第26話 模擬店出店です。

 ベルトに勝てるカミラが居るということが決め手になり、エリザベスもラインも模擬店で配膳係をすることとなった。

 当然、陰から護衛が見ている形となるらしい。


 そして、学校祭本番となる。

 ケインがルンデルに頼んでいた屋台も完成していた。

 料理する場所だけでなく、人が座るテーブルや椅子、食器類、そして食器の洗い場などがコンパクトにまとまり、曳いて歩けるように車輪をつけていた。

 屋台の前に四人掛けのテーブルが四つ並び、女性陣により屋台の屋根には花などで飾り付けがされる。


 この花の影にアベイユを十匹ほど潜ませるケイン。

 ケイン専用の部隊である。

 模擬店に参加したエリザベス、ライン、レオナ、カミラには攻撃しないように指示してある。


「ほら、可愛いでしょう!」

 四人が現れた。

(おっと、メイド服にヘッドドレス、エナメル系の靴。

 まあ、メイド喫茶っぽいね)

 ケインが四人を見ると、

「揃えたのか?」

 とレオナに聞いた。

「お父様に頼んで、急ぎで作ってもらっちゃった」

 テヘっと笑うレオナ。

 恥ずかしそうなエリザベスとカミラ。

 見せびらかす、ラインとレオナ。

 対照的。

 ケインの屋台の制作もあり、ルンデルもレオナのメイド服製作を無茶振りされて大変だったようだ。


「王女様がここで配膳係をしているのは、みんな知ってるの?」

 結局、申請書以外にエリザベスの名は出していない。

「護衛の者とお父様とお母様だけですね。

 あとは、ケインさんとラインとレオナさんとカミラさんぐらいです」

 知名度無しで始めることになる。


 学校の開放時間になると、人が通り始める。

 一等地とは言わないが正門から教室に向かう通り沿いだった。

 簡単な看板を出すと、

「いらっしゃいませー!」

「いらっしゃいませー!」

 ラインとレオナの声が響く。

「ほら、エリザベス殿下も……」

 ラインに言われ

「いっ、いらっしゃいませ……」

 恥ずかしげに小さな声を出すエリザベス。

「いらっしゃいませー!」

 カミラも慣れないようだが頑張っている。


 しかし、可愛い女の子が声をかけるのだ。

 吸い寄せられるように男性陣が寄ってくる。


「何を売っているんだい?」

 若い男がレオナに声をかけると、

「新製品のホットケーキです」

 と説明をする。

「ケーキは高くて買えないぞ?」

 ルンデル商会のケーキは高い。

 そのせいで、男は少し躊躇したようだった。

「いいえ、このケーキは基本の物で銅貨三枚、豪華版でも中銅貨一枚なんです」

 レオナが勧める。

「そりゃまた安いねぇ。話の種に買ってみるか」

 そういうと、一人目のお客様がケインたちの屋台に入った。

「どちらのホットケーキになさいますか?」

 カミラが注文を取る。

「基本ので頼む」

 と言う男に、

「紅茶もありますが」

 進めるが、

「紅茶は要らない」

 男がそう言った。

 カミラから、

「基本一つ!」

 ケインに注文の声が上がる。


 ケインは原液をホットプレートに広げ、好評だったクレープタイプに焼く。そして、筒状の中にバターとアベイユの蜜を入れ、皿に置いた。

「はい、基本一つ出来たよ」

 屋台の前のテーブルに出来上がったものを置くと、エリザベスが持って行った。

「お待たせしました」

 と言って皿を置くと、ナイフとフォークをお客様に渡す。


 さて、最初のお客様の反応は?


