第10話 オークを買い取ってもらいました。

 一応、護衛としてルンデルの馬車を護衛したが、何事もなく王都に帰ることができた。

 護衛冒険者はルンデルがカードに印を押すと離れて行く。

「何をしていたのです?」

「一応依頼が達成したということで、私の魔印を押したのです。

 魔印と言うのは私が承認したという印、私以外の物がこの印を使おうとしても、魔力が合わないために使えないのです」

「ルンデルさんが押したとわかるようになっている訳ですね」

「そう、確実に私が押したとわかります。

 まあ、今回あの者たちの護衛は余計なことをして失敗したと言ってもいいのですが、今回はケイン様、カミラ様に会うことができましたからね。

 成功ということにしました」

 ルンデルはホクホク顔である。

「途中から参加した私とカミラは?」

 事情が違うケインが聞くと、

「ケイン様達は、事情を話して緊急依頼を出さないといけませんから、私どもと冒険者ギルドに向かうことにします。

 ですが、その前にオークの取引のため先に私どもと店の方へ来ていただいてもいいですか?」

 とルンデルが言う。

「わかりました、」

 とケインが頷くと、ケインたちは荷馬車に揺られ、そのままルンデルの店、つまりルンデル商会に行くことになった。


 遠くから見ると、ひときわ大きな館が見えてききて、その前に馬車が止まる。

 ルンデルの店はレンガ造りの三階建て、幅と奥行きが俺の家の三倍ぐらいあった。

「大きな店ですね」

「おかげさまで、商売のほうは上手くいっております」

 テカテカの顔でニッコリ笑うルンデル。

(これなら俺の援助を申し出るわけだ……)

 屋敷を眺めながらケインは思う。

 そんな時、玄関らしき所から中に入ると、執事っぽい黒服の男が、

「お帰りなさいませ、旦那様」

 とルンデルに挨拶をする。

 そのあとケインは執事がケインたち見ているのに気付いた。

(ああ、この人強い。

 値踏みでもしているのかもしれない)

 ケインが思っていると、

「ラウンよ、こちらは私たちを助けてくれた冒険者ケイン様とカミラ様です。五十頭のオークの集団を殲滅できるほどの腕です」

 ルンデルがケインたちを紹介した。

「我が主人をお守りくださいまして、ありがとうございます」

 ラウンが頭を下げると、

「いいえ、こちらも良くしていただきましたので」

 ケインとカミラも頭を下げる。

「こんなところで話もなんです、応接室のほうへ参りましょう。

 ラウン、最高の茶を頼む」

 ケインとカミラは応接室なる場所に通された。


 棚には金銀の飾り物がずらりと並ぶ。

 壁には、何かの魔物だろうか、頭の剥製もあった。

 ケインが落ち着かずにきょろきょろと部屋を見回しているのを見ると、

「私の趣味です。

 成り上った証拠みたいなものです」

 ニコニコしながらルンデルは言った。


 ノックしてメイドが入ってくると、ふんわりといい匂いがする紅茶が運ばれてくる。

 お茶うけはドライフルーツのようだ。

「これはティーバードと言う鳥の巣の紅茶です。

 ティーバードは茶葉を巣にする習性がある。

 ティーバードの唾液と反応した茶葉は芳醇な香りを漂わせる最高級の紅茶になるのです」

 ケインが実際に紅茶を飲んでみると、甘い味わいに落ち着くような匂いがする。

「ロイヤルティーバードの紅茶が最高級と言われます。

 ただ、ロイヤルティーバードが少なく、幻の紅茶と言われています」

 子供に紅茶の話では飽きると思ったのか、

「おっと、紅茶の話はここまでにしてオークの商談と参りましょう」

 と言って商談を始めた。


「あの群れの中には、ハイオークも何頭か紛れ込んでいました。

 もしかしたらオークジェネラルも。

 オーク一頭につき小金貨五枚。ハイオークが居れば中金貨二枚。

 オークジェネラルが居れば、中金貨五枚でどうでしょうか。

 これは買い取り相場よりも少し高めです」

 早い揉み手でルンデルがケインに言う。


「私は相場を知りません。

 でも今持っているオークをすべて買い取ってもらえるのなら、こちらとしては助かります。それでは早速、オークを出したいのですが」

「わかりました、こちらへどうぞ」

 ルンデルが二人を連れて行った先は、中庭。

 石畳の殺風景な場所だった。

 既に手配していたのか、いろいろな包丁を持った男が数名集まっている。

「解体師も集まってるな。

 それではケイン様、まずは一番大きなオークを出していただけますか?」

 とルンデルが言った。

 ケインは、一番大きいと思われる四メートル越えのオークを出した。

「「「?!」」」

 ルンデル以下解体師も固まる。

「どうかしましたか?」

 ケインが聞くと、

「えー、ケイン様。これは?」

 事情を聞こうとするルンデル。

「ああ、皆さんが寝ている間に狩ったオークです。

 野営地のほうへ近づいてきていたので、早々に倒しました」

 ケインの言葉にちょっと嘘が混じる。

 カミラは苦笑いしていた。


「数は?」

「百五十を超えていたかと」

 ルンデルと解体師たちが集まって話し始めた。

 そして、

「ケイン様、このオークはオークキングと言われ、群れの長だと思われます。

 このオークは災害指定されており、届け出が必要です。どうなさいますか?」

「そうですね、目立ちたくないので届け出はしないということでお願いします。

 あの周辺のオークも全ていなくなっていました。

 もうオークが出ることは無いでしょう」

「良いのですか!

