「そうね、王宮に戻ったらお父様に聞いてみる。
ただ、ファルケ王国の方に渡ったからって、ファルケ王国の侵攻については忘れないでね。
一応、ファルケ王国の様子を見に行くってことにするんだから……。
まあ、ケインなら殺されたりはしないだろうけど」
エリザベスはヤレヤレとでもいうふうにケインを見て言うのだった。
結局のところ数日後には、王城から「ファルケ王国の様子を見て来るように」という手紙が来る。
エリザベス情報では、
「あいつなら死なないだろう。
下手すりゃ、ファルケ王国を潰してくるかもな。
もしかしたら、新しい女を連れてくるかもしれないぞ」
と笑っていたという事である。
(変なフラグを立てないように。
多分、そんなことはない。
多分……きっとね……)
自信なくケインは思う。
そして屋敷の庭でミンクに乗るケイン。
「旦那様、お気をつけて」
「ご主人様、あとのことはお任せを」
カミラとミラグロスが見送る。
「じゃあ、ミンク頼むよ」
ケインの言葉で、ミンクは空に飛びあがった。
ケインは事前にファルケ王国へ行く日時を教えていたので、途中、ルンデルの家の上と、ラインバッハ侯爵家の上、王城の上を飛ぶと、小さくレオナやライン、エリザベスが手を振っているのが見える。
高空から山道沿いに国境の町と言われるラフティーの街を超え、ファルケ王国に入る。
そのまま、ファルケ王国の王都へ向かう途中の平原で、ケインはミンクから降りた。
「ありがとな」
というと、
「呼び出しを待っているぞ」
と言ってミンクは舞い上がる。
点になるミンクを見つめ、街道に出ると、ケインはファルケ王国の王都に向かった。
「そういや、一人旅なんてこの世界に来て初めてか……。
向こうではバイクに乗り始めた頃に北海道へツーリングに行ったことはあったが……」
空を見て呟く。
ケインはというと、腰には昔ベルトに貰ったミスリルの剣をナイフ代わりに腰に履き、ズボンにシャツ、厚手の服を着た軽装。
あとは簡単な着替えをワンショルダーの袋に入れた程度。
手を突っ込んで、収納魔法を使えば、あまり目立たないだろうというアーネの配慮だった。
その上からマントをつけた旅人風である。
雰囲気はケイン的にイタリアとか地中海周辺の国のような少し乾燥した雰囲気。
日差しは強く、ラムル村より少し暖かい。
言葉は一緒で、問題は感じなかった。
(そう言えば、街道沿いはあまり大きな木は無いな)
ファルケ王国を歩きな感じたケインの感想である。
そして、ケインはファルケ王国の王都に入る。
比較的冒険者には甘いようで、ケインの名前のまま普通に中に入ることができた。
ケインは早速冒険者ギルドに向かう。
そして、依頼を見た。
王都周辺は商人の移動が多いようで、護衛の依頼が多い。
街道沿いの森に出たという魔物や盗賊の討伐依頼なんかも出ていた。
そして、傭兵の募集。
そんな中アネルマ・メルカドという名があった。
月給が銀貨三十枚らしい。
それが高いのか安いのかはわからないが、他のものに比べれば高い。
ケインは依頼票を千切ると、ギルドの受付に渡す。
すると、
「この場所に行って、メルカド伯爵家の試験を受けてください。
試験を受けて、合格すれば、傭兵として雇われます」
と受付がケインに紙を差し出した。
紙には冒険者ギルドから試験場までのルートが書かれている。
それに従って街の中を歩くと、ケインは少し広い場所に到着した。
髭もじゃのフルプレートの鎧を着た男が立ってる。
軍の中ではそれなりの地位なのかもしれない。
(軍曹と言ってしまいそうだな)
ケインはその姿を見て思った。
「えーっと、傭兵を募集しているとか?」
ケインが言うと、
「おっ、おお、そうかそうか……。
若いのに我がメルカド伯爵家を選ぶとは、なかなか見どころがある」
(ご機嫌だな。このオッサン)
近寄って来た男を見ていると、
「それでは試験をする。
メルカド伯爵家は武を重んじる。
そこに居る手練れ三人と模擬戦をして勝てば合格だ」
と男は言った。
すると、ブレストプレートをつけ、槍を持った兵士が前に出てくる。
「えーっと、この三名を?」
とケインが聞くと、
「ああ、この三名だ」
頷く男。
適当な木剣を手にして広場の中央に行く。
三人と正対すると、男の「始め!」の声が響く。
三人が同時に動き、上中下段と槍で突いてきた。
(某映画の三銃士?
スパルタンなんちゃら)
俺は横に避け、一番上の槍を掴んで下げ、足で踏みつける。
「ムッ……動かん」
「何!」
「こいつ!」
声が響く。
その間に、一番近くの男の首元に剣を置くと、負けが確定し、その男はその場から離れる。
「槍を放せ!」
二人は槍を手放し、ケインを前と後ろから挟んだ。
「小僧のくせにやるな」
そう言ってケインに飛びついてきた男の手を取ると、そのまま腰に乗せ一本背負い。
受け身も取れずに、そのまま「グエ」と言って気絶した。
「隙アリ」
の声で最後の男が動く。
(声なんて出さなきゃいいのに……。
気配感知を使っていたので、出さなくてもバレバレなんだが……)
ケインは伏せて後ろからつかみかかろうとした男の腕を躱し、足払いで倒す。
そのまま剣を胸に置いて、模擬戦は終わった。
「やるではないか!
名は何という」
バンバンとケインの背中を叩きながら男が聞いてきた。
(苗字を言わなければ問題ないか……)
「ケインと申します」
と言ってケインは頭を下げた。
「そうか、ケインか。
しかし、我がメルカド伯爵家ではケインという名は鬼門なのだが……」
「仕方ないですね。
親に貰った名なので……」
ケインが言うと、。
「確かに仕方ないな」
男は納得すると、
「うん、合格だ!
早速屋敷に向かうぞ!」
と、バンバンとケインを叩く。
(結構、痛い……)
ケインが苦笑いしながら
「あっ……はい」
と男へ返事すると、男は歩き始める。
しかし足を止めると、
「お前たちは、デオルが目を覚ますまでここで待機。
私が戻るまでは、傭兵の試験は待っていろ」
と指示を出すのだった。
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