第18話 学校に入学しました。

 ケインは十二歳になった。

 ベルトの血を引いたのか身長は百七十センチ越え。

 EMSも継続しているのでケインの腹筋はバキバキである。

 小さなころから筋肉を鍛えていると背が伸びないとケインは聞いたことがあり、心配をしていたが、ベルトの遺伝子はそんな束縛を断ち切った。

 ケインはカミラの横に立っても、違和感がなくなる。


 十二歳になる年の春、学校が始まる。

 騎士養成、魔術師養成、文官養成のための場所だ。

 十四歳までの二年で共通の基礎を学び、三つのうちどれかを選択後、十六歳までそれぞれの専門を学ぶことになる。

 試験は筆記が国語と数学だった。六十点以上で合格だ。

 と言っても、小学校高学年程度。ケインには問題ない。

 しかし、目立ちたくないので、わざと六十点前半を狙った。

 実技として魔法試験と剣術試験もあったがこれは入学条件としては必要ない。

 ただ、クラス分けに必要な物らしい。

 そこで、目立つようなことはせず、皆が使う程度の魔法に留めておいた。

 つまり全てにおいて平凡……である。

 王女と一緒のクラスなんて入りたくはない一心で、ケインは手抜きを頑張った。


「母さん、父さん、目立ちたくないので手を抜きます」

 と両親に言うと、

「まあ、最初目立たなくてもそのうち目立つだろう。

 私より強いのだ。

 お前の好きにすればいい」

「そうね、目立たないようにしても目立つのがケインだから……。

 卵の件しかり、お菓子の件しかり」

 などと言われ、

(妙なフラグを立てないように)

 とケインは思う。


 試験には合格。

 成績はビリから三番。

(おう、ギリギリ)

 ホッとするケイン。

 ケインはAからGまであるクラスの最低ランクのGクラスに入ることになった。

 入学式前に、俺は両親とカミラと話をしていると。

「あいつが鬼神と魔女の息子か。

 思ったより普通だな」

「魔法も剣もある程度使えるらしいが、普通らしいぞ」

 というケインにとって好ましい声が聞こえてきた。

「旦那様。これでいいのですか?」

 声の方を睨み悔しそうにするカミラ。

「ああ、これでいい。下手に目立ったら王女様のお友達コースだ。

 覚えているだろ、悪い奴に絡まれていた女の子を助けたことを。

 あれ王女だったんだ。できるだけ遠くに居たい」

 ケインが本音を言うと、

「そう言えば、王城に行った時に王妃様に『仲良くしてやってもらえるか』と声をかけられたと言っていましたね」

 とカミラが言う。

「そう、AクラスとGクラスは一番離れている。

 だから顔を合わせることも無いだろう」

 ケインはそう思っていた。


「ケイン様!」

 と言ってルンデルが現れる。見たことのある女の子も居た。

「ああ、ルンデルさん。

 あっ、レオナさんもご一緒でしたか。

 という事はこの学校へ?」

「はい、文官系の勉強をさせておこうかと思いまして。

 この学校で得る友人は卒業後もいろいろ関わります。

 ちなみにレオナはDクラスです。

 Aクラスの編成を見ましたが、ケイン様のお名前は見当たりませんでした」

「私はGです」

 ケインがさらり言うと、

「そんなぁ。

 ケイン様なら本来Aのトップを狙えるでしょう?」

 と信用せずに聞いてきた。

「いいえ、私はGです。ほら」

 成績順に並ぶクラス内でも後ろから数えたほうがいいようなところ。

「あっ、本当に……」

 確認するルンデル。

「トップなんて要らないのです。

 トップになれば入学式の代表とか面倒でしょう?」

 ケインの言葉に、

「それは……ケイン様の輝かしい経歴の……」

 ルンデルが言葉を濁す。

「そんなものは要らないんです」

 ケインが言うと、

「えー、ケイン様と同じクラスだったら、色んなお菓子が食べられるかと思ったのに」

 本気でがっかりするレオナ。

「レオナ! すみませんケイン様」

 レオナを注意した後、ケインにペコリと謝るルンデル。

(いつも思うが、俺にそんなにペコペコしなくてもいいとは思うんだがね。

 命を助けてもらったとか、プリンで王妃様との繋がりができたとか、材料確保とかで俺に頭が上がらないらしい。

 気にしなくてもいいんだけどなぁ)

 そんな様子を見てケインは思っていた。


「それにしても、お菓子なんて持ち込んでいいんですか?」

 ケインが聞くと、

「ケイン様。お茶菓子ならいいんですよ。

 私もGクラスが良かったな」

 とレオナさんが言った。

(ああ、お茶の時間って言うのがあったな)

 ケインは思い出して苦笑いするのだった。


 入学式は学校の講堂で行われた。

 予定通り、新入生代表が王女エリザベス。

 周囲に二人ずつの男子と女子。

 取り巻き兼護衛である。

 生徒代表がフィリップという王子。

 エリザベスの兄である。

(兄妹で成績優秀とはね……)

