第24話 学校祭があるそうです。

 夏休みが終わり、学校が始まる。

 エリザベスとラインがGクラスに現れた。

 そこで、

「学校祭があるんでしょう?」

 とラインが声をかけてきた。

「らしいね。

 どんな事をするのかまでは知らないけど……」

 ケインが興味なさそうに言った。

「そうですね。

 学校を解放して、学校内での剣術トーナメント、魔術トーナメント、ペアによる剣術魔術混合トーナメントを見てもらいます。

 これは、今後の就職にも関わりますから、皆真剣なんです。

 あと有志による模擬店ですね。

 トーナメントは一年生では参加できないので参加できるのは模擬店になります。

 しかし、何も参加していないと各トーナメントの手伝いにまわされます。

 模擬店をする者はあまりいないらしく、結局はトーナメントの手伝いにまわされるそうです」

 エリザベスが解説する。

「エリザベス王女様、よくご存じですね」

 ケインが聞くと、

「お兄様から教わった事の受け売りです。

 でもお兄様でさえ貴族たちの世話をしたと言っていましたから、

 私もそのような事をしなければならなくなるのでしょうね」

 苦笑いのエリザベス。

(ラインもあまり乗り気ではないらしい。

 あまりやりたくないのかな?

 俺的には学園祭と言えば模擬店)

 ケインはそう考えると、

「模擬店やってみる?」

 と二人に聞いてみた。

(王女が居る模擬店なんて絶対に客が来るだろうな)

 ケインが勝手に思っていると、

「私は料理などしたことは無いですが……」

 不安そうにエリザベスが言う。

「そこはどうにでもなると思いますよ。

 作るのは俺で、配膳は二人で。

 ラインさん、ちなみに子供の小遣いってどれくらい?」

「あなたも子供なんだから小遣いぐらい貰っているでしょう?」

 ちょっと膨れるライン。

「俺、十歳から冒険者ギルドに登録してるから、小遣いなんて貰ってないよ」

 当たり前のようにケインが言う。

 ラインは驚いた顔でケインを見ると、

「でも、この学校の授業料とかはどうしてるのよ?」

 と尋ねた。

 ケインは、

「溜めていたギルドの報酬から自分で払っています」

 と言って胸を張る。

 そして、

「だから、同年代の子供が簡単に買える金額って言うのを知りたいんだ」

 と今度はラインに問い返す。


 ラインは天井を見て考える。

 そして、

「えーっと、私の小遣いが大銀貨一枚ぐらいだから大銅貨一枚ならばなんとか……」

 と言った。


 ふむ総額五千円ぐらいか……。

 市民はもっと少ないだろうな。


 計算を始めるケイン。

 そして、

「ちょっと、協力を仰いでくる」

 と言ってケインが立ち上がると、

「えっ、誰にですか?」

 とエリザベスが聞いた。

「Dクラスのレオナさん」

 そう言ってケインは教室を出る。

 その後ろに王女様とラインがついてきた。

(んー、偉いさんを後ろに歩かせてもいいのかね)

 ケインはそんな事を考えながら廊下を歩く。

 Dクラスの教室を覗き込むと、レオナが居た。

「おーい、レオナさん」

 ケインは教室の外から声をかけた。

 レオナが振り向き俺を確認すると、

「ケイン様、何か御用でしょうか?」

 と教室の外まで出てきた。

「えっ、王女様と護衛のライン様?」

 驚くレオナが、

「Gクラスにはあり得ない編成」

 と呟く。

「まあ、それはいいんだけど、学校祭の時に何をするつもり?」

 ケインが聞くと、

「模擬店をしたいのですが、周りがあまり乗り気じゃないんです」

 少し元気がない声でレオナが言う。

 そんなレオナを見て、

「丁度良かった。

 俺たちで模擬店をしようかと思っててね。

 どう? 一緒にやらない?」

 ケインが声をかけた。

「えっ、いいんですか?

 ケイン様が出す模擬店……。まさかお菓子?」

 レオナは期待に満ちた目。

「ご名答だ。

 プリンやケーキのような高いものではなく、簡単で安いお菓子を売ろうかと思ってる」

「売価は?」

「銅貨二枚。実際に売るなら、銅貨五枚かなぁ」

「材料は?」

「小麦粉と牛乳、そして卵とアベイユの蜜でどう?

