第21話 夏休みです。
ケインが授業を受け、いろいろと学び、エリザベスとラインがGクラスに顔を出すのが当たり前になったころ、学期が終わり、夏休みになった。
(特に何もない日々が続く。
暑いのかと言うと、そう暑くもない。
地図が発達していないためどんな感じの国なのかは知らないんだよなぁ。
外から来た生徒のため六十日程度の長い休みなのも暇な原因。
それでも学校が無いのでエリザベス王女様とラインに絡まれないから気が楽だ。
暇な時にカミラとギルドで依頼を受けるぐらい。
ルンデルさんのところも、コッコー、ホルス共に数が増え、プリンもケーキも安定生産できるようになっていた。
今度は焼き菓子かな……)
ケインがそんな事を考えながら、ジャージーの乳を搾っていると、一匹の働き蜂がケインの前にやってきた。
肩に止まると、
「ケイン様」
と声をかけてくる。
「何だ?」
「あのウロでは手狭になり、巣別れの時期が近付いております。
どこか良い場所は無いでしょうか?」
巣別れとは群れが一つから二つに分かれることを言う。
新しい女王蜂が産まれると、母親の女王蜂が巣の蜂を半分連れ新しい場所で巣を作るのだ。
「ちなみに、俺んちの周りに花は多いか?」
「群れ一つなら問題ありませんが、二つになると難しいかと……」
「分蜂までの余裕としては?」
「そうですね十日程度でしょうか?」
「ちょっと、人と相談してくる。
結果がわかれば、巣に行くよ」
「畏まりました」
そう言うと、働き蜂はケインの肩から飛んでいった。
早速ルンデルの家へ向かおうとしたケインを見つけ、カミラも付いてきた。
ルンデルの家の門番にも顔を知られ、ルンデルが居る時はすんなり家に入ることができる。
「お疲れ様です」
とケインが声をかけると、
「ああ、ケイン様、今日はご用事で?」
と門番が聞く。
「ええ、相談事に来ました。
ルンデルさんはご在宅で?」
「はい、いらっしゃいますよ。
ラウンさんにお伝えしてきましょう」
そう言うと門番はケインより先に中に入って行った。
(門番が居なくて大丈夫なのだろうか?)
そんな疑問を持つケインだが、ケインとカミラが中に入ると、玄関にはラウンが待機していた。
「こんにちは、急で申し訳ありません」
ケインが頭を下げる。
「いえいえ、ケイン様なら問題ありません。
主人は既に客間に降りますのでお連れしましょう」
ラウンに付いてケインとカミラは客間へ。
中に入るとルンデルが居た。
ケインたちはその向かいに座る。
「急な話とは?」
早速ルンデルが聞いてくる 。
「ルンデルさんがアベイユを飼う気は無いかと思いまして……」
「アベイユをですか?
ケイン様の家にいるアベイユを?」
「いいえ、この度アベイユに新しい女王蜂が誕生したようで、群れが二つになります。
わが家で飼ってもいいのですが周辺の花が少ないようで、群れとしては一つが限界のようです。
ですから近くに森のあるラムル村でアベイユを飼わないかと提案しに来たのです」
すぐに、
「アベイユの蜜は高価です。
ぜひお願いします」
ルンデルが頷く。
「私は、この位のツボ一つを一週間で満タンにしてもらう契約をしています。
ですからその程度の量が手に入ると考えてください」
ケインは拳ぐらいのツボを見せた。
「一つお聞きしても?」
ルンデルがケインを見る。
「はい」
「なぜ、アベイユを飼おうなどと考えたのですか?」
ルンデルが不思議そうにケインに聞いた。
「全滅させれば蜜は一度しか手に入りません。
しかし、分けてもらえるならば蜜は群れがある限り手に入ります。
群れを増やせば当然手に入る蜜の量も増えます。
蜜はなかなか手に入らないんでしたよね」
「はい、その通りです。
冒険者たちも数が多いアベイユを相手するのを嫌うため、蜜は高価なのです」
それを聞き、ケインはニコリと笑う。
そして、
「今は夏休み。
私は暇ですが……。
ラムルの村の周りに花が咲けば、もっと群れが増やせそうですねぇ」
ケインは悪い顔をした。
はっと気づくルンデル。
「ケイン様、カミラ様に指名依頼をしてもよろしいでしょうか?」
ルンデルも悪い顔だ。
「いいですよ」
「アベイユの群れを連れてきてください。
一つとは言わす複数。
多いほうがいいです。
早速、今日にでも冒険者ギルドに依頼を出しておきますね」
「ルンデルさん、群れを入れる箱が要ります。
このくらいの箱を作っておいてください」
縦横が五十センチ、高さが一メートルほどの箱を指定した。
「畏まりました。早急に作ってラムル村に置いておきます」
次の日には、冒険者ギルドにカミラ指名の依頼が出ていた。
その依頼を俺たちは受ける。
三日で巣箱が出来あがり、ラムル村にケインの家のアベイユの群れが移動した。
そして夏休み中アベイユの群れを探す。
ケインの家に居た働き蜂が、
「この人のところに行けばカラブロは気にしなくてもよくなる」
と説得してくれたおかげで、ラムル村には十一ほどの群れが集まった。
計十二の群れ。
(一週間で巣一つ分の蜜にはなるだろう)
巣箱に入ったアベイユを見ながら頷いていた。
ケインはルンデルに、
「周囲に時期を分けて花を植え、花を絶やさないようにするといいですね」
と言っておいた。
そして、夏休みが開ける頃、ルンデル商会の商品に蜜が増えるのだった。
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