第3話 逃亡者が来ました。

 王都内の大きな屋敷。

「誰か、誰かあの魔物を捕らえろ!」

 バスローブのような服を裸の上からかけ、大声をあげるぶくぶく太った男。

「神祖だぞ!

 俺があの魔物を手に入れるのにいくらかけたと思っているんだ!

 あの魔物をやっと俺のおもちゃにできると思ったのに!

 どうやってか知らんが血を吸って魔力を回復し、契約書を盗んで逃亡するとは……」

 地団太を踏む。

「侯爵様!

 あの魔物が吸ったのは魔力の少ない者の血。

 それに、あの魔物は罪人の血しか吸わないと聞いています。

 魔力が枯渇しているあの状態では、魔力切れで弱体するのも時間の問題です。

 考えてもみてください。

 あの契約書は大枚をはたき、クリフォード様に作ってもらったもの、簡単に破棄できるとは思えません。

 すぐに追っ手を出し、捕まえますのでしばらくお待ちください!」

「わかった、とにかく早く探せ!」

 と太った男は部下に叫んでいた。



 夜の闇に二つの影が走る。

 その影が交錯したあと一つの影が崩れた。

「ハア、ハア……。

 黒衣の暗殺者と呼ばれた私も魔力が無ければダメね」

 大きな息をする下着姿の女。

 足から血を流していた。

 傷を押さえながら屋根を渡る女。

「このままじゃダメ。

 仕方ないわ、この家の屋根裏で少し休ませてもらうか……」

 女はある家の屋根裏に滑り込んだ。



 子供が寝静まる時間。

 ケインは気配を感じて目を覚ます。

「逃げはできても、これじゃ……」

 小さな声が天井から聞こえる。

 そして、天井の隙間から血が落ちてきた。

 ケインは気配を殺し、影移動で天井裏に飛び上がと周りを見回した。

(ありゃ、下着姿の女性?

 手には紙?

 でもなぜにこんなところへ?)

「何してるの」

 ケインが声をかけると、居ないはずのケインを見つけたその女はビクリとしてケインを見た。

「なぜ……」

 ケインがよく見ると太ももの辺りがざっくりと切れ、結構な血が流れている。

「ふう、まあいっか。怪我をしているの?」

 出血が多いのか、女は意識が飛びそうになるのを耐えているようだった。

 それもむなしく意識を失う。

 ケインは「よっこらしょ」と言って肩に担ぐと女を抱え上げると天井裏から自分の部屋に降りた。

 持っていた紙は、机の上に置いておく。

 そして、

「これでよく動けたもんだ。

 でもオジサンが助けちゃうぞ」

 と呟く。


 真白な肌に赤い唇が見える。

 すらっとしており、ミランダよりはちょっと背が低い。

 女は桃色の髪を後ろでまとめていた。

 髪留めを外すと、長髪があらわになる。

(うわ、正直美人。

 何歳ぐらいだろう)

 屋根裏から降ろした時の勢いで久々にポロリ。

(オッパイポロリ。

 昭和の番組……。

 まあ、ラッキースケベと言うことで……。

 でもポロリに見とれている場合じゃないか……)


 ケインは出血を続けている太ももを魔法で治すことにする。

(血管と筋繊維を繋ぐ。そして表皮もだな)

 ケインが手をかざすと傷が埋まるように消え、何もなかったかのような肌が現れた。

(後は、造血幹細胞……そんなんあったよな。

 それにちょっと魔力を流して活性化と……。

 イメージだけどね)

