第37話 褒美を貰いました。
そして、学校祭の日が来る。
校内には訓練場が有るが、そこはコロッセウムのよう。
更には観客と試合会場の間には魔法による防壁があり、観客への影響はないようになっている。
まずは剣術の試合が始まる。
複数に参加する者も考えられており、剣術、魔術、複合の順番になっていた。
試合会場の横で、俺とカミラ、レオナが居る。
「残ったのって全員四年生でしょ?
勝てるの?」
レオナが心配そうにしていた。
「レオナさん?
ケイン様は大丈夫です。
鬼神であるお父様に剣技が勝ります。
安心してください。
それでも油断はしてはいけませんが」
カミラが言うと、
「そのつもりで頑張るよ」
ケインは舞台に立つ。
最初の相手はフィリップ王子のお付き。
素早い動きで翻弄して片手剣で攻撃するタイプらしい。
「私よりは遅いですけどね」
ドヤ顔でカミラが言っていた。
「始めの声」でお付きはケインの隙を窺う。
(カミラの言う通り、速いけどまあ……だよな)
様子を見て右手首を狙うと、お付きは剣を落とす。
そして、審判から「待て」の声。
勝利を手にしてカミラとレオナの下に戻った。
「凄い、カミラさんの言う通り」
「でしょう?
ケイン様は強いのです」
フンと鼻を鳴らし、カミラが胸を張った。
続いて魔法戦トーナメント一回戦。
ラインが勝ち上がれば最終戦に当たる。
「今度は?」
レオナがカミラに聞く。
「発動は早い方ですが、精度が低い。
まあ、ケイン様の敵ではありません」
「カミラ、いろいろと調べているんだな。
まさか、隠れて学校内をウロウロしていなかっただろうな?
昔取った杵柄とか言って……」
カミラがギクリとわかりやすく反応した。
「少しでも不安要素を除去しておこうと思いまして……」
「ありがとな。
俺を心配してくれたんだろ?」
ケインがカミラの頭を撫でると、カミラは気持よさそうな目をした。
「それ羨ましい。
私だって飲み物の準備をしているのに」
「はいはい」
そう言ってレオナの頭を撫でると、
「『はいはい』は余計。
でも、まあいいわ」
笑って言った。
複合戦も難なく突破。
二対一で勝利したことは少なかったのか、盛り上がった。
このあとの準決勝でエリザベス、ライン組に当たることになる。
剣術、魔術の準決勝を危なげなく勝ち、複合戦の準決勝。
王様と王妃様が見に来ていた。
リズが戦いの舞台に上がると、周囲から歓声が上がる。
エリザベスとラインは観客に手を振っていた。
俺にはカミラとレオナの声。
まあ、二人居るだけマシか。
「舐めているのかー!」
「一人で何ができる!」
など、ヤジが飛ぶ。
(まあ、美少女二人に大柄の少年。
俺が演じるならヒール役だろうな。
種を明かしていない魔法はある。
やるならあれだろう。
だが、やらせてくれるかな?)
「始め」の声で俺の周りに土煙が上がった。
(目くらまし……。
周りからは俺の位置がわかるが、
俺は周りの様子がわからないってことらしい)
ケインは気配感知を使って周囲を見た
ケインの死角からリズが近寄る。
ラインは近寄っていない。
(魔法の準備をしているのかな?)
ケインはエリザベス側の床を滑りやすくした。
できるだけ摩擦を小さくする。
ケインはライン側にシールドの魔法を展開して待機する。
土煙が消える前に、エリザベスとラインが動く。
エリザベスが足を滑らせて倒れる音を確認すると、摩擦をなくす魔法を解除しリズのほうへ向かう。
エリザベスは不意に倒れたせいで体が起こせていない。
ケインは素早く近寄って、リズの肩にに剣を置いた。
(一人撃破)
唖然とするラインだが
(視認できないから避けられないはず!)