 ホイップクリームは追加料金だね。卵が少し高いが、レオナさんがルンデルさんにねだれば安くなるかなと……。

 蜜は大量には要らないし」

「ケイン様の家でも手に入るではないですか」

「まあ、そうなんだけどね」

「で、手伝ってくれる?」

「はい!」

 レオナの参加が確定した。


 蚊帳の外のエリザベスとライン。

「えーっと、話の流れから聞くと、ケインさんがプリンとケーキを発案したようなのですが……」

 エリザベスが聞く。

「あっ……」

 レオナが口を押える。

(もういっか……。俺が言ったようなもんだし)

 観念したケインが、

「そう、私が発案しました。

 でもこんな若造が売り出しても買ってもらえないでしょ?

 だからルンデル商会に依頼して販売をしてもらっているんです。

 でも売り上げの一部を貰っているので損はしていません」

 と暴露すると、

「だから表に出てないんだ」

 ラインが納得する。

「商会で最近売り出したアベイユの蜜。

 これもケイン様が発案した『養蜂』というものです」

(ありゃ余計なことを……)

 ケインがレオナを睨むが既に遅い。

「あれ、冒険者ギルドで売っている蜜と違って不純な物がなくて甘くておいしいって有名なんだよ」


 ルンデル商会の蜜は、純粋な蜜をアベイユに分けててもらい、布で濾して不純物は除去してある。

 冒険者ギルドの蜜は、アベイユを討伐し巣を壊して採集したもの。

 アベイユの体液や巣の不純な味も混じる。そこで味の差が出ているといわれている。


「継続して蜜を得られるのなら、商売になるでしょう?

 これも私の力では出来ませんよ」

 じーっと俺を見る視線が三つ。

「どうかしました?」

「年上の方に感じます」

「子供っぽくない」

「私たちと違う発想をする」

 王女様、ライン、レオナが言う。

「いかんかな?」

 ケインがわざと大人っぽい言い方をすると、

「私は……好ましいです」

「私はそれがいい」

「私は真似できるようになりたい。

 だって私はルンデル商会の後を継ぐんだから」

 それぞれの回答。

「まあ、とりあえず皆で模擬店するか?」

 ケインの提案に、

「「「はい」」」

 三人が頷き、模擬店出店が決まった。


 レオナが出店申請をすると決まった後、

「さて、試食会ぐらいはしないとな。

 ついでに詳細を詰めるか……」

 ケインが呟いた。

「えっ?試食?」

 ラインが驚く。

「いや、食べておいしくないものを売れないだろ?」

 ケインが言えば、

「どこで?」

 ラインが近寄って見上げた。

 ケインのほうが背は高いため、必然的に上目遣い。

 ラインの圧に驚き、

「うっ、うちで良いなら作るけど?」

 ケインが言うと、

「「「ケインさん(様)の家?」」」

 三人の勢いにケインは驚いた。

「ルンデルさんにも頼みたい事があるから、できたら一緒に来てもらえるように頼んでもらえないかな?

 試食会をするなら次の休みだね」

 ケインが言うと、

「お父様に聞いてみます」

 レオナは頷くのだった。


「エリザベス王女様とラインさんは護衛の関係もあるでしょうから無理にとは言いません。ちゃんとご両親に相談してから参加してくださいね」

 ケインが言うと、

「絶対参加する」

 握りこぶしを作り来る気満々のライン。

「私はお母さまに相談してみないと……」

 少し不安げなエリザベス。


 結局のところ、王妃様の

「鬼神と魔女の家。

 それもあなたを簡単に倒すような息子が居る家。

 そんな所なら何が来ても大丈夫なのでは?

 美味しいお菓子であれば、私も食べてみたいものです」

 という言葉でエリザベスの試食会の参加許可が出た。

 それに便乗したラインは、

「私はエリザベス様の護衛です。当然ついて行きます」

 と親に言って確定。


 レオナは、

「お父様、学校祭で出店する模擬店の試食会をすることになったんだけど、行っていい?」

 とルンデルに言うと、

「模擬店ですか? どなたと?」

 という話になる。

「ケイン様とエリザベス王女様と護衛のラインさんと私になります」

「ケイン様が! ぜひ行きなさい」

「それで、試食会の時にお父様も来て欲しいと」

「わかりました。

 私も参加します。

 私も必要とは、何のお話でしょうか?

 楽しみですね。」

 ということで確定。

 ルンデルの揉み手が早かったという。

 こうして、三人全員参加になる。

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