 このオークを冒険者ギルドに持ち込めば、あなたの冒険者ランクは間違いなく上がる」

 ルンデルはこぶしを握り、唾を飛ばしながら語る。

「上がれば気軽に動けなくなる。

 カミラのランクで十分なんです。

 別に出世したい訳ではありませんからね。

 このオークはルンデルさんのほうで処分してください」

 ケインが言うが、

「オークキングの肉は最高級です。

 滅多に手に入りません。

 このオークだけで大金貨十枚以上になるというのに……」

 もったいなさそうにルンデルが言う。

 

 ケインは少し考え、

「そうですね、口止め料です。

 それに、この肉があればいろいろな交渉事もやりやすいんじゃないですか?」

 と言った。

 ルンデルはケインをまじまじと見ると、

「ケイン様は本当に十歳の子供なのですか?

 そんな知識を持っているのは王家か貴族の子供ぐらいのはず」

 ケインを値踏みする。

「私は十歳です。

 間違いありません。

 そんな事より大きい順にオークを出しますね」


 結局、オークの総討伐数は、二百三十三頭。中庭がオークだらけになる。

 ルンデルは急遽解体師を増員して対処した。


 再び応接室に戻ると、

「オークジェネラル、ハイオークを換算した収入はオークキング無しで大金貨十六枚とさせていただきます」

(ありゃ、大金持ち……)

 ケインは思った。

「しかし、本当にオークキングは譲ってもらえるのですか?」

 ルンデルが再び聞いてきた。

「ええ、私には秘密裏に処理するのは無理でしょう。

 宝の持ち腐れです。

 だから、ルンデルさんが上手く使ってください。

 あと、この鼻も渡しておきます」

 ケインはオークキングの鼻をルンデルに渡した。

「わかりました。これは私どもで処分しておきます」

 ルンデル頭を下げる。


(元々、材木目当てのオーク狩りだったんだが、大きな話になってしまった。

 とりあえず目的の物を手に入れたいんだが……。

 ん?

 商会なら手に入るんじゃ?)

 ケインは早速、

「ところで、ルンデル商会で材木は手に入るでしょうか?」

 とルンデルに話しかけた。

「はて、それはまたどうして?」

「コッコーの卵を得るために飼おうかと思っておりまして、そのための小屋をつくりたいんです。

 元々小屋を作るための資金を稼ぐためにオーク狩りをしていましたからね」

「コッコーとは珍しいですな。

 肉ならまだしも、卵は食べると死ぬこともあると言われています。

 そんなものをどうして?」

 食べる習慣もなく、食べられないものが食べる物であるという卵。

 毛嫌いするようにルンデルは顔を顰めている。

「コッコーの卵を食べると死ぬと言われているのは、産みたてではないからです。

 地面に捨てられている卵は何日経っているのかもわからないもの。

 生みたてであれば料理の仕方次第で、美味しいものができると考えています。

 それを実証するためにコッコーを飼おうかと。

 あと、ホルスもですね」

 ルンデルは少し考え、

「ケイン様。それでしたら私が大工を手配しましょう。その方が早くできるでしょう」

 と提案した。

「そうですね、折角手に入ったお金です、それでお願いします」

 ケインがルンデルの提案を受ける。

 そして、

「あと、今持っているお金についてはルンデルさんが持っていてもらえませんか?

 私はこんな大金を持ったことがありません。

 ですから、私がルンデルさんに何か頼んだ時、そこから引いてもらいたいのです。

 カミラ、勝手に決めてしまったが、いいか?」

 ケインはカミラに確認を取ると、

「ええ、ケインがそれでいいのなら。

 どうせ、冒険者ギルドで報酬もあるだろうから」

 とカミラは言った。

「そう言うことでお願いします」

「わかりました、私が管理させていただきます」

 お金の管理をルンデルさんがすることに決まるのだった。


 ケインがこれで話が終わったと思った時、

「お父様、お客様?」

 一人の青髪女の子が応接室に入ってきた。

「これ、レオナ!

 はしたない!

 お客様が居るのに!」

「ラウンが『お父様が凄い男の子を連れてきた』と言っていたから……ちょっと気になっちゃって。

 ダメでした?」

 ルンデルに許しを請うレオナ。

「すみません、ケイン様」

 恐縮するルンデル。

「いいえ、気になさらず。

 私みたいな者のほうが珍しいでしょうから。レオナさん初めまして。

 お父様にお世話になっているケインという者です。

 こっちはカミラ。私の連れです」

「初めまして、レオナと言います。

 えーっと、お父様、どのような関係ですか?」

 ルンデルは頭を抱えると、

「私を助けてくれた人たちだ」

「えっ?」

「オークの集団に襲われそうになっている私の商隊を助けてくれた人。

 この人たちが居なければ、私はこの場所には居ないだろう」

 ルンデルはレオナに言った。

 ケインとカミラを見て、

「本当に凄い人たちだったんだ。

 お父様を助けてくれてありがとう」

 レオナさんはぺこりと頭を下げた。

「いえいえ、どういたしまして」

 ケインとレオナの雰囲気を見て、ルンデルが警戒したのか、

「さて、ケイン様、カミラ様、冒険者ギルドに向かいましょう。レオナは留守番を頼みましたよ」

 とルンデルは言う。

(ん? 俺、手を出しませんよ?)

 ケインはそんなことを思いながら、ルンデルさんに導かれ馬車に乗りこんだ。

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