ケインに向かって風の魔法を使う。
しかしケインは、あらかじめ設置していたシールドの裏にまわってかわした。
今度はシールド越しに魔法を作り、風魔法を使う。
(圧縮した空気の弾を飛ばす感じで……)
曲がって飛んできた魔法に当たり、吹き飛んだ。
(えっ……なんでシールドの裏からの魔法が……)
焦りがラインの動きを悪くする。
体勢を立て直す前にケインは近づいて剣を肩に置いた。
(フウ……二人目)
ケインは汗をぬぐった。
「やめ!
勝者、ケイン!」
審判の声が響く。
「大丈夫だったか?」
「ちょっとびっくりした。
シールドの裏から魔法が飛んでくるんだもん」
手を抜いてくれていたんでしょ?
痣もできていない」
「そりゃ、女性の柔肌に痣を作る気は無いよ」
「私は?」
「おお悪い悪い」
リズのほうへ行くとリズを引き起こした。
「滑ってこけるなんて間抜け」
「ああ、滑るようにしていたからな」
「あれも魔法?」
「そう、摩擦って奴を小さくして滑りやすくしていたんだ。
かけられたリズが気付かないんだったら、リズがたまたまコケて俺はたまたま勝ったってことになるんだろうな」
(それはそれでいいと思う)
舞台から降りるケインの背に、
「運良く勝ちやがって!」
と言う声が聞こえた。
レオナが、
「やったね」
と抱き付いてきた。
「それはズルい」
「私もそう思います」
俺の後から舞台を降りたラインとリズが怒りながら近寄ってきた。
「私たちだって、地位が無ければ抱き付くのに……」
「お二人にレオナ様……」
カミラが二人に近寄り、話をする。
「「「うん、うん、うんうん」」」
「それいい」
「学校祭だもんね」
「楽しみ」
女性陣は何かに納得する。
それを見たケインは、
(怒らないのならまあいっか)
と気にしなかった。
剣術の決勝は前年度の準優勝者と当たる。
これまたフィリップ王子のお付きだった。
大きな盾を持ち、防御を硬くする相手。
回り込もうとはするが盾を中心に正対するため、回り込めない。
(結構面倒だねぇ)
ケインは相手に向かって加速すると、盾に飛び蹴りを放った。
相手が盾を構えて耐える。
そのまま盾を踏み台にして背後に回り込むと、俺の重みのせいで盾の動きが遅れた。
背後へ振るう剣を俺は避けると、肩に一撃を入れる。
「待て」の声。
剣術のトーナメントでの勝利が決まった。
魔術はラインとの戦いになる。
ラインの魔法の発動に合わせ相反する魔法で無効化する。
遊びのような時間。
魔力がなくなって苦しくなってくるライン。
ラインは、
「やっぱり勝てないわよね」
と言って苦笑いする。
「でも、最初に比べたら魔力操作が何倍も上手くなってるぞ。
それに、妻にしようと思う者に負ける気はない」
俺はそう言って笑った。
「そう、良かった。
だったら納得。
早く追いついてよ」
ニコリと笑うライン。
「ああ、しばらく待ってろ」
魔力がなくなったラインはそのまま崩れるように倒れた。
「待て」の声で俺は魔術戦の優勝者となる。
俺はラインに近寄ると、抱き上げそのまま舞台を降りるのだった。
医務室で、
「ライン、大丈夫か?」
「思いっきり魔法を使ったからスッキリした。
ケインはやっぱ強いねぇ。
優勝おめでとう」
「ありがとう。
やっぱ、身内とはやり辛い」
「私もよ。
まあ、もっと頑張って来年も挑戦しようかしら?」
ケインとラインが話をしていると、
「お邪魔するよ?」
とイケメンのいい歳の男が入ってきた。
と言っても、ケインも昔はそんな年代だった。
「クレールお父様」
クレールをケインが見ていると、
「君がケイン君かな?」
と聞いてきた。
「そうです」
「我が娘を妻にしたいとか」
「はい」
「身分が違うが?」
「この学校を出る時に騎士になれば、後は男爵、子爵、伯爵、侯爵と成り上ればなんとかなるかと……」
「ほう、そこまでどうやって?」
チラリと俺を見るクレール様。
「お金と名声でしょうか?
