好きな人に焼き鳥を送るのはおかしいだろうか?

タカテン

第1話

 唐突だけどこれを読んでいる女子に質問があります。


 バレンタインデーのお返しに焼き鳥を渡すのはおかしいだろうか?

 

 いや、僕だって変な質問なのは分かるよ。

 でも仕方ないじゃないか。ホワイトデーの今日、登校して鞄の中を確認すると何故かバレンタインデーのお返しに買っておいた高級キャンディーが何故か焼き鳥になっていたんだから。

 

 どうしてそんなことになったのかは僕にもさっぱり分からない。

 確かに焼き鳥は買った。今朝、登校中に何やら香ばしいいい匂いがするなと思ったら焼き鳥が売っていて、思わず三本ばかり所望したのは認める。

 で、焼き鳥は歩きながら食べた。なんか甘いな、コロコロしてるなとは思ったけれど、あの時食べたのは間違いなく焼き鳥だったはずなんだ。

 

 なのに何故かその焼き鳥が鞄の中にあって、高級キャンディーがなくなっている……。

 もしかして高級キャンディーって進化すると焼き鳥になるポケモンだったりするのか?

 

 ああ、それはともかく。

 どうだろう、ホワイトデーに焼き鳥を渡すのはやっぱりおかしいかな?

 僕としては結構アリなんじゃないかなと思ってきた。だってほら焼き鳥おいしいし。おいしいは正義だし。

 それに焼き鳥はヘルシーだとも聞く。何かとカロリーの高そうな定番のお菓子よりも気を利かせた贈り物だとは思わない?

 まぁ、タレと脂肪でテッカテカだけどさ。

 

 ……うん、なんとなくイケそうな気がしてきた。

 あとは焼き鳥を渡すことにちゃんとした隠れメッセージがあれば完璧だ。

 例えばキャンディーは「あなたのことが好き」、マカロンは「あなたは特別な人です」みたいに。

 ちなみに本来ならキャンディーを渡すつもりだったように、僕は相手への好意を伝えようとしている。なので出来れば焼き鳥でもそういう想いを伝えたい。

 なんかいい感じの隠れメッセージよ、出でよ!!


 ウィキペディアで調べ中……調べ中……。

 

 なかった!

 なんにも無かった!

 それどころか「羽をり取られる」ことから「無視」を連想させるヤバイ奴だった!!

 なんてことだ、そんなつもりは全くないのに。


 こうなったら新たなメッセージ性を僕自らが作り出すしかない。

 鞄から焼き鳥を取り出して、じっと見つめる。

 串刺しにされた鳥の肉。

 そしてこれを渡す相手は幼馴染の鳥羽花音とば・かのん。毎年バレンタインデーには幼馴染のよしみで僕にチョコをくれるけど本命なのか義理なのかはよく分からなくて、僕もこれまでは曖昧な意味のものを返してきた。

 が、今年は違う。ふたりの距離をもっと近づけるつもりだったんだ、僕は。

 さぁ考えろ、僕。このテッカテカの焼き鳥でどうすれば僕の本心を伝えることが出来るか真剣に考えるんだ――。

 と、その時。

 

「お、いいの持ってるじゃん! 一本、もーらい!」


 ひょい。

 僕が机に座りつつ両手で焼き鳥を抱えあげて考えていたら、その一本が何者かに強奪された!

