第28話 打ち上げをします。
ケインたちの売り上げは、実質四時間労働で百五十二枚のホットケーキを売り切った。
通常版が七十九枚、豪華版が七十三枚、
紅茶が百二十一杯、計七千二百三十セト。
つまり七万二千三百円である。
レオナが後で聞いたら模擬店で一番の売り上げだったらしい。
(おお、ぼろ儲け。
まあ、これから原料費やら人件費やらを引けば、微々たるもんなんだけどね。
屋台代もかかるし。
まあ、当然校内ということでショバ代も要らないしね)
ケインはニヤリと笑う。
「じゃあ、売り上げを山分けにしよう。
計算したら一人千四百五十セトになるから、
金貨一枚に銀貨四枚大銅貨一枚だね」
ケインが言うと、皆が「えっ」という顔をした。
「労働に対する対価というのは必要です。
ですから遠慮せずに受け取ってください」
とケインが言うと。
「働いたことが無かった。
こんなに楽しかったのに貰えません」
「私も楽しめたから要らない」
「私も勉強になりました。
それに、ケイン様は屋台代を出したり原材料費を出したり結局持ち出しでしょう?」
エリザベス、ライン、レオナが口々に言う。
「私はお金を持っていますから。
それこそレオナさんが一番よく知っているでしょうに。
それに屋台は使いまわしができます」
レオナは「あっ」っという顔をした。
「「「それでも……」」」
「受け取りたくないと?」
ケインが聞くと三人は頷いた。
「そうですね、学園祭……学校祭の後と言えば、打ち上げです。
美味しい物を食べるというのはどうでしょうか?」
パッと三人の顔が明るくなる。
レオナが少し考えると、
「だったら、私の家でやりましょう。
ケイン様の弟子のお抱えの料理人も居ます。
夜中まで話をして、女性だけでお泊り。
さすがにケイン様は別部屋で寝てもらいます」
と提案する。
「私はそのほうがいいですよ」
苦笑いのケイン。それを見てカミラは笑っている。
「私はお母さまに聞いてみないと」
「私もエリザベス様が参加しないと」
(そりゃそうだ、王女様が商人の家に出入りする。
懇意にするってことは色々問題が出てくるかもしれない)
エリザベスを見るケイン。
「とりあえず聞いてみてください」
とレオナが念を押した。
ケインは収納魔法で豪勢版のホットケーキを四つ取り出し、二つずつ王女様とラインに渡した。
「これは、あなた方が許可をもらうための武器です。
上手く使ってください」
とケインは言っておく。
休み明けにGクラスに現れた三人は明るい。
「お母さまが『一緒に泊まれるようなお友達が出来たの……良かったわね。ぜひ行ってらっしゃい』と言ってくださいました」
とエリザベスは嬉しそう。
(ホットケーキが効いたかな?)
ケインはエリザベスを見た。
「私もエリザベス様が行くのならと……」
ニヤニヤするライン。
「エヘヘ、これで全員集合。
当然カミラさんにも言っておいてくださいね」
レオナも嬉しそうだ。
「ああ、カミラも楽しみにしているようだよ」
ケインは言った。
結局次の休みに「打ち上げ」を行うことになる。
屋台の売り上げは全部レオナに渡し、食事の準備。
(クッキーでも焼いていくかなぁ)
ケインは思うのだった。
次の休みの夕方、ルンデル商会の馬車が俺を迎えに来た。
そしてルンデルの家に向かう。
「ケイン様、ホットケーキは好評だったようですね」
馬車の中でルンデルが話しかけてきた。
「ええ、最初はなかなか出ませんでしたが、そのうちに口コミで広がったのでしょう。
捌くのも大変なぐらいになりました」
「売るのであればどのような感じがいいでしょうか?」
「そうですね、屋台だと何かしらの祭りを待つ必要がありますから紅茶専門店のような物を作り、紅茶とのセットで出すのも良いかもしれません。
意外とカップルでの来客が多かったので、テーブルごとに仕切りなどを置いて周りからはあまり見えないようにするといいかもしれませんね。
一人で紅茶をじっくり飲む人も居るでしょうし。
紅茶専門店で出すなら、紅茶代に大銅貨一枚で通常版のホットケーキ。
銀貨一枚で豪華版のホットケーキでどうでしょう」
「屋台よりも店ですか……」
「はい、そう思えました。
ただホットケーキ単体で売るのならば、プリンとケーキのお店で売る。
金額も紅茶専門店と同じぐらいでどうでしょう」
「わかりました。検討してみます」
そう言うと、ルンデルは考え始めた。
ケインがルンデルさんの家に着くと、レオナが出迎えてくれる。
「あら、おめかししてるねぇ」
フリフリが多い。ちょっとしたドレスのようだ」
「お父様がそうしろと……。
私はいつものでいいのに」
「王女様も来るのですから……」
ルンデルさんが言う。
「私はいつものですが……」
ケインは頭を掻いた。
隣で苦笑いのカミラ。
(浮いちゃうかな?)
