第2話 育っています。
一歳半を越えたころ、トレーニングのお陰かケインは普通に走り回れるようになっていた。
それを知った父であるベルトは、ケインの体に合わせた木剣を与える。
「
とケインがベルトに頭を下げると、ベルトは優しい目をして俺の頭をワシワシと撫で、
「強い魔法使いもいいが、強い騎士にもなるのだぞ」
とケインをみおろしながら言う。
毎日のように剣を振り、毎日のように魔法を使い、ケインは鍛える。
三歳ごろになるとミランダはケインに計算を教える。
問題については前の世界の小学生レベルの問題だ。
前世高校卒のケインには緩い。
「あの人より計算が早いわ」
すでに計算はベルトを越えているらしかった。
「父さん、これ教えて」
とケインが聞いてみると、ベルトは足し算に両手を使う。
ただ、正解ではあった。
三歳ごろ木剣を軽々と振るうケインを見て、ベルトが、
「相手をしてやろう」
とケイン前に立ちはだかる。
リーチの無いケインの体、しかし容赦なくベルトは剣を振るう。
しかし今まで鍛えた甲斐が出たのか、ケインは何とかベルトの攻撃をいなすことができた。
「こいつ……」
ベルトはニヤリと笑う。
結局ケインはベルトに勝つことはできなかった。
「手を抜いてもらえないんだもんなぁ……。
大人げないだろ」
ボコボコにされたケインは陰で愚痴っていた。
「三歳の子を相手に何をしているの!」
ミランダにベルトは怒られる。
しかし、そんな言葉に聞き耳を持たず、
「その辺の騎士になら一撃を与えられるな。
三歳でこの強さか……この強さは俺の血だな」
と言って嬉しそうに頷いていた。
魔法のほうばかり目立っていたせいか、ベルトは肩身が狭かったのだろう。
その日次の日の朝から、ベルトはケインに稽古をつけることになった。
五歳になるとミランダが、
「もう、あなたに教えることは無いわ」
とケインに苦笑いをしながら言った。
「あなたは私の知ってることをすべて吸収した。
魔力も魔力操作も既に私を越えている。
だから、もう好きなように遊べばいいわ。語学も堪能。
剣もベルトと互角。
ああ、どんな凄い男になるのでしょう。
お願いだから悪い方には行かないでね」
切なる願いってらしい
「僕も悪いことをしたいとは思わないから安心して」
この日から、ケインは屋敷の外に出ることを許されるようになった。
ベルトは、国を守るために戦場へ行く。
他の国との戦いが始まったらしい。
ベルトはバレンシア王国の騎士らしく、ファルケ王国の侵攻を止め、押し返すために呼ばれたそうだ。
「鬼神ベルト」それが通り名らしい。
ベルトが家を出る時
「家を守るのはお前だ、これをやろう」
と一本の剣をケインに渡した。
ケインの手になじむ、短いながらも綺麗な剣。
(軽銀か……つまりファンタジーの産物、ミスリルだよな)
ケインはそんなことを思う。
ケインは鞘をつけたまま振ってみた。
刃渡りで四十センチ程度だろうか。
これがケインの最初の武器になった。
そんなある日、
「おうおう、ケイン。大きくなったのう」
魔術師マーロン。
ミランダの父親、ケインの祖父になる。
白いあごひげ、広鍔のとんがり帽子、それに杖。
ゆったりとしたローブを着てケインの家へやってきた。
母さんの師匠、前宮廷魔術師筆頭らしい。
「ミランダ、あの筋肉バカは?」
騎士をバカにしているらしきこの物言い。
(この爺さん、俺のオヤジに対して言うじゃねえか!)
ケインはマーロンを睨み付けた。
「お父様、ケインの前でそれは……。
それに、ベルトが戦いに出たのを知っていてわざわざ来たのでしょう?」
「儂の可愛い娘を手籠めにした男だ、嫌いでも仕方ないだろう?
あのまま居れば儂の跡を継いでいたのに」
「もう七年も前の話でしょ?」
「お母さん、お爺様は父さんが嫌いなの?」
ケインはミランダに聞く。
「ケイン、お爺様は子供なの。
未だに私がベルトのところに嫁いだのを怒っているの」
「お爺様は、母さんが好きなんだね」
「そうだぞ、ケイン。
お前の父さんは儂の可愛い一人娘のミランダを攫っていきおった」
「お父様!