 皆がじっと見ていた。

「おぉ、この油の塊が溶けアベイユの蜜が一緒になったソースが美味い。出来上がりが早いのもいいな。これなら簡単に食べられる。こんなものを若い娘が配膳するなんてな。若い男なら来たくなる。ちなみに豪華なものも注文していいか?」

「はい、かしこまりました。豪華一追加です」

「了解」

 ケインは豪華なクリームバージョンも作る。

「はい、お待たせしました」

 今度はラインが男に出した。

「これはクリームか、見たことが無いな。その上にワイルドベリー。甘酸っぱい味でフォークが止まらない。んー、これもいい。こっちは女性向けかな。紅茶も貰えるかな」

「銅貨一枚になります」

 ラインが紅茶を注ぎ再び持って行く。

「最後に紅茶で締められるのか。いいな。この店は王都内にあるのかな?」

「いいえ、ココが初めてですので、現在、店はありません」

「現在は?」

「感触が良ければルンデル商会が店を作るかもしれません。

 そこの御嬢さんはルンデル商会の娘ですので」

「これは楽しみにしておかなければならないな。

 ごちそう様。

 お釣りは要らない」

 そう言うと男は銀貨一枚を置いて店を離れるのだった。

「好感触だったね」

 レオナが喜んでいる。


 開店直後はあまりお客様は来なかったが、しばらくすると男のお客様が彼女や妻を連れてやってくる。

「おいしい」

「これいいね」

 の声が頻発した。

 ケインは女性陣に見えないところでガッツポーズをする。


 昼頃になると焼きが間に合わなくなり、カミラがフォローに入る。

 原液も紅茶も収納魔法で出せるので在庫がなくなることはないが、休憩が無いというのはきつい。

 昼が大分過ぎたところで、やっとお客の波が途切れた。

「あー、疲れた」

 ラインが机に突っ伏す。

 結局、休む間などほとんどなかったのだ。

「そうですね、こんなに人が来るとは思いませんでした」

 エリザベスも疲れ気味。

「お父様に報告すれば、お店になりそうですね。

 男女の方が多かったのでデートコースに良さそうです」

 レオナの女の子らしい発想。

 そんな話を聞きながらケインとカミラは手を出せなかった食器を洗っていた。


「ラインさんはケイン様が好きだと言ったそうですね。

 でもケイン様にはカミラ様が居ます。

 どうするのですか?」

 レオナがラインに声をかけた。

(おっと、本人が聞こえる所で話してほしくないぞ)

「私は二番でもいいわよ?

 だって、ケイン君ならどちらも大切にしそうだもの。

 貴族なんて数人の妻を持つのが当たり前でしょ?

 卒業するまで、この関係で居られたらかなぁ。

 わたしは、Gクラスでケイン君と話をしている時は楽しいわよ」

「私もです……。

 だからラインさんやレオナさんが羨ましい」

 元気のないエリザベス。

「わっ私?」

「好きなんでしょう?」

「そっそれは……」

(レオナさん、それは肯定だ)

 聞きながら心で突っ込むケイン。


「王女など政治の道具にしかならない。

 政略結婚でどの国に行くのかもわからない」

 寂しげにエリザベスが呟く。

 ケインの横でニヤニヤしているカミラ。

「どうしたカミラ?」

「いいなあって思って。

 私にはあんな話をする相手も居なかった」

(カミラは神祖。

 冒険者もしていたが、ソロでの仕事がメインで、あまり友達と言うのは居なかったのかもな)

 ケインは、

「入ってくるか?」

 カミラに言った。

「どうやって?」

 首を傾げるカミラ。

「配膳すればいいんだよ」

 ケインはちゃっちゃと四人分の豪華版ホットケーキを作り、紅茶を入れる。

「ほら行ってこい」

 カミラの背を叩き、

「ケインがこれをって……お疲れさんだって」

 カミラが三人の横に行きホットケーキと紅茶を置く。

 すると三人は俺を見た。

 ケインは軽く笑って手を振る。

「私も入っていい?」

 カミラが空いた席に座る。


 会話が丸聞こえだと教えたのか、声が急に小さくなった。

 何を言ったのかわからなくなったが、まあいい。

 しばらく話をしていると、カミラが犬歯を見せた。

(ああ、神祖だって教えたのか)

 三人がびっくりしてケインを見た。

 ニッと笑って返す。

(それで離れても仕方ないし、近づいて来れば考えればいい)

 ケインはそう考えていたが、しばらくすると彼女たちの笑い声が響いた。

(杞憂だったか……)

 ケインは洗い続ける。

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