ケインとカミラはいつもルンデルの家を訪問するズボンにシャツの簡単な物で来ていた。
一応着替えと寝間着的な物は持ってきている。
そんな話をしていると、王女様の馬車が到着した。
ラウンがドアを開け、エリザベスとラインをエスコートする。
(ヨシ、普段着。
と言っても、いいもののようだが……)
ケインはホッとする。
「「レオナさん、お招きありがとうございます」」
「いらっしゃいませ。会場の準備はできているから、ラウンに連れて行ってもらうわね。私、着替えてくる」
タッタッタッタと小走りにレオナは階段を昇っていった。
「ケインさんは?」
ラインが聞いてきた。
「今来たところ」
「私は王城以外でお泊りするのは久々なんです。
それも友達となんて!」
興奮気味のエリザベス。
「ハイハイ、落ち着いて!
まだ始まっても居ないんだから」
ラインが止めに入る。
「皆様、それでは会場へお連れ致します」
ラウンがケインたちを連れ客間の一つに入った。
「うわぁ、凄い」
ラインが驚いていた。
(豚の丸焼きなんて初めて見たな。
トムとジ〇リーなら、丸焼きの尻尾でシャンパンの栓とか抜くんだが……)
ケインが昔を思い出し苦笑いする。
コッコーらしき鳥も丸焼きになっており、その足には飾りがついている。
そして、果物も豊富にあった。ブドウのようなもの、柑橘系、メロンやスイカのような物。
それぞれの前にパンが盛られており、その横にはバターもあった。
牛乳が入ったピッチャーが冷やされている。
(あれ? ワインが出ている。未成年じゃなかったっけ?)
横に立ったラウンさんに、
「あの売り上げで足りたの?」
とケインは聞いてみた。
「足は出ませんでした。
ただ、この家だから可能だった……と言っておきます」
と言った。
(材料費だけでやってくれたんだ……)
「ワインが出ているけど……」
「十二歳でお酒は飲めます。
皆十二歳以上だと聞きました。
一応出しておくようにと旦那様がおっしゃられたので」
「どうしたいんだろうね」
「ケイン様次第ではないですか?」
ラウンさんはニヤリと笑う。
「ハハハ……」
ケインは笑うしかなかった。
レオナが、
「お待たせしました。私も堅苦しいよりこの服の方が楽!
お父様め! 私が浮いてしまったじゃない。
さて、学校祭の模擬店の打ち上げ。
始めましょうか」
ノリノリな、レオナ。
「まずは乾杯を」
う言うと、ルンデル家のメイドが部屋の中に入ってきて、グラスに飲み物を入れる。
フルーティーな臭いだが、若干アルコール臭がするのが気になる。
「乾杯は今回のリーダーであった、ケイン様にしてもらおうと思います」
「えっ?」
「模擬店成功の立役者でしょう?」
ラインがニヤリと笑う。
「そうです、乾杯はケインさんがすれば良いと思います」
エリザベスも言う。
なんか宴会のノリだな。
「わかりましたよ」
「当然、乾杯の前に一言を……」
レオナが煽る。
「えー、元々はトーナメントの手伝いをしたくなかっただけなのですが、結局
そんな私に付いてきてくださった、エリザベス殿下、ラインさん、レオナさん。そしてカミラ。
屋台と衣装を手配してくださったルンデルさん。
本当にありがとうございました。
私としては皆さんの給仕衣装を見られただけで成功だと思います。
それでは、かんぱーい!」
「「「「かんぱーい!」」」」
こうして打ち上げが始まった。
料理は自分でとるビュッフェ方式。
皆好きなものをとって楽しんでいた。
ルンデルが手配した料理の食材は最高で、滅多に手に入らないような物も使っている。
ケインに、
「オークキングのお礼です」
と言っていた。
ケインたちは最高の料理に舌鼓を打ち楽しむのだった。
しかし、女性陣。それも在学者たちが酔い始める。
ケインはなぜか酔わなかった。
(魔力量が影響しているのだろうか?)