 二人を見ながらケインは思う。


 そして入学式が終わり、両親とカミラは帰宅。

 カミラはあとで迎えに来るらしい。

 そしてケインは教室に入るのだった。


 教室では簡単なオリエンテーション。

 座学は、国語、数学、社会。実技が剣術と魔術。素質が無い者は化学や政治学などの座学を選択し試験を受けるようになっているそうだ。

 一応剣術と魔術の素質はあることになっているので、俺は参加になる。


 ケインの席は窓際の後ろから二番目。

 休憩時間になったが特にすることも無いので、ケインは外を見てボーっとしていた。

 鬼神と魔女の息子だということは知られているようで、チラチラと視線が集まる。

 ケインは『近寄るな』雰囲気を出して座っているつもりである。

(うんうん、目立たない目立たない……)

 ケインは口角を上げて笑う。

 今日はこれで終わりと言うことで、帰り支度をしていると、急に最下級のGクラスがザワザワし始める。

(おっとぉ、王女様登場。

 何故か一人だ。

 で誰に用事?

 えっ、なんで俺を見つめて近づいてくる?)

 近寄るエリザベスを見ていると、

「ケインさん。お久しぶりです」

 エリザベスがケインに声をかけた。

 周囲がザワザワと騒ぎ始めた。


(あー、俺の普通生活、オリエンテーション終了時に終わった……。

 そりゃね、既に父さん母さんが盛大にフラグを立てているから、在学中には目立つようになると思っていたけど、いきなりとはね……)

 ケインはがっかりする。


「お久しぶりです。お菓子の件依頼ですね。

 それにしても、私はエリザベス王女様に私の名前はお伝えしていなかったと思いますが?」

 ケインは少し戸惑った後、

「手の者に調べさせました」

 と恥ずかしげに言う。

(気になったとはいえ、王女にストーカーされていたのか)

 妙に納得するケイン。

「あの鬼神と魔女の息子だったとは思いませんでした」

 エリザベスが言うと、

「エリザベス王女様、親は選べません。

 でも、親には感謝しています。

 二人には剣と魔法を学び、このように自由にさせてもらっています」

 ケインは誇らしげに言う。

「剣と魔法。

 私が幼いころ我儘で王城を飛び出した時に悪い男に絡まれていた私を助けてくれた男の子が居ました。

 その男の子がケインさんに似ているのですが……記憶にありませんか?

 その男の子が連れていた女性がピンクの髪で、いつもケインさんの横に立っておられる女性に似ていたと思います」


 ケインは、

「記憶にないですね」

 と即答。

「私はその男の子に、私が我儘で動くとどうなるのかを教わりました。

 実際あの時は城内で大騒ぎになっていました」

 そんなことを気にせずエリザベスが言うが、

「でも、今も我儘でここに来たのでしょう?

 ほら、あなたのご学友兼護衛が走って来ていますよ。

 あの者たちに言ってから来たのですか?」

 チクリとケインは言った。

「いいえ。でも……」

 エリザベスが目を伏せる。

「でも?」

 ケインが聞けば、

「でも、Dクラスより下の者と話をしてはいけないと、周りの者が言うのです」

 エリザベスは残念そうに言う。

(AクラスからDクラスまでの者は貴族王族が多い。

 それだけ勉強する機会があったってことだ。

 だからこそ、それ以下は接する必要がないと考えたのか……)

 ケインが苦笑いする。

 すると、

「それでもです。

 しかし、私はマリー王妃に『友達になるように』と言われています。

 ですからちゃんと理由を話してここに来ればよかったのだと思うのですが?」

 ケインが言うと、

「理由……ああ理由ですね。『お母様がそう言っている』のですから、仕方ないですね」

 ウンウンと頷き、エリザベスは納得する。

(ん、わかっていただけたようです)


 ケインがホッとするのもつかの間、取り巻きの四人が現れる。

「エリザベス王女、探したのですよ!

 こんな下賎な者のいる場所に来てはいけません!

 Dクラスまでと言ったではありませんか!」

 おう、サラサラ長髪の男子が髪を掻き上げながら現れた。

「そうです、Dクラスなどあなたの来るところではありません」

 おぉ、銀髪おかっぱ真面目系眼鏡女子。

 残りはガッチリ系茶髪男子と、天真爛漫系の赤髪女子だな。

「ヘイネル、ソルン。

 この方は母上に友達になるように命令されている方です。

 ですから、問題ありません」

「えっ、王妃様がですか?」

 天真爛漫系が驚いていた。

「ライン。

 ケインさんは王城プリンとケーキを初めて納入したルンデル商会の会頭ともに来た方です。

 収納魔法を習得していて、型崩れを防ぐために連れて来られた時に、お母さまに会ったのです。」

 エリザベスが説明をすると、

「あーあのプリンね。

 ルンデル商会でしか扱ってないでしょ? 

 なっかなか手に入らないから私もあんまり食べたことは無いけど、あれ美味しいわよね。

 そう言えば、Dクラスにルンデル商会の娘が居たけど。お知り合い?」

 ラインがケインに聞く。

「ああ、レオナさんですか? 知っていますよ?

