第29話 パジャマパーティーです(ほろ酔い中)。

「女性陣が風呂を出て寝室に入った」とメイドからの連絡があり、空いた風呂にケインも入る。

「おお、広い。

 ちょっとした公衆浴場だ。

 毎日掃除したり、湯を張ったり大変だろうに……」

 ケインは縁に頭をかけ大の字になって体を浮かせる。

(んー、体がデカくなったなぁ。

 息子も前の世界越えか。

 小さいよりは大きいほうがいいのだろうが……おさまりが悪くて困る時がある)

 くだらない事を考えながら、体を洗いさっぱりすると風呂を出た。

 風呂を出るとメイドが待機しており、

「お部屋はこちらになります」

 と言ってケインを連れて行く。

 扉の前に立つと、

「きゃはは!」

「私も……」

「何それェ!」

「お三方!」

 と、聞いたことのある声。

「えーっと、同じ部屋じゃないよね」

「はい、決して同じ部屋ではございません」

(いかん、ルンデルトラップしか考えられん)

 扉を開け中に入るとツインのベッドがある部屋だった。

 それ以外に何も無い。

 ケインは中に入り、ベッドに横になった。

 隣からは女性陣の声。


「わざわざ壁隔てただけってのは無いだろう……うるさいな」

 結局ベッドから出てトイレを捜した。

 無意識に近くにあった扉を開ける。

「カチャリ」

 隣に居た四人がほぼ全裸で居た。

 目が合うが、何のリアクションもせずに閉め、ロックの魔法を使う。

(おし、鍵がかかったな)

 指差しで確認すると、

「さーて、トイレに行って寝るかぁ」

 と言って、トイレにこもる。


「ドンドンドンドンドン……」

「あけろー! 覗き魔ぁ!」

 ラインの声だ。

「私の体を見て反応なしなのですか?」

 リズの声。

(酒を飲んでいるから強気?)

「私は、貰ってもらうからいいや」

 さらに強気が居た。

 ロックは解除しないケイン。


「ふう、スッキリ」

 トイレを終え外に出ると、ちゃんと寝間着を着た四人が部屋の中に居た。

(なぜ?)

 部屋の入口の扉が開いている。

(失敗だ、テヘ)


「えーっと、何?」

「裸を見られました。

 あなた以外にお嫁にいけません」

「えーっと、見てない見てない。

 顔しか見なかったし。それに俺カミラの胸ほうが……」

 ケインは三人の後ろに炎が上がるのが見えたような気がした。

「私だって、数年もすれば」

「お母さまは大きいのです。

 私もそうなるはずです」

「わたしは……わからない」

「私は旦那様が絞った牛乳を毎日飲んでから育ちました」

 カミラが言った一言にレオナの炎が大きくなる。


 裁判が始まった。

「お父様、ホルスの乳を飲めば胸が大きくなると聞いていたのですか?」

「ああ、聞いていた」

「なぜ、私に言ってくださらなかったのですか?」

「レオナには早いかと思ってな。

 カミラ様ぐらいならわかるが……」

「女性は胸ではないとはいえ、胸を気にもするのです。

 それも早めに対処しておかなければ、成長が終わってからでは遅いのです。

 ですから、毎日私の食事に牛乳を付けてください」

「わかった」

 渋々了承するルンデルさん。

 そして、リズとラインにも牛乳が配達されるようになった。


(ウンウン、良かった良かった)

「さて、終わったな。皆寝るぞ」

 ケインは知らない振りをして、終わった感を漂わせながら布団に入ろうとした。

 カミラも便乗して俺の隣のベッドに入る。


「さーて、私たちも寝ようか……っておい! 私の裸は?」

 ラインの見事なノリ突っ込みがケインの背中に炸裂する。

「だって、半分以上はあの人のせいだぞ?」

 ケインはルンデルさんを売る。

「それでも見たのはケインさんです」

 リズが怒る。

「カミラ並みになってから言ってください」

 俺が言うと、

「「うう……」」

 と何も言えなくなったようだ。

「頑張れ少女たち」

 そう言うと目を瞑った。


「でしたら、私たちがケインと一緒に寝ても何も感じないということですね」

「おっ、そういうことか……」

「いいね」

 三人組の反撃か。

 酔っているからとはいえ大胆だな。

 モゾモゾと俺の周りに入ってくる。


 俺は布団を出ると、

「んー、俺帰る。

 このままリズやラインと一緒に寝ると、バレた時に問題が出る」

「なぜ?」

 リズが聞いてきた。

「考えてもみろ!王様、王妃様、王子様、ラインの両親、その部下、全部ひっくるめて影響が出るんだぞ?

