第22話 カルオミガが現れたそうです。

 アベイユの蜜が軌道に乗ったころ。

「大変です、カルオミガが巣を作りました」

 と言って、ルンデルがケインの家に来た。

「カルオミガ?」

 ケインは首を傾げる。

「はい、アリの魔物の一種で、花の蜜から白い砂糖を作り出す能力があり、倉庫アリというアリが腹の中にその白い砂糖を溜めるという習性があります。

 また兵隊アリは強く、多くの冒険者が命を落としています。討伐ができれば砂糖を得られますが、数が多く討伐が難しいため、討伐を依頼してもギルドで受けてくれる冒険者も少ないのです」

 ルンデルが首を傾げていた。


「私に討伐しろと?」

「そういう訳ではありませんが、できれば知恵を貸していただこうかと」

 元気のないルンデルの揉み手。

「それこそアベイユのように飼ってみればどうですか?」

「えっ?」

(カルオミガは魔物。

 ルンデルさんは飼うことなど考えていなかったか。

 しかし、アベイユでさえ飼いならすことは可能なのだから、カルオミガでもできるはず)

 ケインは考える。


「条件を出して砂糖を分けてもらう。

 白い砂糖は高価なのでしょう?

 だったらやってみる価値はあるかと思いますが。

 プリンやケーキに使っている砂糖は確か購入品でしたよね。

 それが自給になれば、利益率が上がりますよ?」

 ケインが言うと、

「その交渉をやってもらえますか?」

 探るようにルンデルが聞いてきた。

「まあ、言った手前、私が対応しましょう」

 そうケインが言うと、ルンデルは喜ぶのだった。


 早速場所を聞き、ケインはカミラとともにカルオミガの巣を目指す。

「カルオミガとは珍しいな」

「そうなの?」

「旦那様は知らないのか?

 地下に大きな巣を作り大軍を養う。

 ルンデルさんが植えた花が咲き始めたことで、その蜜を得ようと働きアリたちが来たのかもしれないな」

 話しをしながら巣の近くまで来ると、ポツンポツンと気配感知に魔物がかかる。

(これがカルオミガの魔力か……にしても、あまり多くないぞ?)

 ケインが思っていると、

「旦那様、思ったよりも数が少ないですね」

 カミラも気付いたようだ。

「そうだな、何か事情があるのかもしれないな」

 そう言いながらも近づくと、五十センチはあろうかというアリが現れた。

 頭の大きさがその半分近くあり、カチカチと大あごを鳴らして威嚇する。

(これが兵隊アリか……)

 ケインは兵隊アリを見た。

(そう言えば、アベイユたちは顎を鳴らして会話ができたな)

 そう思い、

「お前も、顎を鳴らして話せるか? 俺たちは話し合いに来た」

 ケインが言うと、

「付いてこい」

 と、返事をした。

 ケインとカミラが兵隊アリに付いて行くと、更に二匹の兵隊アリが現れ、ケインたちを囲んだ。


 ふむ、他には魔力は無いな。

 これがこのカルオミガたちの最大戦力という訳か。


 高さ一メートルぐらいの穴があり、その中に俺たちは入る。

 すると一番奥に胸までが五十センチ、腹がさらに五十センチという巨大なアリが居た。

(見たまんま女王アリか)

 ケインが周囲を見回すと、五センチほどの卵が数多く転がっている。

 それを働きアリたちが世話をしている。

「お前たちが私に話があると、この者に聞いた」

 兵隊アリを見ながら女王アリが言った。

「ええ、交渉に来ました。

 あなた達の保護とあなた達へ蜜を出す植物を提供する代わりに出来上がった砂糖の一部を分けてもらいたいと思いまして」

 ケインが言うと、

「なぜ我々がそんなことを?」

 首を傾げる女王アリ。

「考えてもみてください。あなたたちは我々にとって魔物という敵です。

 でも、ルールを守り我々にとって利益があるのだとわかれば、あなた達は仲間です。

 我々と戦うよりも共存したほうがいいのではないでしょうか?

 見たところあまり仲間もいない様子。

 巣を大きくするための取引でどうでしょう」

「我々は何を提供すればいい?」

 女王アリが言った。

「こちらとしては、そちらが困らない程度の砂糖をもらいたいと思います」

「私は女王になって日が浅い。

 今から働きアリを増やし、蜜から砂糖を生成し、倉庫アリに蓄えなければならない。

 もし砂糖を提供できるようになるとしても冬を越し春になるが……」

「私はあなた達と戦って砂糖をもらう気はありません。

 ですから、あなた達に余裕ができたらでいいです。

 来年でも再来年でも待ちましょう。

 ただし、あの花畑にはアベイユも居ます。

 私からも村人とアベイユたちに『カルオミガに手を出すな』と言っておきますが、そちらも働きアリと兵隊アリに『村人とアベイユに手を出さない』ように言っておいてもらいたい」

「しかし、村人とそうでないものは私には判断できないが?」

「大丈夫です、襲ってきた者は村人ではありません。

 遠慮せずに戦ってください」

「承った」

 と女王アリが言った。



「というわけで、砂糖を得られるのは来年以降です。ただ、巣が大きくなれば得られる砂糖も増えます。

 しばらくは静観でいいんじゃないでしょうか?」

 そうルンデルに言うと、

「そうですね、砂糖は今まで通りで外部購入します。

 そして、カルオミガの巣の周辺には時期をずらして花の種をまくようにしますね」

 ルンデルは頷く。

「そのほうが、砂糖を得るまでの時期が短くなりそうです。

 ああ、決してカルオミガを攻撃しないように……殺されますから。

 ラムル村に委託するならば、そこはちゃんと言っておいてください」

 カルオミガとの契約を言うと、

「わかりました。早急に連絡しておきます」

 書面を作り始めるルンデルだった。

 こうしてカルオミガがラムル村で飼われることになる。

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