今この話をしても仕方ないでしょう?
私はもうベルトの妻です。
それに子供の前で話す事ではありません。
そうね、お父様、ケインに魔法を教えてやってもらえないかしら」
ミランダがケインの顔を見ると頷く。
「何かしろ!」と言う合図のようだ。
そして、
「あの頑固ジジイを懲らしめてやって」
とケインの耳元でミランダは呟き任務伝える。
その言葉にケインがサムズアップするのだった
マーロンはケインの魔法の腕を知らない。
「それじゃ、ケイン、庭に出ようか」
マーロンはケインを誘い庭に出る。
「儂の家ならばこんな狭い庭では無いのだが。
お前の父親ではこの程度なのだろう」
自分自慢を始めるマーロン。
「それじゃ、指先に炎を作ってみようか。
最初は難しいかもしれんが火が燃えることを想像すればできるだろう」
そう言って、人差し指の先に炎を灯す。
「こう?」
ケインは簡単に炎を灯した。
「えっ?
おう、いきなり成功か。
さすがミランダの子、つまり儂の血じゃ」
長いあごひげを弄りながら満足げに言う。
「それじゃ、その炎を丸く纏められるかな?」
マーロンの炎がビー玉ぐらいにまとまる。
「これでいい?」
ケインはマーロンの炎より小さくパチンコ玉の大きさぐらいに小さくした。
「おっ、おお。
儂もそのくらいならできるぞ」
マーロンの炎がパチンコ玉の大きさぐらいに小さくする。
(ん? マーロンの額から汗が出始めたぞ?)
「じゃあ、お爺様僕も頑張るね」
ゴマ粒の大きさまで小さくした。
「何!
その大きさまで圧縮が?」
マーロンは焦っていた。
「お爺様できないの?」
ケインが言ったプライドをくすぐる言葉。
「なーに任せろ。やって見せる。
儂は元宮廷魔導士筆頭」
マーロンは額から脂汗を流しながら挑戦するが「ボッ」という音がすると黒い煙が上がり炎が消えた。
「あっ、ああ、大丈夫だ。
ただ今日は調子が悪かったようだな」
(あっ、じいさん調子のせいにしやがった)
ケインは、ほくそ笑む。
(それなら……)
「お爺様大丈夫?
僕こんな事もできるよ」
両手の指に火球を出し、それぞれを舞わせてコントロールする。
マーロンがあんぐりしていた。
「お前は天才か?」
マーロンはケインの手を取り、
「ケイン、ちょっとお母さんの所へ行こうか」
と言った。
「ミランダ!ミランダ!」
ドタドタとケインを引きずるように家の中に入る。
「どうしたのお父様」
結果を予測していたのかニヤニヤマーロンを見るミランダ。
「何だこの子は! どんな魔法制御力を持っているんだ!」
マーロンが唾を飛ばしながら言と、
「お父様、落ち着いて」
そう言って、母さんは水を差し出した。
「儂が……この儂が、こんな小さな子に魔法制御で負けたのだ」
愕然とするマーロン。
「私もこの子には勝てないわよ?」
「えっ……」
「とっくにケインのほうが魔法の扱いは凄い。
魔力量も多いし、私の知ってる魔法は全部使えるわよ」
「対大規模兵力用の広範囲殲滅系の魔法もか?」
マーロンはミランダに聞いた。
「そうね、その庭でしか使っていないけども、使えるでしょうね」
「さすが我が孫」
喜ぶマーロン。
「お父様、それは違うわよ。
ケインは小さなころからずっと努力していた。
這うような時から本を読み、私の教えを守り、練習をしたから今のケインがあるの。
血だけに甘えていた訳じゃない。
今もベルトに勝つために毎日庭で練習している。
今のケインなら魔法を使えばベルトに勝てるでしょうね。
でも使わずに自分の技量だけで勝とうとしている」
「這うような時からなど、あり得んじゃろう」
マーロンはケインを見ながら呟いた。
「この子は一度死んでいる。
神によって生かされた時に何かあったのかもしれないわね。
でも、そんなことを考える気は無いわ。
私のケインはそこに居るんだから」
ミランダはにっこり笑うと、ケインを抱きしめるのだった。
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