第25話 試食会をしました。

 学校が休みになった日の昼過ぎ、ケインの家の前に護衛の騎士を連れた馬車が現れた。

 王女様御一行である。

 騎士が居るのは道のりで襲われる可能性を考えてのこと。


「出迎えたりはしません。

 ですから、勝手に入ってください」

 とケインが事前に言っておいたので、玄関がノックされるとそのままエリザベスとラインは家の中に入る。

 それに続き、ルンデル商会の馬車が現れ、レオナとルンデルが家に入ってきた。


 外を見ると、

「よう、息子が迷惑をかけるな」

 同僚の騎士なのだろう、ベルトが声をかける。

「良いんですよ、ベルトさんが居るなら何に襲われても何とかなります。

 それにここなら堅苦しくないですからね」

「お疲れ様です。これでも飲んでください」

 ミランダはアベイユの蜜を入れたジャージーの乳を騎士たちに勧め、騎士たちも飲んでいた。


 学校組四人とルンデルは食堂に集まる。

 そして、今日のために作っておいたホットプレート的な魔道具をテーブルの中央に置いた。

 そして、それぞれの前に紅茶を出す。

「えーっと、今度の模擬店で出そうと思っているのは、ホットケーキというものです」

 とケインが説明を始める。

「「「「ホットケーキ?」」」」

「今、ルンデル商会で販売しているケーキよりは安くしたいと思っています。

 まあ、作ってみますので食べてみてください」

 そう言うと、ケインはホットプレートに魔力を流し、そこにバターを置いて溶かすとバターの甘い香りが漂う。

 焦げるか焦げないかという所で、ホットケーキの原液……小麦粉、牛乳、卵、アベイユの蜜を混ぜた物……をケインはお玉で掬って置いた。

 熱がかかりプツプツと気泡が弾け始める。

「よし、そろそろかな?」

 フライパン返し……これもケインが作った……でひっくり返す。

 きつね色に焼けたホットケーキの表面が見えた。

 裏面も焼き終わると、皿の上に取り、再びバターをのせ蜂蜜をかけて出来上がりである。


 四つに切り、フォークを四つ添えて皆の前に出した。

「食べてみて」

 ケインが言うと、各々に口に入れる。

「あっ、美味しいです」

「これいい。

 溶けた油と蜂蜜が混ざって良い味になってる」

「これなら私でも作れる」

 エリザベスとライン、レオナが口々に言う。

「しかし、材料が難しいですね」

 ルンデルの言葉にケインが頷いた。


「これが、基準の形ね。

 皿の上に載せて、家で食べるならこの形でいいと思うんだ。」

 ケインが言うと、

「他の形があるのですか?」

 ルンデルが興味深そうに聞いた。

「さっきのより少し薄く作るんだ」

 そう言うと、少し少ない量の原液をお玉の底で広げる。

 クレープまでとは言わないが、少し薄めのホットケーキが出来上がった。

 ケインは円錐形に丸めると、その中に生クリームを入れる。そして、その上にワイルドベリーをスライスして載せた。

「はい、エリザベス王女様。

 はしたないと思わずにガブっと齧りついてください」

「はい! ケインさん」

 ケインの言葉に従い、王女様がホットケーキ改を受け取るとガブリとかぶりつく。

「まあ美味しい!

 柔らかな食感。

 甘めの生地とクリーム。

 その中のベリーの酸味が味を引き締めてる。

 生地に包まれた白と赤……見た目にも綺麗」

 エリザベスはキョトンとしながらホットケーキを見たあと、間髪入れずかぶりつく。

(口が肥えた王女様がこの様子なら問題ないか……)

 ケインはエリザベスの様子を見て満足すると、他の三人分も作った。


「えっ、こんなに美味しいんだ」

「これは女の子に受ける」

 ライン、レオナが女の子目線、

「片手で持てるのもいいですね。

 お皿が要らない。

 しかし、材料の手配が難しく家庭では流行りませんね」

 商人であるルンデルは商品としての分析をする。

 