ケインがそんなことを考えていると、
「せっかくお父様が準備したワイン、これも飲んじゃおうよ!」
レオナが興味を持つ。
「えー、私強いお酒飲んだことありません」
「わたしもー」
ヘラヘラと笑いながら、レオナがワインの栓を抜いた。
「お三方、ほどほどにしておいたほうが……」
カミラが止めに入るが、
「カミラさんも飲もうよ、
全然進んでないじゃない」
カミラは飲み食いもできるが、血のほうがいいので乗り気ではない。
そんなことを気にせずに、カミラのグラスに赤ワインがドボドボと入れられていた。
「ケイン君も飲んで。
全然赤くなってないじゃない」
ラインがケインのグラスに赤ワインを注ぐ。
ラウンを捜したが、どこかへ行ってしまっていた。
(罠か……。
ある意味ハニートラップ)
「一応俺男だから、酒飲んで何かあっちゃいかんでしょう?」
「私は何かあって欲しいなぁ。
だって、告白前と後じゃなーんにも変わらないんだもん」
ラインはケインを見て言った。
その後、ラインの力が抜けエヘヘと笑う。
(笑い上戸)
「私は告白していないけど、片付けの時に聞こえていたんでしょ?
何か変わってもいいじゃない!
えっ、何か言え! コラッ!」
(レオナさんに怒られてもなぁ……。
怒り上戸か?)
「うー、カミラさんが『ケインさんが私たちの気持ちに気付いているだろう』って言っていました」
ケインがカミラを睨むと、目線をスッとそらす。
「だったら、何か行動があってもいいでしょう?
七歳の時に私を助けてくれたのはケインさんなんでしょう?
教えてくださいよぉ…………えーん」
(あ、泣いた。
泣き上戸?
うわ、めんどくせぇ……)
「ぷぷっ」というカミラの笑い声が聞こえた。
「変化が欲しい人!」
さっと三人の手が上がる。
「何がいい?」
ケインは聞いてみた。
「カミラさんが羨ましい」
「うんうん羨ましい」
「絶対羨ましい」
エリザベス、ライン、レオナの順で答える。
「でも、カミラは婚約者だからなぁ……」
そうケインが言うと、
「それ!」
「そうそれ!」
「それそれ!」
再びエリザベス、ライン、レオナの順で答える。
「呼び捨て?」
三人が頷く。
「エリザベス王女様の事を呼び捨てになんかしたら、俺、斬られない?」
と聞いてみると、いつも使っている「俺」が入ってしまた。
「俺って言った」
「俺だ」
「俺いいねぇ」
「「「一人称『俺』で」」」
三人が納得する。
「つまり、三人を呼び捨てで、一人称が俺だったらいいのか?」
しかしボソリと、
「私たちも『ケイン』と呼び捨てで」
「それいい」
「それ採用」
再び三人で納得。
「三人を呼び捨てで、一人称が俺。三人の呼び方は『ケイン』だったらいいのか?」
再び三人が頷いた。
「えーっとエリザベス?」
フルフルと首を振ると、
「違う、『リズ』!」
「ああ、リズね……」
「はい!」
「えーとライン?」
「はい!」
(こいつは脳内では呼び捨てだったからな)
「えーっとレオナ?」
「はい!」
「これでいい?」
三人はコクリと頷いた。
「ただし」
「「「?」」」
キョトンとする三人。
「さすがに人の居る前では呼び捨ては難しい」
「私は大丈夫、お父様は喜ぶ」
(ルンデルさんめ……)
「では、残る二人はだな。このメンバーで居る時だけにする。
俺も揉めたくはない。
よろしい?」
リズとラインは頷いた。
「カーミーラー! お前余計なことを!」
俺はカミラの後ろから抱き付く。
「旦那様。私は友達にとっていい事をしたと思っている。
だから怒られても気にしない」
カミラは満面の笑みだった。
(この笑顔見たら怒る気にもならないや)
トイレに行くふりをして、会場を出る。
