第4話 メイドができました。

「私には行くところが無い……。

 魔力も尽きていて力も出ない」

 目を伏せ語るカミラ。

「んー、仕方ないね。

 ちょっとここで待ってて」

 と言ってケインは部屋を出ると、両親の寝室へ向かう。

 現在、ベルトは戦争に行っているためミランダの一人寝である。


「母さん、起きてる?」

 ケインが扉越しに声をかけると、

「どうしたの、こんな朝早くから」

 と言ってガウンを肩にかけミランダが起きてきた。

「魔物を飼いたいんだけどいい?」

「えっ魔物?どういうこと?」

 いきなりの言葉にミランダが驚く。

「拾った。

 僕の部屋に来てもらえればわかる」

 そうケインが言うと、

「そうね、先ずはケインの部屋に行きましょう」

 と言ってミランダとケインを連れてケイン部屋へ。


 扉を開けると、ケインのベッドの毛布で裸を隠す女性。

 ミランダは状況がわからない。

「ケイン、これどういうこと?」

 当然の質問だろう。

「屋根裏部屋で怪我していたのを助けたんだ」

 そして、ケインはカミラに事情を話してもらう。

「カミラさんは神祖で、ケガしていて……えーっと、クリフォードの契約をケインが破棄したのね」

 ニヤリと笑うミランダ。

(ん? 何で母さんは笑う?)

 ケインは首をかしげて、

「そうなるね」

 と言うと、

「クリフォードって知ってる?

 現宮廷魔術師筆頭。

 お爺様の後釜ね。

 お爺様はあの男の事を良いように言ってるけど。

 私、あの男嫌いなの。

 あの男と揉めているときに、ベルトが助けてくれてね。

 その結果結婚したの。

 そのクリフォードの契約を破棄するとはよくやったわ」

 ミランダはワシワシとケインの頭を撫で嬉しそうにするのだった。

(父さんと母さんの馴れ初めを聞くとは……)

 ケインがヤレヤレという顔をしていると、

「カミラさんと言ったわね。自分の事は自分で守れる?」

 とミランダはカミラに聞いた。

「血さえあれば、何とでもなる」

 カミラは無いのがわかっているのか元気がない

「血ねぇ……食事ではだめなの?」

「食事でも大丈夫だが効率が悪い。

 人の血を吸うほうが効率はいいな。

 私は冒険者をやっていて。

 賞金首で生死不問の依頼を受けてその犯罪者から血を吸うことで血を得ていた。

 ちゃんとその犯罪者は日に晒し、灰にして殺していたがな」

 ふとケインを見るカミラ。

 そしてカミラはミランダを見ると、

「ケインのお母さん。

 ちょっといいか?」

 と聞いた。

「なあに?」

 と言うミランダに、

「ケインの血を吸わせてもらえないだろうか」

 カミラが真剣な顔で言う。

「何をバカなことを言っているの。

 自分の息子を吸血鬼にしたい親など居ません!」

 とミランダが怒るのを見て、

「親の判断として正しいと思う」

 ケインは思う。


「いや、話を聞いてくれ。

 吸血して吸血鬼になるのは、私の中にある吸血鬼になる因子が吸血した相手より強いからだ。

 私よりも強く魔力もあるケインならばその因子は魔力により殺され吸血鬼になることは無い……と思う」

 自信が無いのか、カミラは提案を断定で締めくくらなかった。

(つまり、吸血鬼化するウィルスが増殖するから吸血鬼になるってこと?

 てことは、吸血する魔物より魔力が多い場合、その魔力の免疫力によってウィルスが駆逐されるってわけか)

 ウンウンと二人を置いて納得するケイン。

「どうするの、ケイン」

 不安げにミランダがケインに聞く。

「飼うと言ったのは僕だし、吸血鬼にならないのならいいんじゃないかな?」

「普通は怖がるものよ」

 ヤレヤレと言う感じのミランダ。

「まあ、息子がいいと言っているならいいわ。

 ただし、吸血鬼になったら殺すから」

 顔は笑っていたが、ミランダは凄い威圧でカミラを見ていた。

(母さん、こんな顔もできるんだ。こわっ)

