第38話 トーナメントのあと。

 ふう、疲れた……」

 ケインは家のベッドで横になる。

 横にはカミラ。

「そう?

 そんな風に見えなかったけども?」

「疲れたものは疲れたよ。

 気は使う。

 リズやラインに怪我をさせちゃいけないからね」

「優しいのね」

「俺は優しくないか?」

「んー、優しい」

 そう言って、ケインに抱き付くカミラ。

「でも、ケインは男爵様になるのね」

「みたいだねぇ。

 目指していたとはいえ、いきなり父さんを越えるとは思わなかった。

 父さんも母さんも何か考えていたみたいだし」

 学校祭の夕食で、

「完全優勝だな。

 おめでとう」

「ケイン、頑張ったわね」

 と二人は言葉でケインをねぎらった後、何の会話も無かったのだ。


 次の日の朝食後、

「ケイン、話すことがある」

 とベルトが静かに言った。

「何、父さん」

 ケインは改まってベルトのほうを見る。

 するとベルトが、

「私は王都の騎士団をやめる」

 とケインを見て言う。

「えっ、やめてどうするんですか?」

 驚きながら聞くと、

「お前の下で働く。

 お前も今後騎士を雇い、兵を持たなければならなくなる。

 武の部分でしか支えられない俺でも、これなら手伝える。

 それにな、戦場での経験もお前の役に立つかと思う」

 ケインが唖然として聞いていると、

「昨晩、二人で話し合ったのよ。

 私もベルトも戦争向きではあるんだけどね、内政向きじゃないでしょ?

 でも、あなたの下に騎士や魔法使いが集まれば、その部隊の管理ならば私たちはできる。

 私たちがあなたにできることってそれぐらいだから、ハイデマン男爵付きの騎士と魔法使いになろうって……ね」

 ミランダは大きなおなかを摩りながらケインに言うのだった。

「父さん、母さん」

(俺の我儘に付き合ってくれる二人)

 知らぬ間にケインの目には涙が流れていた。

 

(俺はこの二人のお陰で、ここまで来れた。

 感謝しかない)

「ほら、男爵様になるんだから簡単に泣かない。

 私たちとカミラさんを飢えさせないように頑張りなさい!」

 と、ミランダに発破をかけられるのだった。


 瞬く間に話が王都中に広がる。

「新規に男爵になった生徒が居る」と……。



 ベルトが騎士団から与えられた家に、従者志望や騎士志望の者たちが入れ替わりに訪れるようになった。

 それをベルトがが

「同年齢なら俺とまともに戦えるのなら……。

 若くとも素質がありそうなら……」

 と言って相手をする。

 結局相手にならず追い返すことになっていた。

 ミランダも、大きなおなかで魔法使い志望の者たちをテストする。

 魔力を圧縮するという簡単なテスト。

 しかし、ミランダの眼鏡にかなう者はなかなか居なかった。

(厳しいな……)


 ケインはメイドと執事の手配をルンデルに頼んだ。

「娘の夫となる人の屋敷を預かるのです。

 誠心誠意探させてもらいます」

 と、気合が入っていた。


 暫くして、俺は王城に呼ばれ男爵の地位を得た。

 王都に屋敷を得て前の家よりは大きくなった。

「お前が当主だ。

 この部屋はお前が使うんだ」

 ケインは与えられた屋敷の一番大きな部屋を使うことになった。

 コッコーの小屋は移設。

 馬屋にはロウオウとジャージー。

 そしてケインたち家族だけ。

(ちと寂しいね)

 がらんとした屋敷を見てケインは思う。

(馬車が要るのか、馬だけでもいいが、一応見栄が必要とか……。

 これもルンデルさんに依頼だな。

 新品でなくてもいい、使えれば問題はない。

 御者も馬丁……庭師も要るのか。

 必要な人員がどんどん増える。

 ラムル村にも屋敷が要る。

 はあ、面倒ごとが多い)

 ケインはフウとため息をつく。


 陞爵して数日後。

 レオナの家で祝勝会があった。

 全員がお泊り装備。

 トーナメントの時にカミラと話をしていたのは、こういうことだったようだ。

「「「「完全優勝おめでとう」」」」

 カミラ、リズ、レオナ、ラインから声が上がった。

(なぜワインを飲み始める?