「ケイン様、会場は?」
ルンデルさんがすっと現れた。
「飲んでいいとはいえ、私の歳でアルコールは良くないですね」
「でも、娘の本音を聞けたでしょう?」
「知らない間にラウンさんも居なくなっていました」
「指示しておきましたから」
「で、どう思います?」
「レオナさんはいい子だと思いますよ。とりあえず学校卒業まではこの五人で動きそうです。
決めるならその後かと……」
「別に在学中に婚約でもいいんですよ?」
「そうなったらそうなった時です。
それではトイレに行きます」
「わかりました。あっ、そうだ。私どもの家でしたら、一人称は俺でレオナを呼び捨てでも問題ありません。
今、家の者に周知しましたから」
そう言った後ニヤリと笑ってルンデルさんは居なくなった。
(聞いていたのか……。
俺も安心して気配感知していなかったな。
食えない人だ)
そうして、ケインはバルコニーで少し涼むと、会場に戻るのだった。
会場に戻ると、カミラが困った顔。
「これいい」
「これいいです」
「欲しい」
酔っ払い三人衆がカミラの左手を持ち婚約指輪をねだっている。
「旦那様」
ケインに助けて欲しいようだ。
「おーい、お嬢さんたち。
カミラと俺は既に七年の付き合いだ。
婚約したのは十歳の時。
だから、気心が知れている」
「「「ウンウン」」」
「せめて、在学中だけでも付き合わない?
いくら十四歳が成人とはいえ、急ぐ必要はないだろう?
もっとお互いに知ってからでもいいだろうに」
「気心が知れたら何かある?」
「そりゃ、いい感じになれば何かあるかもしれない。
もしかしたらカミラみたいに指輪を貰えるかもしれない。
今すぐに婚約の必要はないだろう」
三人はお互いに目を合わせると
「「「わかった」」」
と頷いた。
がっしりと手を握り合う三人
(桃園の誓いか何かか?)
ケインは思うのだった。
女性陣はカミラ込みで風呂に入る。
ケインは一人でワインを飲んでいた。
ラウンさんが近寄ってくる。
「何ですか?」
「気配を消していたのによく気付きましたね」
「さっき気配感知をしていなかったせいで、痛い目を見ましたので……」
「お嬢様をお願いします。
あなた様のことを話すとき、それはもう嬉しそうに話します」
「そんなに俺に押し付けたい?」
「それがお嬢様の幸せになるなら……。
お嬢様はお母様をあまり知りません。
ルンデル商会が小さかった頃は、私が店番を行い幼いレオナ様を見て、ご夫婦での買い付けを行っておりました。
その時盗賊に襲われ、奥様は亡くなられました。
それからは私とルンデル様でレオナ様をお育てしてきたのです。レオナ様は私にとっても娘のようなもの、そんな娘が好いた人のところに嫁ぐのを見たいと思う」
(あれ? いろんな気配が集まる。
んーあれはルンデルさん。メイドさんも数人居るな)
「お涙頂戴で外堀埋めてません?」
ギクリとするラウンさん。
「言っておきます。
好意を持っていない女の子のところに来たりはしません。
仕事だけならルンデルさんと話をすれば終わりです。
レオナとはお互いに学校内という場所で生活してみて、いい所も悪い所も両方含めて結婚してもいいなあと思ったらちゃんと婚約します。
ラウンさんの話は本当なのでしょうが、泣き落としで婚約してもれレオナが喜ぶとは思えません。
だから、ルンデルさんも見守ってくださいね」
ケインはカツカツと扉に近づき、バンと扉を開けた。
申し訳なさそうなルンデルが居る。
(親バカなのだろうが……)
「以上です」
ケインが言うと、サササとルンデルとメイドそしてラウンが消えた。
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