 ケインは少し引いた。


「じゃあ、ここで吸ってみて。

 私も見ておきたい」

 ミランダはカミラを促す。

 すると、カミラはケインの目線まで屈みこみ、そして

「吸うぞ」

 と言って首筋に噛みついた。

 ケインはチクリと少し痛みを感じると、チューチューと血を吸う音がする。

(ふむ、貧血になる感じはなく。魔力が減る感じ。

 しかしそれほど減ってないな)

 ケインは吸われながら思った。


 吸血を終えたカミラは。

「はふぅ。何だこの血に混じる濃厚な魔力は。

 私はこんな血を吸ったことが無い」

 満足げに言った。

(これを知ったら離れられない

 この人にならずっと付いて行ける)

 カミラはそう思いながら、口元から流れる血を一滴残さず舌で舐めとった。

 結局、ケインは吸血鬼にはならなかった。

「何もないみたいね」

 心配そうにミランダがケインに聞く。

「うん、僕は大丈夫」

 カミラが付けた首への傷はケインが手を添え自分で消す。

「ケイン、それどうしたの?

 治癒魔法なんて」

「光魔法は元々使えただろ?

 傷口を治すイメージを使うとできたんだ」

「ケインはいろいろと規格外ね。

 普通、魔法使いは治癒魔法を使える人は少ないの」

 諦めたように言うミランダ。

「そうなんだ、僕知らなかった。

 本にも普通に出ていたし、カミラさんの太ももも半分ぐらい切れてたけど、治したよ」

「まあいいわ、ケインはいろいろ普通じゃないってわかったから」

 そういうと、ミランダは再びヤレヤレと手を広げるのだった。


「さて、それじゃカミラさんが住む場所ね。

 一階のメイド用の部屋が空いてたから、そこに住んでもらいましょう」

 ミランダが言うと、

「いや、ケインの部屋ではいけないだろうか?

 私は夜に強い。

 ケインに助けてもらった恩もある。

 主人たるケインを守るためにも一緒の部屋に居たい」

 カミラはミランダに頼み込む。

 ケインを見るミランダ。

 カミラの提案に驚いたケインは、

「えっ、僕が主人?

 契約破棄したんだからカミラさんは自由でしょう?」

 と言い返すが、

「自由だからこそケインの元で暮らす。

 神祖は恩知らずではない」

 カミラはケインを意思の籠った眼で見る。

「さっきも言ったけど、別に恩返しなんか要らないんだけどな……」

 ケインがそう言うとカミラは悲しそうな、困ったような顔をしてケインをじっと見返した。

「そんな顔されるとこっちも困るよ……」

 ケインが呟くと

「あー、はいはい、わかりました。俺の部屋で寝てください」

 仕方ないというようにケインが頷く。

 そしてその言葉を聞いたカミラは本当に嬉しそうな顔をするのだった。


 ケインとカミラはメイド部屋のベッドを俺の部屋に移す。

 カミラはミランダのお下がりを着ていた。


 そんな姿を見て、

(まあ、見た感じは完全に人だよな。

 たまに見える犬歯で神祖だとわかるぐらいか)

 チラチラとカミラを見ながらケインは思った。


 その夜、夜が更けたのでケインの体が睡眠を求めた。

「精神はアラフォーだが、体は五歳だからな」

 そんな事を呟きながら、カミラより先に布団に入り寝始める。


 ギイと部屋の扉が開くと人が入ってきた。

 ケインは、

「ああ、カミラさんか……。

 と気配を感じ薄目を開けたがそのまま寝ようとする。

 しかし、カミラはなぜか自分のベッドのほうには向かわず、ケインのベッドに潜り込んだ。

「カミラさんベッドが違う。

 今はオッパイポロリも要らない」

 ケインが言うと、否定され、苦笑いをしているカミラ。

「私はケインの抱き枕なのだろう?」

 カミラが言った。

「んー、そんなことも言ったけど、いつもじゃなくていいよ」

 ケインが言うと、

「正直、本当は私が不安なのだ。

 ケインと一緒に寝てもいいか?」

 と言ってケインに体を寄せた。

 ケインは「ふう」とため息をつくと、

「だったら、カミラさんのベッドに寝よう。

 広いし、俺が行ったほうが子供だからと許されるだろ?