 そんなことを考えながらケインはベッドに女を置いた。

「ベッドが狭いのは勘弁な。抱き枕にでもなってもらおう」

 そう独り言を言ってケインは女に抱き付くと、そのまま寝てしまった。



 ピクリと体が動く感じでケインは目を覚ます。

 すでに女は目を覚ましていた。

 女は子供に抱きつかれて全裸で寝ている意味がわからないのだろう。

 ケインは目の前にあるオッパイを

「おっぱいみーっけ。

 ケインはオッパイ星人ではないが張りのあるオッパイがあると揉みたくなるのは男の性」

 と適当なことを言って揉む。

「あんっ」

 女は身もだえた。

「なっなぜ子供が私に抱きつている!」

 幼い子供に襲われ真っ赤な顔をした女。

「俺が抱きついたから抱き着いたのです。

 つまり、あなたが勝手に俺の家の天井裏で気絶したから服脱がして、おっぱいポロリを堪能して、治療して、抱き枕にして寝たから今こうなっている。」

 ケインの訳の分からない説明に、

「治療?」

 と女が聞く。

「ああ、治療。

 太ももの傷が無いでしょ?」

 女は思い出したのか、毛布を取り自分の太ももを見ている。

「死に至る可能性がある出血だったはず」

「実際気絶してたぞ。

 でさ、子供だから聞いても何もできないかもしれないけど、何かあったの?」

 ケインは女に聞いた。

「確かに子供に言ってもわからないだろうな。

 でも、命を助けてもらったようだ。事情ぐらいは話す。

 私の名はカミラ。

 リンメル公爵の奴隷……俗に言う性奴隷。

 リンメル公爵は人型の魔物をいたぶるのが趣味らしい。

 その眼に見初められて捕まえられ、奴隷にされたんだ」

 ケインは嫌な顔をして、

「リンメル公爵って下種だな。

 しかし、カミラさんが魔物とはね。全然見えないや」

 と言う。

「ほら、ココに犬歯があるだろう?」

 カミラは歯を少しむき出し、尖った犬歯を見せた。

「吸血鬼?」

「いいや、その上位種の神祖だ。

 日に当たっても灰になったりしない」

「そうなんだ。」

 鎖骨のあたりにある紋章を指し、

「この紋章が奴隷紋。

 この紋章がある者はその主人の言葉を聞かなければいけない。

 私は主人の言葉が聞こえるとその男の言うことを聞くしかない。

 その待遇から逃げようと奴隷契約書を奪って逃げたのだ。

 朝には気づかれるかもしれん」

 とカミラ言った。

「要は、主人の言葉が聞こえないところへ逃げようとしていた訳か」

「そうだ」

「ちなみに、その契約書の破棄ってできないの?」

「クリフォードという魔法使いの契約だ。

 聞いたが、魔力が高く一度も破棄されたことが無い魔法書士として有名なのだろう?」

「そうなの?

 俺は知らない」

「まあいい、その魔法書士以上の魔力を使い、契約書に内包されたクリフォードの魔力を抜き出せば契約を破棄できると言われている。

 ちなみに私もやってみたが無理だった」

 魔力勝負って訳か……。

「俺がやってもいい?」

「お前のような子供がどうにかできるとは思わないがな。

 だた、私の足を治したのも事実。

 やってみてくれないか。

 えーっと契約書はっと……」

 カミラは契約書を探しているようだ。

「あそこに置いた」

 ケインは契約書を指差す。


「どうやる?」

「えっと、確か、契約書の端をお互いに持つんだ」

「じゃあ、契約書の端を持つぞ。あんたも持ってくれ」

 女も契約書の端を持つ。

「あとは、魔力を通すだけだったと思う。

 聞いたのでは、書類や紋章に残った魔力を追い出す感じで行なうらしい」

 ケインは契約書を見つめ、

(他人の魔力……、ああ、契約書の周りに壁のような物がある。

 こいつを剥いでいけばいいのか)

 と納得すると、

「じゃあ、やってみるぞ」

 ケインはそう言って契約書に向き合った。


(紋章の周りにある魔力の壁を少しずつ削ってと……。

 おっ、穴ができた。

 そのまま削って継続して削り、クリフォードの魔力だけにすればいいんだな。

 このフォードの魔力を魔力に包んで契約書から抜き出す……と、多分これでいいはず……)

 ケインの処置が終わった瞬間フラッシュコットンのように契約書が燃え上る。

 と同時にカミラの奴隷紋が消えた。

「んー、これでいいかな?」

 そんな事を言うケインを唖然としながら見るカミラが。


「これで奴隷契約は無くなったんだね」

 頷くケインを、

「えっ、お前……」

 カミラが見る。

「俺はケイン。

 別に恩を売るつもりも無いんだ。

 おっぱいポロリもモミモミも堪能したし、それで報酬は十分。

 行くところがあるのなら行ってもいいよ」

 ケインはカミラに言う。

 しかし心の中で、

(ああ、久しぶりの感覚だったなぁ……。

 ぷよぷよのモチ)

 ケインは遠い目をしてカミラの胸を思い出していた。

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