第5話 気配感知を教わりました。
「大丈夫?
疲れた?
はい水」
ケインが水を汲んできて、カミラに渡すとコクコクと喉が動き、カミラは水を飲み干した。
急いで飲んだせいか、口元から水がこぼれる。
「ふう、美味い。
しかし、
「そうでもあり、そうではなし……だね。
勝ったら教えるよ。
でも結構危なかったね。
この木剣もう少しで折れていた」
カミラの前に木剣を差し出す。
カミラの爪を受け続けた木剣はいたるところに傷がつき、いつ折れてもおかしくない状況。
軽く振ると、ポキリと折れる。
「ありゃりゃ」
「剣を折ったとしても、
「魔法は使わないから大丈夫」
「魔法無しでそれか……。
私には『黒衣の暗殺者』と言う通り名があるのだが
カミラが苦笑いをしながら起き上がると何かに気付く。
「奥様が来たようだ」
とカミラが言うと本当にミランダが現れた。
その事にケインが驚いた。
「あらあら、汗びっしょりじゃない。
カミラさんと手合わせしたの?」
「奥様、ケイン殿に勝てませんでした」
カミラはミランダを奥様と呼ぶ。
「仕方ないわね、あの人の教えを受けているんだから」
苦笑いのミランダ。
「でも、ほらこれ、僕用の木剣がこんなになって」
「あら、これじゃ練習にならないわね」
「すみません、少し本気になってしまいました」
「少し?」
母さんがカミラを見て言う。
「全力です」
カミラは恥ずかしげに目を伏して言った。
「カミラさんありがとう。ケインの相手になってくれて」
「私こそ、この家に住まわせてくれてありがとうございます」
「さあ、二人でお風呂に入ってらっしゃい。
女の子がそんなに汗まみれではダメよ」
ミランダは二人が練習をしているのを知って、風呂の準備をしたようだ。
ケインとカミラは言葉に従い風呂に入るのだった。
湯船に二人で入ると、ケインは早速カミラに疑問をぶつけていた。
「カミラ、なぜ母さんが近づいてきたことに気付いた?」
「ああ、あれか。気配感知だ。
私は奥様の気配を知っているからな。
近づけば誰が来たのかがわかる。
つまりケインもわかるぞ?」
当たり前のようにカミラが言う。
「そうなんだ、それって俺でもできる?」
「私は生まれつき持っていたからな。
やり方は、魔力を薄く伸ばしていく感じだ」
ケインは腕を組む
(ふむ、レーダーのような物だろうか。
魔力の波を飛ばし、跳ね返った波で人を察知する。
ある意味コウモリのような能力)
ケインはイメージ通りに実際にやってみた。
「確かに、台所辺りに気配がある。
そういやこの雰囲気は母さんだな。
家にはいっぱい小さな気配が居るな」
「えっ、わかるのか?」
「ん、まあ、何となくね。小さくてチョロチョロしてるのは、まさかスモールラット?
そう言えば、母さんが増えたと言っていたな」
「えっ、それは私にはわからない。
私よりも感度が良いのかもしれないな」
カミラはケインをまじまじと見ていた。
ケインは少し魔力を増やし、範囲を広くしてみる。
すると家や家具。
人や魔物の形がフレームのように現れた。
「生き物の中心には光るものが見えるのは魔力か?
母さんの光がひときわ大きいのは、魔法使いだからかね?
おっ今日の朝ごはんはパンとスープだな」
「そこまでわかるのか」
カミラが驚く。
「カミラが言った言葉を、やってみただけだ。
ちょっと魔力を多く使ってみたけどね」
フレームまでは要らないか……魔力を搾り光点のみを表示させる。
「実際にできるとは思わなかった、ありがとな」
ケインが言うと、そこには嬉しそうなカミラが居た。
カミラが家に来て一週間。
戦争が終る。
バレンシア王国の勝利。
しかし、ベルトがなかなか帰ってこなかった。
ベルトは愛馬ロウオウから降りるが踏ん張れない。
ミランダが肩を貸す。
大きな傷を負ったようで、馬を降りると杖をつき右足を引きずっていた。
そして、装備を外すと居間の椅子に座るのだった。
「旦那様初めまして、カミラと申します」
カミラはベルトの前に行き挨拶をする。
「ああ、ミランダから話は聞いている。
愚息を頼む」
意外とすんなりとベルトはカミラを受け入れた。
事前にミランダからの手回しがあったお陰である。
「失敗したよ。
馬上で足を切られたんだ。
腱が切れたようでな、治療師にはこれ以上は良くならんと言われた」
「父さん、その足は大丈夫なの?」
印パ移送にケインが言うと、
「大丈夫かと言われるとあまり大丈夫とは言えないな。
馬には乗れるが降りたら杖が無ければ歩きもできん。
このままだと戦いがあると困る」
ベルトが苦笑い。
ケインが見ても、確かに右足に太ももから膝にかけての一本の刀傷があった。
(腱かぁ……つなげばなんとかなるのかね)
「診せてもらっても?」
ケインが言うと、
「治療できるのか?」
ベルトはケインを見る。
「わからないけどやってみないと」
ケインは、ベルトの膝を見てみた。
膝にカミラに教わった気配感知を行う。
(脚だけを中心に、魔力を込めて細かく)
太腿周辺がフレームで浮かび上がる。
(凄いな、父さんの筋繊維。
えーっと、右と左を比較して、同じじゃないところを探すか……。
間違い探しだな、こりゃ……)
ケインは比較しながら腱が切れた場所を探すと
(おっこれか……この筋が切れて筋肉が縮まっている。
念動って使えるんだけど、あんまり使ったことないんだけどなぁ)
ケインは切れた筋を膝の元の位置に戻す。
そして、傷の上をなぞり治療魔法で筋繊維を繋ぐと同時に傷を消す。
ベルトはそれを見て驚いていた。
「父さん、どう、足の具合は」
父さんは立ち上がると、ドンドンと右足を踏み込んだ。
バキッと言って床板が割れ、足が埋まる。
「あなた、やり過ぎ……」
呆れるミランダ。
「おお、全然痛くないぞ。どうしたのだコレは」
驚くベルトに、
「カミラに教わった気配感知を魔力で増幅して切れた腱を捜したんだ。
その腱を左足の状態を参考に右に繋いだ。
ついでに筋肉も傷も治しておいたよ」
ケインが説明する。
すると、ベルトはカミラを見て、
「そうなのか、カミラさんのお陰かありがとう」
と言うが、
「旦那様、気になさらず。ケインが凄いからできたのです」
カミラはケインを見て言うのだった。
(これで、父さんも大丈夫だ)
ケインは頷く。
ベルトが帰ってきてからは、三人での朝練になる。
ケインとカミラはベルトに戦いを教わった。
カミラの戦い方は自己流だったらしく、ベルトに修正されメキメキと強くなる。
そんなカミラに触発され、ケインも負けないように努力した。
何度かの戦争で、二人で練習する事もあったが三人での練習はずっと続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます