第19話 剣術の授業が始まりました。
剣の適性がある者には剣術授業というものがある。
これは、AからGのクラスが同時にやる授業で、ケインもその参加者の一人になる。
(ありゃ、なんだが初参加なのにすでに目を点けられているな。
睨んでいるのは、エリザベス王女の取り巻き、ヘイネルとローグか……)
ケインは目をそらしてそ知らぬふり。
授業が始まり、先生である騎士から、
「えーっと、適当に二人組を作ってください」
と、声が聞こえた。
(ちなみにGクラスで剣術授業に出ているのは俺だけ……。
ありゃ、相手が居ない。ボッチだ……。
まあ、誰か余らなければ先生とって事になるのだろうが……)
そんなふうにケインが思っていると、
「ケインさん。組みましょう」
とエリザベスがやってきた。
「あのー、どうして?」
唖然とするケイン。
「私はお母さまが良いと言った殿方としか組むことができません。
ヘイネルはAクラスでBクラスのローグとは仲がいいので別の人と組ませるのはかわいそうでしょう?
ですから、私とケインさんが組むのが正解なのです」
エリザベスが言い切った。
(何が正解なんだ?)
首を傾げるケイン。
ヘイネルとローグ、どちらかがエリザベス王女様の相手をしようと走ってくる。
しかし、先生は周りを見て、
「はい、決まったな。
それじゃ、剣を持って打ち合って」
と言った。
(はいアウトー!
ヘイネルとローグは間に合いませんでした……でいいのか?)
渋々二人は剣を合わせ始める。
逆に苦笑いのケイン。
「ケインさんは本当に剣術ができないのですか?」
王女様は聞いてきた。
「入学の判定では程々ですね。
でも何をしてもいいのなら勝てますよ?
私は魔法も使えますからね」
「私はそんな戦い相手を知りませんからそれでお願いします。
これでも指南役からは筋が良いと言われているんです。」
自信の目でケインに言った。
(向上心ありすぎでしょう)
困ったケイン。
しかしそんなことはお構いなしに、
「それでは……始めましょう」
エリザベスが剣を構えるのだった。
ケインはエリザベスの顔の周囲の水分を多くして霧を発生させ、視界を奪う。
「えっ、見えない」
そして、木剣で軽く手を打つ。
「はい、終わりです。
戦いでしたら手首から先はありません」
唖然としてケインを見る王女様。
「強い」
エリザベスが言うが、
「強いというよりズルいというのが正しいでしょうねえ」
ケインは言い替える。
「でも、簡単に私に勝った」
エリザベスがボソリと呟いた。
「お前がエリザベス様に勝つなど許せん」
横から声が飛んできた。
ヘイネルである。
「いいのです、私が頼んだのですから」
エリザベスが止めに入るが、
「いいえ、本来であれば組むのは私だったはず」
さも当然のようにヘイネルが言うが、
「ヘイネル様、あなたが遅かっただけでしょう?
まさか、エリザベス王女様があなたと必ず組むとか思っていたんじゃないでしょうね?」
とケインが言うと、当たりだったのかヘイネルの顔が真っ赤になった。
「ばっ馬鹿を言うな。
相手はエリザベス王女様が自由に選ぶ」
ヘイネルの言葉に合わせ、
「だったら、問題ないじゃないですか」
ケインが言うと、
「いいや、私もローグもエリザベス様には勝ったことがない」
と実際の実力の話をヘイネルが言う。
「でも、あなたたちは本気で戦ってないからでは?」
ケインが推測で言うと、
「そうなのですか?」
王女様が愕然としながら二人を見た。
「いいえ、私たちは本気で戦いました。それでも負けた」
(ありゃ? 本当に王女様が一番強いの?)
ケインはエリザベスを見る。
「だから、余計に信じられん。
魔法も剣も両方使えば王女様のほうが強いはずだ」
ヘイネルが言うとケインも意味が分かったのか、
「ああ、そういう事か。
私だけ魔法を使っていたから勝ったのは無効って事ですね?」
と言うと、頷くヘイネル。
「じゃあ、王女様、魔法も剣も思いっきり使ってください。
私は程々の魔法と程々の剣で戦います」
と言うケインの言葉に、
「いいのですか?」
ちょっとうれしそうな王女様が聞くと、
「いいですよ?
