第7話 冒険者登録しました。

 そして、三年が経ち、ケインが十歳になった時、ついにベルトに戦闘で勝つ。

 その日、

「ケイン、冒険者ギルドに登録に行くぞ」

 ベルトがケインを誘って言った。

「何でですか?」

 不思議そうな顔をするケイン。

「お前は十二の歳に学校へ行く。

 その実習で遅かれ早かれ冒険者ギルドに登録をして魔物を狩ることになる。

 今のお前は家でやる事と言えば、カミラさんとの組手ぐらいなんだろう?」

「母さんと勉強もしているけど……」


 実際に習うことと言えば、簡単な計算問題と字の書き取り程度だった。

 小学校の低学年程度の問題だ。高卒のケインには緩い。


「父さん。

 そういう選択肢があるのはうれしい」

 ケインがそう言うと、

「早速行くぞ」

 と言って、ケインとともにベルトは王都の冒険者ギルドへ向かった。

「ここが冒険者ギルドだ」

 ギルドの看板を見上げベルトが言った。

 レンガ造り地上三階建て、横幅は五十メートルぐらいあるだろうか。

「凄く大きい」

 ケインが驚くのをベルトは目を細めて笑いながら見ていた。


 中に入ると様々な種族。そして職業。

 一見して戦士や魔法使いに見える者も居た。

 ベルトは受付に向かい冒険者ギルドの職員と少し話す。

 すると、職員が水晶玉を手に持って現れ、ケインに水晶へ手をかざすように言った。

 水晶が虹色に明るく輝く。

 冒険者ギルドの職員はすごく驚いていたが、ベルトは当然のような顔をしていた。

 そして、ケインの冒険者ギルドカードが出来上がるとすぐギルドを離れるのだった。


「父さん、何でギルドの職員は驚いていたの?」

 ケインが聞くと、

「ああ、冒険者は強さでGからSSSで別れているんだ」

 ベルトが説明する。


(そう言えば、カミラがそんなことを言っていたな。

 それで驚くのとどう関係があるのだろう……)

 ケインが思っていると、ベルトの話しは続き、

「そのランクを決めるのがあの水晶。白がG、青がE、黄色がD、緑がC、赤がB、そして虹色がA以上に相当する。あの職員はA以上の輝きを見たことが無かったんだろうな」

 そう言って、ランクの説明をする。

「父さんは見たことがあったの?」

 ケインが聞けば、

「ああ、ちなみに俺も虹色に輝いた。

 ミランダもらしい。

 だから、お前が虹色に輝いても当たり前だと思っている」

 少し誇らしげにベルトが言った。

「そうだったんだ」

「悔しいのはお前の輝きが俺のより明るかったことだな。

 まあ、既にお前に負けているんだ当然と言えば当然か……」

 ベルトがケインを見て苦笑いをする。

 そして、

「いくら能力がA以上だとはいえ、お前の冒険者ランクはDから始まる。

 ほんとうにケインがAランクだと言えるように頑張れ」

「わかったよ父さん」

 こうしてケインの冒険者登録は終わり冒険者の仲間入りをするのだった。


「じゃーん」

 ケインはカミラに冒険者ギルドカードを見せる。

 カミラはそれを見ると、

「やっとぬしが冒険者になったな。

 これで一緒に依頼が受けられる。

 これでお金をこの家に入れなれる。

 居候も卒業だ。

 しかし、Dランクという事はDランク以上の色で光ったのだろう?」

 カミラは当然のようにDランク越えだと思っていた。

「虹色だったぞ」

「何?

 さすが我がぬしだ。ちなみに私は赤だった」

(カミラは冒険者ギルドに入った時はBランク相当の能力を持っていたわけか)

 ケインは納得する。

「にしても、何でカミラはBなんだ?

 強いからもっと上がれるだろう」

「私は血を得るために賞金首相手しかしなかったからな。

 数をこなしていない。

 でも今はお金が要る。

 それもぬしと一緒にやれるのだ、楽しみだな」

「そういえば、カミラが依頼を受けたら俺も一緒にBランクの仕事ができるって言ってたんだよな」

「実際はBランクが受けられる仕事になるから、一つ上のAランクまでは大丈夫だ。

 オークやトロル、そして、ワイバーンも狩ることができるぞ。

 依頼も高額だし素材も売れる」

 嬉しそうなカミラ。

 しかし、

「それはいいんだがな。

 俺としては食事のバリエーションを増やしたい」

 ケインは目的が違った。


(確かに母さんの料理は美味い。

 しかし、バリエーションが乏しいのだ。

 それは、香辛料が乏しく、塩も高い。

 新鮮な肉や野菜も手に入りづらい。

 そう言う理由もあるのだろう。

 魚というものを干物でしか見たことが無かった。

 そして、卵も牛乳も見たことがない)

 慧の頃との差をケインは実感していた。


「で、どうするんだ?」

 カミラがケインに聞く。

「せめて、卵と牛乳があればねぇ……」

 ケインが言うと、

「卵? 牛乳? 何だそれは?」

 カミラが再び聞いてきた。

「今、俺があると嬉しいと思う物だ。

 そうだ、カミラは冒険者として何年も活動しているんだから知らないか?

