第27話 難癖をつけられました。
お客様が居なくなり、片づけを始めたころ、店の前が騒がしくなる。
ケインが気になって見てみると、
「お前、カミラじゃないか?」
とカミラの手首を掴む男。
恰幅がいいというよりデブ。
煌びやかな服を着て、頭は剥げていた。
「はい、私の名はカミラと申しますが?」
カミラが言うと、
「主人の名を忘れたか?何を立っている、跪け!」
命令口調で男がカミラに言う。
(ここで奴隷契約書があればカミラは跪くわけか。
ってことは、この男がリンメル公爵って訳だね。
子供でも居て、様子でも見に来た帰りかな……と)
ケインは考えた。
(カミラはリンメル公爵より強い。
奴隷契約書が無い今、あのオッサンにやられることはないか……。
とりあえず必要な時に手を出そうかね……)
と様子を見ていると、
「なぜ私があなたに跪かなければならないのでしょうか?」
カミラが毅然とした態度で言い返した。
「儂の奴隷であろう?」
ニヤリと笑う男。
「私は奴隷ではありません。その証明は?
人を辱めるようなことを言わないでください!」
睨み付けるカミラ。
「奴隷契約書があったはず」
リンメル公爵は引かないカミラに焦り始める。
「あったはず?
どこに?」
再びカミラが聞くと、
「クリフォードの契約書があったはずだ」
と詰め寄る。
「だからどこに?
あったはずでは意味がありません。
今ここにお持ちください」
冷めた目で見返すカミラ。
「それは……」
リンメル公爵は言葉に詰まった。
(当然だ。俺が燃やしたんだからな。
あるはずもない)
タカシはリンメル公爵を見ていた。
「私はあそこに居るケイン様と婚約しております。
言いがかりはやめてください!」
カミラが言い放った。
「魔物と婚約するなど?そんな酔狂な男がおるものか!」
フンとバカにしたようにリンメル公爵がカミラを見る。
すると、
「えっ、俺、婚約してますよ?
ほら左手の薬指に指輪があるでしょう?」
ケインは手を拭きながら屋台から出て、リンメル公爵の前に出る。
「そんなバカなことがあるか!
こいつは神祖だ。私が金をかけ奴隷にした神祖に間違いない!」
駄々っ子のようにリンメル公爵が言う。
「白昼夢でも見たのでしょうか?
この者はカミラという女性で、怪我をしていたカミラを私が助け、その縁あって婚約したのです」
しかしリンメル公爵は認めない。
「私の性欲を満たすために性奴隷にした神祖の奴隷に違いない!」
と言い張る。
(そのカミングアウトは要らなかったな)
ケインが思っていると、
「やめなさい!
証拠もなく、根拠もなく、ただ暴言を吐くだけ!
言いがかりと言われても仕方が無いでしょう」
エリザベスが声を上げた。
「何だ、この小娘め!
私がリンメル公爵であることを知っての言葉か!
切り捨ててやる!」
逆上しているのかエリザベスが王女様だとわからないのだろう。
剣を抜くリンメル公爵。
しかし、エリザベスが捻り上げて剣を奪い取った。
(あっ、リンメル公爵が終わった)
ケインがリンメル公爵の様子を見ていると、アベイユの部隊がリンメル公爵の周囲に舞い始め、一撃、また一撃と攻撃を始める。
そして、その毒で痺れて動けなくなった。
「私の顔を忘れましたか?
第一王女エリザベスです」
剣を突きつけ、ニヤリと笑う。
エリザベスがリンメル公爵に顔を見せると驚きで目が開いた。
そして、見ていた護衛の騎士もやってきて、リンメル公爵を縛り、運んでいった。
「俺の出番がなかったな」
ケインが言うと、
「いや、ケインのお陰。
そしてエリザベス王女様のお陰」
カミラが言った。
「いいえ、お陰で一つ問題が解決します。
リンメル公爵は力を持っており、悪さをしているのがわかっていてもなかなか手を出せませんでした。
これでお父様も何か手を打てるでしょう。
それにしてもアベイユに護衛をさせているとは……」
エリザベスがケインを見る。
「アベイユの毒は痺れが出るだけの物です。
生き死ににはかかわりませんから便利なんですよ」
(アナフィラキシーショックと言われたら困るがね)
ケインはそう考える。
「さて、時間も時間だ。模擬店を片付けるか……」
食器を棚に仕舞い。椅子を片付け、テーブルを屋台のフックに止める。
綺麗に片付き、屋台を曳いて移動すればいいだけになった。
(ラーメン食いてぇなぁ……。
今度作ろうかねぇ……)
ケインが思っていると、
「前の世界の事?」
カミラが聞いてきた。
「そうだな。やっぱり美味い物は食べたいだろ」
ケインが言うと、
「そればっかり」
ヤレヤレとカミラが両手を広げる。
「それでも、戦いが好きなのよりいいとは思うが?」
ケインがちらっとカミラを見ると、
「そうね」
カミラが甘えるようにケインの肩に寄り添う。
ちょっと離れたところで、
「二人、いい感じよね。
私なんて告白したのにこの扱い」
ラインがテーブルの上で頬杖をついて愚痴っていた。
「わたしなんて告白さえできない」
ボソリとエリザベスが言う。
「やっぱり」
ニヤニヤしながらラインがエリザベスを見ている。
「私もケイン様が好きなのかなぁ。
こういうの見てたらほっこりするのよねぇ」
レオナが呟く。
「何ですか、その爆弾発言は?」
エリザベスが突っ込んだ。
「お父様はカミラさんが居るのを知っていて『ケイン様なんてどうだ?』なんて言ってるのです。
まあ、私もあんなの見てたら、いいなあって思う訳で……」
レオナが言うと、
「いいよねぇ」
「うんいい」
ラインとエリザベスが二人を見て頷いていた。
(全部聞こえてるからね)
ケインは苦笑いしていた。
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