 あのな、二人は良いと言っても、現実的に周りの者がリズやラインに今の俺がふさわしいと思ってくれると思うか?

 レオナは親であるルンデルさんが俺の事を知っているから許してくれているだけだ。

 鬼神、魔女の息子とはいえ、結局いいとこ見せて出世しないとリズやラインは貰えないだろう」

 ケインが現実的な事を言うと、

「その努力を私たちのためにしていただけると?」

 覗き込むように見てリズが言い返す。

「んー、リズのためにはしない。

 俺が二人を欲しいからする。

 そうじゃないと二人に失礼だからね」

(ちょっとした違いだが、意味は全然違うと思う)

 ケインが思っていると、

「わかりました。

 私もあなたと婚約するためにフォローします」

「わたしだって、フォローする」

 リズとラインは納得が見合って頷く。



「それじゃ、婚約していない三人は向こうの部屋で」

 と俺が言うと、

「えっ、私はお父様もいいって言ってるし」

 とレオナは反論する。

「ケインは言ったわよ『婚約していない三人』って」

「そうね、『三人』って言いました」

「だってーーー!

 お父様がいいって言ってるのにぃーーー」

 ラインとリズに引きずられ、レオナは隣の部屋に戻る。


 そして、部屋が急に静かになる。

「私に初めて友達というものができました。旦那様のお陰です。

 私はあの三人とならやって行けるような気がします」

 カミラが言う。

「良かったな。

 皆といろいろ話せばいいと思うよ」

 俺は照明を消すと、カミラと二人で寝るのだった。


 朝、少し早めに起きて調理場へ向かう。

 俺が着替えているうちに、カミラも起きて後ろから付いてくる。

 リズとラインが食べたことが無いであろうプレーンオムレツを朝食に出した。

「これが、卵」

「フワフワ」

 リズとラインが驚いていた。


 こうして模擬店の打ち上げが終わる。

 見送るケインとカミラ、レオナ、ルンデル。

 リズとラインは馬車に揺られて帰っていった。



「ケイン、どうするの」

 レオナが聞いてきた。

「そうだねぇ、GクラスでAクラスの最上級生の筆頭に勝てば目立つかなあ」

「王子を倒すってこと?」

 レオナが聞くと、

「旦那様。

 手抜きはやめなければいけませんね」

 カミラ笑いながら言った。

「そうだなぁ、俺は目立たないようにわざと手を抜いてGクラスに入ったのに、結局目立つ必要が出てきてしまったようだ。

 言ったからには約束を守らないとね」

 ケインが言うと、

「えっ、手抜き?」

 とレオナが驚いていた。

「そうですよ。旦那様は既に鬼神も魔女も超えています。

 そして、この王都の近隣の森で発生したオークの群れを単独討伐しております」

「あっ、お父様を助けた時!」

「レオナ、私は報告をしていないが、ケイン様はその際に群れの長であるオークキングも討伐している」

 レオナは再び驚いた眼でケインを見上げた。


「さて、俺もそろそろ帰るよ。

 お泊りなんて初めてで楽しかった。

 ルンデルさんの罠が無ければもっと楽しめたかな?」

「それは申し訳ありませんでした。

 しかし、レオナを含め学生たちは楽しめたみたいですね。

 ケイン様がいろいろとはっきりおっしゃったと嬉しそうにしていました」

 したり顔のルンデル。

「カミラもお疲れさんだな」

「私は友達が出来たから楽しかった」

 ルンデルが、

「ケイン様、私はレオナが好きなあなたをフォローすることに決めました。

 わが家はケイン様の家だと思ってください。

 何なら、私のことを『お父さん』と呼んで……」

 と言ってきたが、

「それは早い」

 食い気味に否定するケインであった。

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