 入学式にはルンデルさんとも話しました。」

(そういや、今更だが姓は知っているが、名を知らないルンデルさん。

 まあいっか……)


 ケインはそんな事を思っていると、

「なぜルンデル商会と知り合いに。

 普通じゃあの商会の伝手を持つことはできないでしょう?」

 ラインが聞いてきた。

(結構掘り下げてくるなぁ)

「ああ、婚約者のカミラがオークに襲われていたルンデルさんの商隊を助けたんです。

 ですからその関係でですね」

(本当半分、嘘半分ってところ)

 ウンウンと頷くケイン。

「ケインさんのご両親は鬼神のベルト様と魔女のミランダ様です。

 婚約者も強いのは頷けます」

 エリザベスのフォロー。

(あっ、余計なことを言ったな。

 多分……)

 ケインがチラリとガッチリ系を見ると、

「何、あの鬼神の息子?

 では、手合わせできないだろうか」

 ケインの予想通りの反応だった。

(あーあ、鬼神と聞いてやる気満々になっちゃったか) しかし、

「私はGクラスですよ?

 剣でも魔法でも程々で試験もギリギリで通ったような者です。

 あなたの相手などできません」

 ケインが言う。

「そうよな。剣の腕があるのならば、このようなクラスに居るはずがない」

 妙に納得するガッチリ系。

 ホッとするケイン。

「ローグ。そのようなことを言ってはいけません!」

「しかし、エリザベス王女様。

 その方の言っている事は正しいのです。

 剣の腕があればGではなくEクラスには入っているはず」

 ローグがエリザベスに言うのだった。


 クラス分けとしては、

 Aクラス・・・剣・魔法・勉強すべてが優秀な者

 Bクラス・・・学力優秀で剣ができる者

 Cクラス・・・学力優秀で魔法ができる者

 Dクラス・・・学力優秀な者

 Eクラス・・・学力が程々で剣ができる者

 Fクラス・・・学力が程々で魔法ができる者

 Gクラス・・・全てにおいて程々な者

 である。 


「私はGクラスですから、全て程々なんですよ」

「そうなんですか……」

 がっかりとするエリザベス。

(よしよし、失望したかな?)

 ケインがほくそ笑むが、

「でも、あなたは私のお友達です。

 たまにここに来てもいいですか?」

 エリザベスが言う。

(はあ……これでもダメか……)

 ケインは諦め、

「否定しても来るんでしょう?

 王女様」

 と言うと、

「はい、よくご存じで」

 ニコリと笑うエリザベス。

「それではあまりお邪魔をするのもよろしくありませんね」

 エリザベスたちはGクラスを出ていった。


 ふとケインは視線を感じる。

「レオナさん、何を覗いているのですか?」

 ジト目でレオナを見た。

「えーっと、Gクラスの教室に王女様が行ったって聞いたから……誰に会いに行ったのかなぁと……。

 やっぱりケイン様だったんだ」

「やっぱりって……。

 ルンデルさんと王城に行った時に言われたことがあったんです。

『エリザベスの友達になってやってくれ』ってね。

 その事をエリザベス王女様が覚えていたみたいで、私を探してここに来たようです。」

「そう言えばそんな事もあったかしら。

 うちは儲けているけど、プリンもケーキも発案者はケイン様だった。

 なぜ、表立って動かないの?

 剣の腕も魔法の腕も表に出していない。

 そうすればもっとお金も力も入るだろうし……」

「プリンの件は私には作れたとしても販売はできませんよ。

 ルンデルさんほど力も無い。製造、販売、営業。

 私のような小僧が『美味しい』と言って、王城までプリンの話が通ったと思いますか?

 それはレオナさんの人脈。

 つまりルンデルさんの人脈があったからこそ、王城にプリンの話が通り、王妃様が気になされた」

「…………」

 レオナさんが黙る。

「ルンデルさんのような大商人が行うほうがいいんです。

 それに売り上げの一割を貰ってますから、私も儲けていますよ?

 お金を得るだけなら、こういうやり方もあるんです」

 俺が笑って言うと、レオナさんはきょとんとしていた。


「ケイン様。今日は学校も終わりでしょ?

 お父様も待っていると思うの。

 だから、馬車で送ってさしあげようかと……」

(そっちが本当の理由か……)

 苦笑いをするケイン。

「ありがとう。

 申し訳ないんだけど、多分カミラが正門で待っているだろうから、カミラと帰るよ」

 そう言うと、

「んー残念。

 そうよね、あんな綺麗な婚約者が居るんだし」

 と言った後、

「さようなら、また明日」

 そう言ってレオナは教室を出ていく。

(ふう、千客万来だな……)

 ケインは、片づけを終え正門へ向かう。

 門の傍にピンクの髪の女性。

「おーい、待たせたな」

「あっ、ケイン」

「じゃあ、帰ろっか」

「うん」

 ケインの腕にカミラは抱き付く。

 生徒たちはケインたちを見て指差していた。

(これじゃ結局目立つな)

 そんなことを思いながら、家に帰るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る