トンネルを抜けると、転生していました。

義助

第1話 転生しました。

 ガガガガガ……。

 久しぶりに帰った実家で、コンバインを使い稲を刈る男が居た。

「慧、あの人ももういい歳だから、あなたがたまに帰ってくると喜ぶのよ」

 笑いながら声をかける老齢の女性。

「俺も母さんに呼ばれて仕方なく帰ってきたんだがなぁ」


 老齢の女性……つまり慧の母親は慧の休暇周期をどこからか知っており、ピンポイントで電話をかけて用事を押し付ける。

 まあ、慧も彼女が居る訳でもなく、暇なときはパチンコに行く程度だったので「体を動かすついで」として付き合っているのだ。


「いいじゃない?

 父さん嬉しそうにしてるじゃないか?」

 長年寄り添ってきた妻だからわかるのかもしれない。

 しかし慧は、

「俺にはそうは見えないな。

 タバコを吸って俺を厳しく見てるオヤジが嬉しそうなんて……」

 と呟いていた。


 稲刈りを終え、少し遠い会社の寮まで高速を使い帰る途中。

「えっ、何でだ?

 トンネルの照明がついていないなんて聞いたことが無い!」

 訳もわからず慧が急ブレーキを踏み、ABSが効く音がすると何かに当たり、そのまま体だけがどこかに落ちていった。

 そして気が付くと、見たことのない天井が見える。

(天井画なんてテレビでしか見たことが無かったはず。

 木造だよなこれ……結構太い梁……なぜに?

 ふと横を向くと、泣いている金髪碧眼のドレスを着た一人の女性。

 めっちゃ綺麗やん)

 その涙が慧の顔に当たった。

 慧は何もわからず泣いている女性を見ていた。

 そしてそれを支える映画から出てきたような帯剣した黒髪の筋骨隆々の一人の男性。

(しかし、なぜに俺を見て泣く……。

 俺はこんな二人の事は知らない)

 慧はそんな事を考えながら女性に、

「えーっと……」

 と言ったつもりだが、

「あーう……」

 と声が出た。


 そんな慧の声を聞いた二人がピクリと体を震わせ、慧のほうをガン見する。

「何かあったのですか?」

 と慧は言ったつもりが

「だうあーあーあ」

 と声が出てしまう。

 話しかけようとした自分の声を聞き慧は気付いた。

(ああ、この声聞いた事ある。赤ちゃんだ。

 そういえば、従妹が連れてきた赤子を抱かされた時に、似たような声を聞いた気がする。

 まさか、俺、赤ちゃん?)


 女性は慧の声を聞き、

「ケインが……ケインが……生き返った」

 縋りつくように頬を寄せてくる。

 慧の体は涙でぐしょぐしょだ。

(あーあー、何が何やらわからない)

 慧は嫌な顔をしてしまったのだろう。

「ごめんね、お母さんが悪かったわ。びしょびしょにしてしまったわね」

 と、高価そうなレースが入ったハンカチで慧の頬を拭く。

 女性は慧の母親という事らしい。

「信じられん、医者も司祭も『ケインは天に召された』と言っていたのに」

 と男性が話していた。

 慧は何かの台の上に置かれていた。

 見あげると、十字架の上に丸いものが付いているものがある。

(アンクって奴か? いや、よく見ると違う。

 宗教の象徴的な奴かな? そして、ここは霊安室。

 死者との別れを行う場所。推測するに、元々ケインと言う子がいて実際に死を迎えたがその空いた体に俺が入り込んだ形? つまり転生と言う奴か?)

 慧はケインであることを認識した。



 ケイン住んでいるのはハイデマン家。

 そして慧の父親が当主ベルト・ハイデマン、黒髪でブラウンの瞳。身長二メートルを超えているように見える。

 ガッチリ体形で金髪碧眼の二メートルを越えそうな大男。王都の騎士団の部隊長らしい。

 母親がミランダ。金髪碧眼の美人。

 まさに美女と野獣。


 ケインの住んでいる家は、騎士団持ちの家らしく、二階に両親の寝室に、父さん、母さんそれぞれの部屋、一階には玄関兼居間、メイド部屋一つ、そして食堂に台所と言う感じであった。

 広めの庭があり、ケインの父ベルトが朝練を行う。

 そして厩があり、そこにはベルトをのせ戦場を駆けるロウオウと言う黒い馬が居た。

 慧が転生したとき泣いていたのは、やっと授かった後継ぎ息子のケインが死んだためのようだ。

 まあ、慧としてはどうしようもないので、後継ぎ息子ケインとして生きていくことにした。


 そしてケインはこの世界を分析する。

(さて、俺が転生した先はアレなところらしい。

 んーアレ……なかなか出てこない。

 ……おう、やっと出た。森や平原には魔物が現れるような剣と魔法の世界って奴だ。〇―ドス島や風の〇陸のようなもの。

 そんな世界で生き抜くには俺自身も魔法か剣が使えなければならない。

 すでに生存競争が始まっていると考えていい。

 俺には赤子のころから意識があるという利点がある。

 体が満足に動かない今は魔法主体で、体が動かせるようになって筋トレが可能になれば、スタートダッシュが可能

 この利点を生かさず何とする!)

