第9話 商人を助けました。
カミラが手で庇を作り状況を見ている。
「オークが荷馬車を追っかけてるな」
爆走する三台の荷馬車。
その後ろに土煙を上げながら追いかけるオークの集団。
頭ひとつ大きいハイオークも数頭混じっていた。
後ろの荷馬車からは、護衛の冒険者らしき男が弓で攻撃している
「ダメだなこりゃ、役に立っていない
逆に怒らせているようだ」
それを見たケインが呟く。
「仕方ない。とりあえず、助ける?」
そう言ってケインが走り出すと、
「わかった」
と言って、カミラも走り出す。
(あれを一度に相手するのは手間だ、何とか楽に倒せないかね?
あいつらも呼吸して活動に必要な酸素を得ているなら、頭を水で覆われれば呼吸できなくなって溺死するかな?)
ケインは手に魔力を込め、水魔法でオークたちの頭を囲うように水球を作る。
すると水球を取り外そうとオークたちがもがきはじめた。
(走って酸素が要るところで水の中に突っ込まれるんだ。息ももたないか……)
二人がしばらく見ていると、いたるところでオークが口からゴボリ泡を吐く。
そして動かなくなった。
「ん、魔力の反応が消えた。
全部溺死したみたいだね」
ふとカミラの視線がケイン刺さる。
若干嫌味がこもったように、
「
私の出番がなかった」
と言う。
(ありゃ、カミラがちょっと拗ねたかな?)
ケインは、
「カミラがいるから安心して魔法を使える。
ありがとな」
とフォローすると、カミラの機嫌がみるみる良くなっていった。
(チョロいぞ、カミラ)
ケインたちがオークを収納魔法で仕舞っていると、さっきの荷馬車が戻ってくる。
そして、馬車の御者台から商隊の隊長らしき恰幅のいい男が降りてきて、
「すごいですね、あの数のオークをあっという間に……。
そしてその収納魔法」
と声をかけてきた。
手には多くの指輪。
ケインはその指輪から魔力を感じる。
「そちらも大変でしたね」
「えーっと、リーダーは?」
パーティーのリーダーはカミラだと思っていたのだろう。
カミラに向かって男が言う。
「一応僕ですね」
ケインが頭を下げた。
「そうだ、リーダーはケインになる」
カミラも同意する。
「これは失礼しました」
恐縮する男。
額から汗が出始めた。
「いいんです。
私は十歳の子供です。
二人のパーティーで、リーダーはどっちかと聞かれたら、大人を選ぶのは当然です」
ケインがそう言うと、
「そう言っていただけると助かります」
額の汗を拭きつつ男は言った。
「それにしても、どうしてあの数のオークがこの荷馬車を襲ったのですか?」
ケインは顛末の原因を聞いてみた。
「後ろの冒険者たちが一匹のオークを小遣い稼ぎだと襲ったのです。
しかし仕留めきれずに暴れた。
それに気付いた周囲のオークたちが追いかけ始め、あの有り様です。」
男はこぶしを握り、後ろに乗った冒険者たちを睨み付ける。
睨まれた冒険者たちは恐縮して目を伏せていた。
怒りに任せた険しい表情に気付いたのか、男の表情が柔らかくなると
「失礼しました。私の名はルンデル。
王都で商売をしております」
と言って深々と頭を下げる。
「私の名はケイン。
こっちが私の護衛のカミラになります」
ケインとカミラは頭を下げた。
「ところで提案があるのですが?」
にこやかな顔でルンデルはケインたちに声をかけた。
「何でしょう」
ケインが聞く。
「すでに日も傾きかけ、このまま王都に向かっても日没の閉門時間に間に合いません。
そこでこの場所で夜営をしようと思います。
そこで夜営時の護衛と、明日の王都までの護衛とを引き受けてもらえないでしょうか?」
揉み手で聞くルンデル。
「カミラ、どうする?」
ケインはカミラに聞いた。
「私は構わないが……思う以上にオークを狩ることもできたし、明日帰ったとしても問題はあるまい」
とカミラが言うと、
「相方もこう言っていますので、引き受けます」
ケインが答えた。
「そうですか、ありがとうございます。
当然ですが食事はこちらで準備させてもらいます。後でお呼びしますね」
そう言うと、ルンデルは荷馬車の方に戻っていった。
馬車三台で周囲を囲み、中央で焚き火が燃えている。
シチューだろうか、いい匂いがしてきた。
ケインたちは囲みの外にテントを張り、その横に焚き火を起こす。
「ケイン様もあの輪の中に入れば?」
焚火の赤い炎に照らされながら、ルンデルがケインたちに近づいてきた。
「いいえ、遠慮しておきます。
先に依頼を受けた冒険者が中に居ればいい。
私たちは外で魔物の監視をします。
それに元々、夜営の訓練ついでにこの場所に来ました。
食事だけでも甘えています。
だからこの位置でいいのです」
ケインはルンデルに事情を離した。
「夜営の訓練?」
「はい、私は騎士になるつもりです。
今後王立の学校に入れば、夜営の訓練があると父は言いました。
その練習も兼ねてここに来たのです」
ルンデルさんは首を捻る。
「先程は魔法で倒しましたよね」
「使いましたけど?」
「剣も使えると?」
「そうですね」
そうケインが答えると、
「剣の腕は私より大きく勝ります」
とカミラが誇らしげにルンデルに言う。
するとルンデルは気になったのか、
「カミラ様の冒険者ランクは?」
と聞いてきた。
「Bですね」
とカミラが答える。
「ケイン様の冒険者ランクは?」
次は俺だ。
「Dです」
と答えた。
「突然ですが、あなたの援助をしてもいいでしょうか?」
とルンデルがいきなり援助の申し出をする。
さらに揉み手だ。
「その歳でケイン様はDランク。
更にはカミラ様の腕を越える。
ギルドの水晶での判定が赤か虹。
滅多に居るものではありません。
後に鬼神を越えるかもしれません」
熱く語るルンデルから発せられた、鬼神……つまりベルトの二つ名を聞き、クスクスと笑うカミラ。
顔を伏せ恥ずかしそうにするケイン。
「どうかしましたか?」
ルンデルは二人を見て不思議そうな顔をする。
「いいえ、なにも」
ケインはそう返した。
「そんな有能な若者の援助をしておけば、私にも何か良いことはあるでしょう。先行投資と言うものです」
「そうですね、でもお金の援助はいいです。
知識の援助をしてくれると助かります」
とケインは言った。
ルンデルは理解できなかったのか、
「知識の援助?」
と聞きなおす。
すると、
「私は今日初めて王都から出た若造です。
ルンデルさんに比べれば、全然知識を持っていません。
だから私が困ったときにその知恵を貸してもらいたいのです」
「お金よりも知識ですか……畏まりました、それでは両方の援助をさせていただきましょう。
どちらもご入用の時は我がルンデル商会にお越しください」
こうしてルンデルはケインの援助をすると約束すると、荷馬車の輪の中に戻っていくのだった。
ケインはテントの中に毛布を敷き、軽く横になると気配感知で周囲を確認する。
(おっと、まだまだオークは居るみたいだね。
ただ、奥に居るオークの魔力がデカい。
ハイオーク以上の物だ。
討伐する……。
いや、面倒。
あんまり目立つのもな……)
ケインがそんな事を考えていると、スルスルとテントの扉が開き、カミラが中に入ってきた。
そしてそのままケインに抱き付く。
「ケインが足りない」
「ずっと一緒に居ただろうに」
「足りない!」
駄々っ子のように言うと、ケインの首に噛みついてくる。
ケインにとっては聞き慣れたチューチューという音。
カミラはしばらくケインの血を吸った後、少し垂れた血を指で拭い、舐(ねぶ)り取る。
そして、カミラは、
「
と言った。
「ありゃ?気づいていたのか?」
軽くケインは驚いた。
「当然」
「馬鹿にするな」という感じでフンと鼻息荒く胸を張るカミラ。
そして、
「まだ、風下。
オークは鼻の良い魔物。風向きが変わったらばれるかも。
百体以上いるオークから、この集団を守る自信は無い」
と言った。
「そうか……。
みんなが寝静まったら行くかね。
ポンコツとはいえ、向こうの護衛も何とかするでしょう」
ケインとカミラは食事の呼び出しがあるまで軽い仮眠をとることにした。
カサリ……カサリ……。
気配を消した足音が聞こえる。
気配感知にはテントに近づく者。
近寄る者の大分遠い所から
「何でしょうか?」
ケインはテントから顔を出すと、
「えっ、気配を消した俺が気付かれる?」
とルンデルが雇ったパーティーの斥候役らしき男が驚いていた。
「そこまで気配が漏れていたら気づきます。
それで何の用でしょうか?」
「あっ、ああ。飯ができた」
男が俺に伝える。
「呼びに来てくれたのですか、ありがとうございます。
おい、カミラ起きろ。飯だってさ」
振り返って俺が言うと、
「うーん、わかったぁ」
と、下着姿で寝ぼけているカミラが現れる。
「お前ら、こんな所で何をやってる?」
そう言う男もカミラの姿をガン見だ。
「ああ、カミラは寝るとき下着なんですよ。
カミラ早く服を着ろ」
「おお、人が居たのだな。すまん」
そう言って、カミラが服を着る。
「カミラが服を着たら行きますので、向こうでお待ちください」
とケインが言うと、
「あっ、ああ。すまん」
そう言って男は戻るのだった。
ケインとカミラがルンデルの馬車の方に向かう時、その周囲にオーク狩りの冒険者たちが野営をするたき火が見えた。