 こんな感じの卵を産む魔物や、こんな感じの乳を出す魔物を」

 ケインは地面に絵を描いた。

「ああ、知っているぞ。コッコーとホルスだな。

 コッコーはこの近くにもいるだろうが弱いからすぐ逃げてなかなか見つからない。

 ホルスは多分草原に居る」

「居るんだ」

「ああ、居る」

「それを捕まえるにはどうすればいい?」

「まずは奥様に許可をもらって、それぞれの魔物を服従させないといけない。

 そのための飼育小屋も要るぞ。

 あとコッコーは鳴き声がうるさいと聞く。

 ここで飼うのなら近所迷惑にならないようにしないといけない」

 カミラの説明に

(だよなぁ、住宅密集地でニワトリ飼ったら、うるさいって苦情来るだろうし)

 頷くケイン。

「って事は、まずは母さんだな」

「そういうこと」

 ケインとカミラは早速ミランダのところへ行く。

 外で洗濯物を干していたミランダに、

「母さん! 魔物の卵を得るために、コッコーを飼いたいんだ!」

 とケインは頼んだ。

 しかし、

「ダメ! やめなさい。コッコーの卵を食べた人で死んでいる人もいるんだから。

 コッコーの卵を食べる人は、それを食べないと生活できないような人。

 料理も茹でるか焼くしかない。

 私はそんなにひもじい思いをあなたにさせていないはずよ」

 咎めるようなミランダが言う。


(魔物の卵は食べられない者が食べる物と言う認識か……。

 卵の認識が良くないな

 カミラが言っていたが、コッコーは弱い

 だから、襲われると卵を放置して逃げるんじゃないだろうか。

 比較的王都の近くに居るというコッコーのそういう卵を拾うと、腐りかけやピータンもどきが混じってもおかしくはない。

 そして卵に当たって治療できずに死ぬのかもしれない。

 つまり新鮮な卵というのを食べたことがないのだろう)

 そう考え、「うん」とケインは一つ頷くと、

「母さん。

 卵というのはヒナが産まれるための栄養分が溜まっていて、美味しいはずなんだ。

 でも、食べるには新鮮な物が要る。

 だから五羽でいいから飼わせてもらえないかな」

 ミランダは腕を組んで少し考えると、

「わかったわ。

 ただし、私が最初に食べる。

 あなたを死なせるつもりは無いわ」

 と言って許可を出した。

「いや、死ぬような料理は作らないから……あと、ホルスを飼っていいかな?」

「ホルス?」

「ああ、ホルスの乳は美味しいんだ。

 あと、飲むと胸が大きくなる効能があるという」

 ケインが慧の時の知識で話をすると、

「ぜひ飼いましょう。

 飼うのはロウオウの横が開いていたと思うからそこに入れて、餌は飼い葉でいいかしら」

 ミランダは即決。

 それもかなり乗り気である。

 ミランダはカミラよりちょっと貧弱なのを少し……多分少し気にしているようだった。


「ケイン、私も飲んでいいかな?」

「ああ」

 カミラは胸をもっと育てたいようだ。

 ケインはウンウンと頷き歓迎をする。

 こうして、ケインにコッコーとホルスの飼育許可が出る。


「さて、カミラ」

「なんだ?」

「コッコーを飼う小屋を作りたい。でも、母さんにお金を出してもらうのもな……」

 自分の欲で作ろうとする小屋を親に金を出してもらうのをためらうケイン。

「遠まわしだな。

 金を調達したいのだろ?」

 カミラはケインを見て笑う。 

「ちなみにBランクの依頼って、報酬いくら?」

「そうだな、小金貨五枚から大金貨一枚ってところだろう」

(五万円から百万円と幅広いな)

「カミラ、依頼を受けて木材と大工道具を手に入れたい」

 ケインは前世で父親に少々の大工仕事は手伝わされ、それなりに道具を使うことができる。

「木材は解体の手伝いとかでももらえるぞ?

 まあ、相談次第だが」

「うし、まずはBランクで大工道具。そのあと解体の手伝いで木材を手に入れる方向で」

ぬしよ、心得た」

 ケインとカミラは冒険者ギルドへ向うのだった。

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