 逆だとその薄い下着では、母さんにみつかったら、ちょっと言い訳し辛いしね」

 そう言ってケインが先にカミラのベッドに横になると、

「優しいのだな」

 と後ろからカミラが抱きしめていた。


(んー、いい感触だ……。

 丁度背中に胸が当たる)

 ちょっと嬉しいケイン。

 すると、

「ケイン、あなたは私の主人だ。

 だから『カミラ』と呼び捨てにしてほしい。

 私は『ぬし』と呼ぶようにする」

「別に主従じゃないんだからそこまでする必要はないだろう?

ぬし』は無しで呼び捨てでいいよ。俺もカミラと呼び捨てにするから」

「いや、ぬしで」

 カミラが譲らない。

「好きにしてくれ。

 俺もこの部屋の外では『僕』。

 じゃあ寝る……おやすみ」

「おやすみ」

 そう言って二人は眠りについた。


 次の日の朝、カーテン越しの日の光でケインは目を覚ます。

 振り向くとカミラのピンクの髪が乱れていた。

「これが神祖だって言うんだからな。

 人にしか見えないや」

 カミラの寝姿を見ながら呟いた。

 ケインはカミラを起こさないようにベッドを出ようとしたが、カミラがケインの寝間着を持っていたせいで、カミラの指を一本一本外していくうちに、カミラの目がパッと開く。

ぬしよ、何をしようとした!」

 毛布を持ち怯えるカミラ。

「落ち着け!

 俺は何もしていないぞ。

 カミラを起こさないように俺の寝間着を掴んでいたカミラの手を外しただけだ。」

 ケインはカミラを抱き寄せ頭を撫でた。

 気持ちいいのか目を細める。

「日課の朝練をしようと思ったんだ。

 言っておけば良かったな」

「そうだったのだな」

 カミラは言わないが、ケインに出会う前にはいろいろあったのかもしれない。


 庭に出て木剣をふるっているケインを座って見ながら、暇そうにあくびをするカミラ。

 実際暇なのだろう。

ぬしよ、私は暇だ。何か手伝えることはないか?」

 と、カミラが言った。

「そうだね、カミラは冒険者なんだろ?

 だったら俺の剣の練習相手をしてくれないか?

 今、父さんが戦場に行っててね。相手がいないんだ」

 ケインがそう言うと、

「心得た」

 と言って飛ぶように立ち上がる。

 そして、

「これでぬしの役に立てる」

 と言って喜んでいた。


「俺は剣だけど、カミラの武器は?」

 とケインが聞くと、

「これだ」

 と言って手のひらを見せる。

 そして、カミラが指に軽く魔力を流すと、五本ずつ、計十本の爪が伸びる。

「伸びる場所は違うが〇ルヴァリンか?」

 と突っ込むケイン。

「〇ルヴァリン?」

「ああ、こっちのことだ」

 ケインは誤魔化す。

「だったらいいが……。

 今はケインのお陰で魔力が満ちている。

 下手な鉄など切り裂くぞ」

 そう言ってカミラは構えた。

(俺、木剣なんだけどなあ。

 鉄を切り裂かれても……)

 そんな目でカミラを見るケイン。

 しかし、相手が出来たことを喜ぶケインは、

「じゃあ始めよう」

 と言う。

 すると、獣のような素早い動きでカミラが突っ込んできた。

 すれ違い様の一撃。

 ギリギリでケインは避けた。

「くぅ!

 これを避ける!」

 とカミラは驚く。

「父さんのほうが攻撃は早い。

 このくらいならね」

 戦いながら、話を続けるケインたち。

「魔法だけじゃなく剣もなのか!」

 悔しそうにカミラが言う。

「まあ、この世界では必要なことだから真剣にやらせてもらっている」

「この世界?どういうこと?」

「話す気になったら話すさ」

「今はダメなのか?」

「わからないね。

 謎多き子供っていうのも良いだろう?

 そんなに知りたい?」

「知りたい」

 即答のカミラ。

「だったら、俺に勝ってよ。

 勝ったら話す」

「言ったな」

 そう言うと、カミラの動きがさらに早くなる。

 必死の表情だ。

 その攻撃をずっと受け流したり回避したりしていると、カミラの動きに精彩を欠いてきた。

 呼吸が荒くなり真っ白な肌に汗が目立つ。

 上気したのか肌が赤くなる。

 大振りになった攻撃を受け流したときにカミラの足元がふらついた。

 踏ん張ろうとしたが間に合わずそのまま倒れてしまった。

 そして大の字になる。


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