「ルンデルさん食事に招いてもらってありがとうございます」
「ええ、私は助けられた方です。
恩返しもありますので、遠慮せずに食べてください」
言葉通り二人は遠慮せず食べる。
(これじゃ、野営の練習にはならないな)
ケインたちに提供された食事は美味かった。
全員の食事が終わると、
「それでは、夜間起きている順番ですが、ケイン様のパーティーが最初。
あとはうちのバカパーティーに二人ずつ起きてもらいます」
と言うルンデル。
(バカパーティーは無いだろうに……)
ケインは苦笑いすると、
「わかりました。私たちはテントの前で監視します。
多数の魔物が来るようでしたら、起こすようにしますね」
と言った。
すると、
「よろしくお願いします」
と言ってルンデルは頭を下げるのだった。
食事も終わり、商人たちは寝に入る。
護衛のパーティーも仮眠に入っていた。
「ケイン、青の星が真南に来るまでが我々の担当時間」
カミラがケインに教える。
青の星は季節にかかわらず同じ時間に南中する。
そのため、冒険者の時間確認に用いられている星。
ケインたちは商人たちから少し離れた自分のテントで気配を探る。
気配感知にかかったオークたちは動いていなかった。
夜も更け、青の星が真南になるころ。
「すみません、俺たちの時間が終わったみたいなんで、監視をお願いします」
ケインは冒険者たちのテントに声をかけた、
二人の男があくびをしながら出てくる。
「おう、わかった」
そして、俺のテントを見て、
「お前はいいなぁ、あんな美人と一緒に寝られて」
男の一人が愚痴っぽく言う。
「それはそれで、結構面倒なんです。
それではお願いしますね」
そう言って、ケインはさっさとテントに戻る。
暫くテントで過ごした後。
冒険者たちに気付かれないようにケインとカミラはテントを出た。
気配感知でオークが集まると思われる場所にたどり着き、高い木に登って俯瞰で確認すると、身長三メートル越え、中には四メートル越えのオークが寝ていた。
四メートル級は、ものすごくデカい剣を持っている。
「凄い数だな」
「ああ、私もこの数は見たことが無い。
「ちゃんと歩哨も居るんだ。
この群れは統率されてる。
下手に見つかると、全てを相手にしなければならなくなりそうだ」
俺は顎に手を当て考え。
「そうだなぁ、広範囲のスタンクラウドでオークたちを痺れせる。
あとは、死に至る攻撃だね。んー、さっきの水での窒息かな。
水の中では声が出せないから見つかることも無いからね」
「私の出番がない」
機嫌が悪いカミラ。
「カミラは俺を守るのが仕事だろう?
だったら、俺の傍に居ればいい」
「しがみ付いてもいい?」
「ああ、大丈夫」
ケインがそう言うと、カミラは後ろからケインに抱き付いた。
ケインは、寝ているオークたちを包み込むようにスタンクラウドを展開すると、震えるように痺れ、固まった。
水魔法の水球でオークたちを溺死させると、討伐部位を切り取り、オークたちを収納魔法で仕舞う。
すると、真っ暗な森がそこにあるだけになった。
次の日の朝、ケインが周囲を気配感知で確認してみたが、魔力の小さな魔物が居るだけ。
「昨日討伐したオークたちが本隊だったのか」
と呟く。
ケインとカミラはテントを畳み、火の始末をする。
そして馬車の方に向かうと、
「ケイン様、昨日のオークは収納されていたようですが、少々分けてもらえませんか?
ここでオーク狩りをしているのは知っていましたが、オークの体は大きく、肉として冒険者ギルドに持ち込まれている数は少ないようです。
その点ケイン様は無傷の上、別次元収納され痛むことも無い。
つまり、最高の肉が取れます」
ルンデルが揉み手をしながら俺に言った。
「いいですよ。
でも、今出しても邪魔になるでしょう?
それでしたら王都に帰ってからでもいいですか?」
そう言うと、
「はい、それでお願いします」
そして、ルンデルの揉み手が加速すると、
できればケイン様の狩られたオークを私どもで独占させていただいてもよろしいでしょうか?
買取りについては勉強させていただきます」
と、聞いてきた。
「こっちも量が多くて冒険者ギルドに出すのも面倒でした。
引き取ってもらえるなら助かりますよ」
「そうですね、あの量だったら捌くのも大変です。
お任せください、解体も私のほうで行います」
結局、ケインたちが狩ったオークはルンデルの店に卸すことになるのだった。
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