 陰にはルンデルさん?

 はあ……。

 何か間違いがあっちゃダメでしょう)

 考えているケインに、

「「「「男爵の叙爵おめでとう」」」

 再び声が上がった。

「私は男爵でなくてもいいのですが……」

「私もー」

 カミラとレオナが言った。

「うらぎりものー!」

「そうです、私だって平民に生まれたかった」

 ラインとエリザベスがレオナに言った。


「しかし、王が俺の事を色々知っていたのは何でだ?」

 リズの目を合わさない。

「王に情報提供をしていたのか……」

「いけませんでしたか?」

 窺うようにリズが聞いてきた。

「いいや、お陰で侯爵に近づけた。

 ありがとう」

 俺は頭を下げる。

「ケイン、頭を下げるのはやめてください。

 私はあなたのフォローをすると言いました」

 リズは少し心配そうな顔をすると、

「でも、いいのですか?

 在学中に戦場へ向かう必要があるかもしれません」

「在学中に戦場に行くのは問題ない。

 活躍しないと、二人に近づけないからね」

「本当に心配だよ。

 死んじゃわないか……」

「ライン。

 何もせずには君のところには行けないんだ。

 ラインの先祖が何十年、何百年にもわたって頑張ったから今の侯爵って地位がある。

 それを数年でやろうと思ったら、そのくらいは当然。

 だから、心配させるかもしれないが俺は戦場に行くよ」

「なぜ、数年?」

「どんなに頑張ったって、二人が『結婚しない』と言って突っ張れるのは二十までだろう?」

「「あっ……」」

 二人は気付いた。

「俺は今、十三歳。

 残り七年で、侯爵まで成り上がる必要がある。

 そのためには無理難題でも受けるしかないと思っている。

 たとえ『一人で一軍を相手しろ』と言われてもね」

(ラインはまだ比較的緩いだろうが、リズに至ってはそうはいかないだろう)

 ケインは思う。

「必ず帰ってきてね」

 ラインが言った。

「当然だろ?

 俺の配下に父さんも入ってくれると言ってくれた。

 だから、何とかなると思う」

「えっ、あの鬼神が?」

(死なない事にはならないが、死ぬ確率は下がるだろう)

「私も戦場には参ります。

 私はベルト様よりも強いですから」

 カミラが言った。

(現有戦力、俺、父さん(鬼神)、カミラ……母さんは妊娠中だから、一応戦力外。

 ああ、戦力増やさないとなぁ……)

 食事を終えて先に風呂に入っていると、脱衣所から姦しい声が聞こえる。

 そして、その声が近づいてくるのが分かった。


「何だ?」

 すると、タオルで前を隠した女性陣が現れる。

「マジか!

 いかんだろう……」

「ご安心を、護衛は眠らせてあります」

 カミラがニヤリと笑う。

「いや、眠らせていてもダメだろう」

「屋敷の者も離れに行かせたよ。

 父さんもラウンもね」

「それでも……」

「いいでしょ?

 見せたいんだから」

「あなたが私たちの裸を見た家族以外で最初の男性なのです。

 もし、あなたが間に合わず、私たちが別の家に嫁ぐことになってもこのことは忘れません。

 ですから、今日は一緒にお風呂に入って寝ましょう」

(そこまで言われたら……)

「わかったよ」

 こうして、ケインは初ハーレム風呂と美少女との雑魚寝を経験することになる。

 そして、

(はあ、頑張るしかないじゃないか……)

 と思うケインが居た。

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