「私はそれでいいと思う。

 だから、お祭りなんかの人が集まる場所で屋台を出して売るんだ。

 人の多い場所に行って出来たての温かい物を作る。

 みんながちょっと贅沢をしたい時、プリン、ケーキは高くても、こんなふうに安い者ならば食べてみようと思うんじゃないかな?」

 ケインが言うと、

「だから、学校祭なんですね」

 ルンデルが頷いた。


「人気が出ればルンデルさんのお店で店員が実演販売してもいいと思います」

 ケインが提案すると、

「私の役割はその屋台の作成でよろしいでしょうか?」

 自分が居る意味を理解したルンデルがニヤリと笑いながら言った。

「はい、ホットプレート、材料を置く場所、一応お茶などを置く場所を決めて設計図はできています。腕のいい大工に依頼して作ってもらいたいですね」

「畏まりました。ところで販売価格はどうしましょう?」

「そうですね、基本の形で学校祭では銅貨三枚、町で本当に売り出すなら中銅貨一枚。クリームを使った物で、学校祭で中銅貨五枚、町では銀貨一枚というところでどうでしょうか?

「ケイン様、飲み物も販売なさるので?」

「はい、求められるならば銅貨一枚で紅茶一杯という所でしょう」

 ウンウンと頷くルンデル。


「あのぉ、もう終わりですか?」

 恥ずかし気にエリザベスが聞いてきた。

「終わりとは?」

「お代わりがあるのならば……」

 顔が赤い。

「ああ、すぐ作りますね」

 ケインは再びホットケーキを作るために手を動かし始めた。

「それでですね、配膳係をエリザベス王女様、ラインさん、レオナさんでやってもらいたいと思います。

 衣装は給仕の服を華やかにした感じで。

 その辺は女の子の方が詳しいでしょう。

 一応、こういうことをするというのは両親に話しておいてください。

 はしたないからダメと言われたら諦めて私とレオナさんで頑張ります。

 ルンデルさん、レオナさんに手伝ってもらってもいいのでしょ?」

「ええ、こき使ってください。

 家で働くことなど無いのですからいい経験になるでしょう」

 ルンデルはにっこり笑う。


 話しもほぼ終わり、

 女性陣はホットケーキに舌鼓を打つ。

「これだけ作るのが早いと、数が捌けますね」

 ルンデルが言った。

「ルンデルさんのところで販売するなら、砂糖と蜂蜜の量、クリームやバターの量次第で価格が変わると思います。

 味が薄すぎず濃すぎず、少なすぎず盛り過ぎずのところを探さなければいけませんね」

(マニュアル的な物も必要なんだろうな)

 ケインは考えた。

「調理する者の熟練度も問題になるでしょう」

「ですから、実演販売で鍛えてもらう」

「そういうことですか……」

 ルンデルが頷く。


 食堂の扉がノックされ、カミラが中に入ってくる。

「話は終わった?」

「終わって、残った材料で食べているところ。一つ要る?」

「あっ、いただく」

 ケインは焼いてカミラに渡した。

「あっ、おいしい」

「で、何か用か?

 ケインが聞くと、

「ああ、私も手伝うことは無いかなと……」

 カミラが四人を見ながら言う。

「そうだね、配膳係ぐらいかな。二人ずつで組めるから、休憩をとりやすいかもしれない」

「カミラ様が働かれるのであれば護衛としては十分でしょう。王城からも護衛の方が出るでしょうが、安心できますね」

 ルンデルさんが後押しする。

「カミラさんは強いの?」

 ラインが聞いてきた。

「父さんとどっこいかな?」

 俺は言った。

 この数年でカミラは強くなり実際はベルトに勝つようになっていた。

「鬼神と同等……」

 驚くライン。

「みんな、いいかな?」

 と俺が聞くと、

「お手伝いしていただきましょう。

 カミラさんが居るほうが、お母さまから許可が得られそうです」

 エリザベスが頷く。

「だったら、私も護衛として参加しやすくなる」

 ラインも乗り気。

「仕方ないですね、よろしくお願いします」

 渋々レオナさんが納得する。

(渋々?

 焼き役が俺で、配膳が王女様、ライン、レオナさん、カミラなんだろうな。

 まあ、学園祭っぽいのも久々だ。

 楽しむかね)

 そんなことを思いながら、ケインは女性陣を見るのだった。

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