王城ではあまり楽しめていないようだ」
ケインが頷く。
「それでは行きます」
の言葉で模擬戦が始まり、王女様のスピードが上がった。
(とはいえカミラのほうが早いなぁ)
エリザベスを見ながらケインは思った。
エリザベスの剣筋をギリギリで避ける。
エリザベスは少し離れ、
「炎たちよわが手に集え!
ファイアーボール!」
という詠唱とともに火球を打ち出した。
ケインは、手を出し水の膜を作る。すると、ジュっという音がして火球が消えた。
「!」
魔法が消えると思っていなかったのかエリザベスに驚きが見える。
(そりゃ、火より水のほうが強いのは当たり前だろうに)
そんな姿を見てケインは思う。
手にある水を飛ばし王女口元を覆った。
(これで、魔法は無いな。
本来なら、鼻も口もふさいで窒息させて気絶に追い込むが、窒息させるとあとがうるさそうだ。
口だけで我慢)
苦笑いしながらケインは模擬戦を続ける。
エリザベスは魔法が使えなくなり、木剣で再び俺に切りつけようと走って近づいてきた。
ケインの直前でエリザベスの足が埋まる。
表面の土を残し、ケインの前を泥にしていたのだ。
踏ん張れなくなったエリザベスが派手に転んだ。
そして立ち上がろうとしたところに、コツンと軽く当てる。
「はい、終わり」
ケインはエリザベスの口の周りの水分を除いた。
静まり返る周囲。
「えっ、ダメな事した?
強い魔法も使ってないし……」
すると先生が俺の肩を抱き囁いてきた。
「ケイン。
俺はベルトさんの下で働いている者だ。
お前、どれだけ力を持ってる?
お前の戦い方は強い者の戦い方だ。
エリザベス王女と言えば、ベルトさんよりは弱いが指南役を倒すぐらいの実力だぞ?
『Gクラスに息子が居て、何かやらかすかもしれないが、温かい目で見てやってくれ』の意味がやっと分かった。
無詠唱での魔法。
切っ先を最小限でかわす技術。
超一流じゃないか」
その言葉を聞いて苦笑いするケインは、
「ばれます?」
と先生に聞いた。
「見る者が見ればな」
と頷く先生。
「エリザベス王女様は気付いたかも。
黙ってはおくがばれても知らんぞ」
と言って体を離した先生に、
「ありがとうございます」
ケインが頭を下げると、先生は、
「見ての通り、戦い方次第でGクラスの者がAクラスの者に勝つことができる。
戦いという物は綺麗ごとでは解決できないこともあるので、油断しないように!」
と、まとめて授業を終えた。
「大丈夫ですか?」
俺は王女様に近寄った。
「私は負けたのですね」
「どうなんでしょう。
王女様は正しい戦い方をしたのではないですか?」
「『戦いはきれいごとだけではない』と先生もおっしゃっていました。
本当の闘いなら私は捕虜になっているでしょう」
「そう言うのを学ぶために学校に来たんじゃないんですか?」
「そうですね。
それにしても無詠唱とは……」
「私は強い魔法は使えません。
ずるく戦うには前もってわかる詠唱など使っては負けてしまいます。
あれで、『土に……』とか言っていたら、エリザベス王女様は警戒していたでしょう?」
「そうですね。
私も無詠唱を勉強したいのですが、どうすれば?」
「母さんの部屋にあった本に『魔法はイメージ』と書いてあったと思います。
水ができる過程。
火ができる過程。
泥になる過程。
そう言うのをイメージして無言で魔法をかけてみればそのうちできるようになりますよ。
おっと、次の授業がある。
男はすぐに着替えられますが、女性であるエリザベス王女様はいろいろあるでしょう?
それでは失礼しますね」
そう言うと、ケインは更衣室で着替えGクラスの教室に戻るのだった。
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