クレール様は将軍として兵を動かす立場だと聞いています。
できれば、私がこの学校を卒業し騎士として独り立ちした際、苦戦している所へ送ってもらえないでしょうか?」
「ほう、わざわざ死地へとな?」
「ええ、負けるとわかっている場所だからこそ、勝てば目立ちますから」
「君は戦況を変えるほどの力を持っていると?」
「それはわかりませんね。
私も鬼神の息子です、ただでは転びません。
自分でその場所に行って死んだのならただの笑い者でしょうが、そこで生き残り勝利を得れば……」
「先ずは男爵の道が開くということか……」
「そういうことです。
そのための残り二年半。
まずはこの学校の一番を目指します。
それも、王子の最後の年に、優勝を阻止した騎士として。悪名をとどろかせましょう。
そうすれば、王にも王子にも覚えめでたくなれそうですから」
そういうケインを見ながら、
「妻が言っていた。
『先日は済まなかった。そして、美味しいお菓子をありがとう』と……」
クレールが言う。
「いいえ、騎士の息子でしかない私が行く場所ではありませんでした。
しかし、今度は堂々とあの場所に行かせていただきます」
「しかし、ラインは娘だ。
婚期は早い。時間はないぞ?」
「そうですね、だから目立たせていただきます」
ケインはニヤリと笑ってクレールに宣言する。
ケインが舞台の傍で控えていると、金髪碧眼のイケメンが現れた。
「君がケイン君かい?」
(多分リズの兄貴。
こんどはそっちかぁ……)
「はいケインと申します。
あなたはフィリップ殿下ですか?」
「ああ、私がフィリップだ。
エリザベスが世話になっているね。
いつも君の話をしている」
「こちらのほうこそ殿下に良くしてもらっています」
「さっきのリズとの戦い見せてもらったよ。
無様にもリズが何かに躓いて倒れた。
運が良かったみたいだね。
私たちも最上級生だ、あんな風に運で簡単に負けるつもりはない」
ニヤリと笑うフィリップ。
「こちらも一人だからと言って負けるつもりはありません」
ケインはフィリップを見返して言った。
(本気でフィリップ王子は躓いて倒れたと思ったのか、わざとそう言ったのかはわからない。
まあ、俺がやれることをやるだけだな)
そして混合戦の決勝。
「お集まりの皆さま、混合戦トーナメント決勝です。
出場選手の一組は、我がバレンシア王国王子、フィリップ殿下とその護衛スコット君」
名前が出ると、二人への歓声が上がる。
そして、もう一組……いや、一人、鬼神と魔女の息子ケイン君。
ケイン君は剣術、魔術二つのトーナメントでの優勝を果たしております」
ケインの場合は名前が出ると「ブーブー」とブーイングが飛び出した。
(やっぱり悪役なのかねぇ)
観客席には王と王妃の姿があった。
貴族が集まりケインとフィリップ組を見る。
そして、ベルトとミランダの姿があった。
二人の目は優しかった。
「好きなようにしろ」
と言うことなのだろう。
舞台袖には、カミラ、レオナ、リズ、ラインが居る。
(ここで負けたらカッコわりぃなあ……)
などと思いながらケイン空を見ていた。
「始め」の声と共にフィリップが薄く輝き加速する。
連れの魔法使いがフィリップに強化をかけた。
素早い攻撃がケインを襲う。
それに合わせて連れの魔法使いは俺にファイアーボールを連射する。
(ファイアーボールって言ってるから、ファイアーボールなのだろうな。
しかし、ラインより遅い)
俺は水の弾を高速で発射し全てのファイアーボールを打ち落とすとともに、連れの魔法使いに当てた。
水の勢いに吹き飛ばされて転がり、意識を失う。
思ったより早く連れの魔法使いが戦線を離脱したのか、
「チッ」
と舌打ちが聞こえる。
フィリップには強化がかかっており、何もしていない俺よりも攻撃が速い。
しかし魔法が使えないフィリップ。
強化が切れるまでに勝負を終わらせようと近づいてくる。
(焦っているか……。
こういう時は沼に限る)
ケインは無詠唱で周囲に魔法で沼を作りトラップを仕掛ける。
と言っても表面の薄皮一枚分は残しておく。