 

「なっ! いきなり何をするんだ、これは花音に!」

「ん? あたしがどうかしたの?」


 見上げれば花音が焼き鳥串を横に持ちながら、齧り付くところだった。

 

「か、花音!? ち、違うんだこれは! 朝、歩いていたらいきなり野生の焼き鳥が飛び出してきて!」

「野生の焼き鳥? 何言ってんの?」


 花音は一瞬不思議そうな表情を浮かべるも焼き鳥を前歯で一気に串から抜き取ると、美味しそうにもぐもぐし始めた。

 その幸せそうな顔と言ったら。こいつホント昔から食べる時はいい表情をするんだよなぁ。

 

「お! 美味しいねこれ! 朝練があってお腹が減ってたからすっごく助かる!」

「そ、そうか? だったら全部やるよ」

「マジで!? え? 本当にいいの?」

「ああ、食べてくれ」


 もともとお前にやる奴だったし。でも、こんなに喜んでくれるのなら、高級キャンディーなんかじゃなくて最初から焼き鳥にした方がよかったかな。

 そう、特別なメッセージなんか込めなくても花音の喜ぶ顔が見えただけで僕はなんだか満足していた。

 秘めた想いを伝えられなかったのはやっぱり残念ではあるけれど、そもそも焼き鳥で愛を伝えるのは無理があるというか……。

 

「あ、花音! はい、これ、バレンタインのお返しだよー」


 と自分を納得させていたら、クラスメイトの女の子が鞄からマドレーヌを取り出して花音に手渡してきた。


「わっ! マドレーヌじゃん! やったね!」

「喜んでもらえてよかったわー」


 多分、友チョコという奴をバレンタインデーに花音が送ったんだろう。

 最近は女の子同士でバレンタイン・ホワイトデーのやり取りをやるのは珍しくないと言うしな。

 

「ちなみにマドレーヌを渡す意味って知ってる、花音?」

「ううん、知らない」

 

 俺は知っている。確か「あなたともっと仲良くなりたい」だ。

 うむ、女の子同士、実に微笑ましいな。

 

「マドレーヌって二枚の貝を合わせた形をしてるじゃん?」

「そうだね」

「つまりうちと貝合わせしようぜってことさ!」


 ぶほっ!!

 ちょ、貝合わせって、お前、まさかそんな……。

 

「……貝合わせって何それ?」

「知らなかったらうちが教えてやんよ。じっくりたっぷりねっとりとね」


 えええええええええっ!?

 ちょっと待て! 俺の大切な幼馴染をそんなエロい毒牙にかけられてたまるかーっ!

 やばいやばいやばいやばい、このままでは幼馴染が寝取られてしまう。なんとかしないと! 

 ええい、こうなったら!

 

「花音、実はさっきの焼き鳥だけどな、あれってバレンタインのお返しだったんだ」

「え? そうなの?」

「チョコのお返しに焼き鳥って、何考えてんだ、お前?」

「うるさい! これにもちゃんと意味があるんだよ! よく聞けよ!」


 僕は頭をフル回転させて、焼き鳥を送る意味をここに生み出していく。

 

「まず花音の名字は鳥羽だよな!」

「そだね」

「そして焼き鳥と鳥肉を焼いたもの。焼くには鳥の羽をむしり取る必要がある」

「まぁ、そうだなぁ」

「羽をむしり取られ、肉体をさらけだされた鳥肉。それを棒で串刺しにする。ってことは」

「…………」

「…………」

「つまり花音を裸にしてセックスしたいって意味だーっ!」


 ……スゲェ、人間死ぬ気で考えればこんな究極な結論にも辿り着くことが出来るんだな。

 完璧なこじつけだけど。

 

「……サイテー」

「え?」

「朝からセックスとか何言ってんだお前? 変態か?」

「ええっ!? いやちょっと待て、お前だってさっき『貝合わせしたい』とか言ってた変態じゃねーか!」

「貝合わせのどこが変態なんだよ? 平安時代から伝わる伝統的な遊びだぞ」

「……は?」


 ……いや、確かにそれもありますけど、あの話の流れでは無理があるなーって僕は感じるのですが。

 って、うわっ、花音が! 花音がまるで汚物を見るかのような目で僕を見ているーっ!

 

 唐突ですが、これを読んでいる女子にふたつめの質問です。

 僕はどうしたらいいんでしょう?

 ねぇ、どうしたらいい?

 教えてお願い!!

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