 すでに、ケインはハイハイで移動ができるようになっていた。

 しかし、昼間は乳母が付けられており、柵が無いとはいえなかなか目を盗んで部屋を出ることができない。

 それでも隙を見つけてケインはベルトとミランダの部屋に入り本を読む。

 結局ケインは乳母に見つかり、部屋に戻されることが続いたが、それでも諦めずに部屋へ行って本を読んでいるうちに、何もわからなかった字がわかるようになった。

 ベルトの本棚中にはエロ本のような物もあったが、興味がないケインは特に魔法の本を読み漁った

 ミランダは結構高名な魔法使いだったらしくそういう本が本棚にあったのだ。

 変な呪文を使ったり、精神論的なことが書いてあったりした本の中に

「魔法はイメージ。

 魔力を使い事象が発現する過程を形にして結果を出す」

 ある本にそう書いてあるものがあった。

 そして何だかしっくりくるその言葉。

 ケインは気になっていた。


 ある日、乳母が本を読みふけるケインを見せるためにミランダを連れてきた。

「奥様、ケイン様が本棚に行って本を読んでいます」

 あまりにも逃走を図って本を読むケインに対して、乳母はミランダに告げ口をしたようだ。

「本当に読んでいるのね。ケインはまだ生まれて一年も経っていないのよ?」

「しかし、私が目を離すと必ず奥様の本棚に行って本を開いています。

 そして真剣にその内容を読んでいるように見えます」

 二人が来たのに気付いたケインは、振り返って二人を見た。

 そしてニッコリと笑う。

 そして、ケインは二人の前で『魔法はイメージ』を実践してみせようとする。

(さて、左人差し指の先に魔力? を通し可燃性ガスに変換し圧縮だよな。

 さらに魔力で発火温度以上の熱源を作って近づければ……。いけるっ!)


 そうケインが思った瞬間、「ボウォア」という音とともに結構大きな火球ができた。

 そして、ケインの意識が遠のく。

「ケイン!」

「ケイン様!」

 その声を聞きながらケインは意識を失った。


 ふと目覚めると、涙を流すミランダの顔。

 ケインが目を覚ましたのに気付いたミランダは、

「ケインが目を覚ました!」

 と言ってケイン抱き上げた。

「もう……また目を覚まさなくなるのかと思った。

 魔力切れを起こしたのね。

 でも、こんな歳から魔法が使えるなんて……」

「おーえんはあい(ごめんなさい)」

 そう言ってケインは両手を伸ばし、ミランダの頬に触る。

 すると、何かを決心したようにミランダはケインを見る。

 結局、髪の毛が焼けチリチリになって気を失ったケイン……。

 ケインが物心ついても、ミランダに揶揄われることになるのだった。


 ミランダはケインの部屋に居ることが多くなった。

 そして、ケインの部屋にはミランダの魔法書が置かれていた。

 それをケインは読む。

(えーっと、魔法の体系は、火、水、風、土、闇、光、無属性の七つがあるんだな。

 火、水、風、土についてはその名の通りってわけか。

 闇は状態異常を起こさせるものが多いな。

 影移動なんてのもあるのか……。

 光は逆に能力上昇を行うものが多い。

 あと治療になども行える。

 無属性は念動力とか収納魔法とかか……)

 ケインが母親であるミランダを見上げると、

「さあ、存分に魔法の練習をすればいい。

 私が見ていてあげるから」

 そう言ってミランダは安心させるようにニッコリ笑った。

 そして、ケインはいろいろな魔法に手を出しては気絶するを繰り返した。

 失敗すればミランダがケインをフォローする。

 ケインが新たな属性を覚えるたびに、

「この子、四代元素も……えっ、闇も?

 光魔法も?

 まさか無属性まで!

 私を越える魔法使いになるわ」

 嬉しそうにミランダが言うのだった。


 伝え歩きができるようになる頃にはケインは気絶することもなくなり、人に披露できそうなぐらいの水芸もできるようになる。

 隠れたいときは、影に隠れてやり過ごしたりもする。

 それを見るたびミランダはそれをニコニコと見ていた。


 そして、歩けるようになったケインは体を鍛えることにする。

 ケインは家の中をとにかく歩いた。

(前の世界で痩せるために買ったEMSマシンが懐かしい。

 一カ月ぐらいで使わなくなったが……。

 ん? 腹に弱い電撃魔法でいける?)

 ケインはライトニングの魔法は覚えていたが、自分に使ったことは無い。

 ライトニングを使ってみると、普通の電撃が出た。

「ズバン!」結構デカい音がして床に穴が開き、ミランダが困った顔をする。

(相当小さくしないとなぁ……)

 それでもケインは少しずつ少しずつ小さくして、静電気ぐらいまで抑えることができるようになった

 さらに、点ではなく面で電撃を出せるようになる。

(うし、これで鍛えられる)

 ケインが手のひらを腕に置き極小ライトニングを使うと、小さなパチンという音と共に筋肉がビクンと反応する。

(おぉ、無意識にこれができるようになれば、寝ている間に鍛えられるな……)

 更に魔法を鍛え続けたケイン。

 思惑通りに寝ていても機械的に電撃は出せるようになった。

 後でミランダは

「ケインが寝る時に下腹部に手を添え、ビクビクしていることがあり少し怖かった」

 と言っている。

 ケインも最初のうちは筋肉痛で動くのも大変だったのだがそのうちに慣れ、シックスパックが早期から形成されるのだった。

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