何も知らないフィリップはケインに近づく。
すると、足が地面に沈み込んだ。
そのまま俺は沼を硬化させる。
「フィリップ王子、終わりです」
ケインがフィリップの肩に木剣を置いた。
審判の終了の声が上がらない。
(まあ、審判にもしがらみがあるのだろうなあ。
勝つのはフィリップだと思っていただろうし……)。
ケインは待っている。
フィリップは足を抜こうと必死だ。
しかし、元の硬さに戻った床は結構な硬さに戻っている。
「私は負けていない。
私は王子なのだ、負けを認める訳には行かない。
私が負けたと言わない限り負けはない」
負けを認めないフィリップ
「そうかもしれませんが、負けは負けです。
戦争の時、王子が負けたと判断するのが遅ければ、死者や負傷者が増えます。
負けたなら負けたなりの対策を取る必要がある。
殿に誰を置き敵の追撃を防ぐとか、どこの砦まで戻り防衛をするなど、軍の被害を防ぐため早急な判断が必要になる。
そして、あなたが敵の手に渡れば、この国の大きな損失になる。
それを知っていて、負けを認めないと?」
「これはただの模擬戦……、実戦になれば私が勝てる」
それでも負けを認めないフィリップ王子。
そんな時、
「フィリップよ、お前の負けだ」
と観客の中から大きく低い声が響いた。
「父上!
しかし、私は今年この学校を卒業します。
その記念なのです」
「バカ者!
記念だから負けを認めないということがあるか!
戦場で私の誕生日だから『負け』と言えないというつもりか!
お前の判断が遅れるごとに、戦場では兵士が死ぬ。
そしてこの国が疲弊していくのだ」
皆の前で叱るバレンシア王国国王バージル・バレンシアが居た。
「わっ、私の負けだ」
その小さな声が会場に聞こえると、審判が
「勝者、ケイン!」
と声を高らかに宣誓する。
そして、トーナメントが終わった。
王が、
「ケイン君と言ったな。
フィリップを負かせてくれてありがとう。
上には上が居るということを身に染みただろう。
さて、この学校初めての全トーナメント勝利。
それも複合戦では単独での出場。
それも君は二年生だ。
これ以上の難易度は無いな。
何か褒美をやらねばならぬ。
何が欲しい?」
と聞いてきた。
(流れからいけるか?
いけなければ、ただの暴言)
そう思ったが、
「そうですね、爵位が欲しいと思います」
ケインは言った。
「鬼神に?
それとも君に?」
バージルが聞く。
(当然)
「私にです」
ケインが胸を張る。
バージルは少し考えると、
「ふむ……、そうだな、報告で聞いたが、昨年の学校祭においてエリザベスを悪漢から守ってくれた実績もある。
君の成績でこの学校を出れば騎士爵は確実だ。
ならばその上の男爵あたりでどうかな?
その代わりに在学中に戦場へ出てもらう可能性も出てくるが?」
とケインを見る。
「問題ありません」
(その方が俺にとっては助かる)
ケインが頷いた。
バージルは何かに気付き、
「そう言えば、君はルンデル商会がラムル村と言う村と懇意にしておったな。
そして、面白そうなことをしている」
という。
(王がなぜか知っている。
なんでだろう?)
ケインが思っていると、
「それであれば、あのあたりの土地をお前の領地にしてやろう。
丁度悪漢が治めていた土地の一部だ。
それでいいかな?」
(悪漢と言うのはリンメル公爵のことなのだろうな。
王都の近くに領地を持っていたのか。
王にとっては結構邪魔だったのかもしれない。
最近ではリンメル公爵は極秘裏に処刑されたという噂が立ち、現在は仮に国が統治していると聞いており『誰がその領地を得るのか』と言う話でもちきりだった。
その一部を貰える。
一番のハードルだと思っていた爵位。
こんなに簡単でいいのか?)
うまく行き過ぎて不安に思うケインだが、
「はい!
謹んでお受けします」
頭を下げ、声高らかに言うのだった。
こうして、ケインは男爵になる。
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