14 最強 vs 無敵
◆ネモイェ視点◆
ムカつく、ムカつく、ムカつく……
数日前、快進撃をしているルーキーが居るからと受け付けで聞き、気になってその相手を見に行ったら女将さんが可愛がっているガキがそのルーキーだった。
エデンで俺が憧れていた女将さんと云う存在を独り占めにしているあのルーキー、名前は確かツヨシと言ったか?
しかもまだこの街にの見習いになったばかりで、開放石さえまともに使っていない状態で最強である俺を馬鹿にしたように煽って来やがる。
このエデンに似たゲーム世界で絶対的な物はデータに裏付けされた数値のみだ。
それを覆す事なんて女将さんクラスのプレイヤー技術を持っているのでも無ければ普通であればできる訳が無い。
それともあのツヨシとかいうガキは女将さんと同じように並外れたプレイヤー技術を持っているからこそ、あれだけ横柄な態度を取れるとでもいうのか?
そうだとしても、同じ程度の
どの
エデンはレベル制のそれとは違って、その差が絶対的では無いとは言え圧倒的であるのは揺るがない。
何を恐れる必要があるのだろうか。
現に俺とあのガキの試合のオッズはほぼ俺のみに傾いていて、掛けた元金ほぼ変わらない程度しか払い戻されない程度の予想となっている。
上手く乗せられた感はあうが、当日あのガキを潰して俺が最強である事を証明し、女将さんにバフ付きの食料を提供して貰えば良いだけのイージーミッションだ。
この世界に送り込まれてから約一年半、現実世界に居場所なんてもう亡くしてしまっているんだ。
もう俺はこの世界で生きて行くしか選択肢が残っていない。
ここでなら現実世界の
好き勝手して生きられる、この自由を失ってなるものか……
とりあえずこのカタチに出来ない苛つきを目の前のNPCにぶつけて発散してやるか。
「うらぁ!」
俺は試合開始の合図と共に勢い良く剣を振り上げて来た対戦者であるNPCに向かって持っていた大剣で一閃し、その戦意を打ち砕く。
大剣は対戦者に深く切り込まれるるが、見た目的にはその肉体を切り裂くことは無い。
確かに剣は目の前の男の胴を一閃し、その手応えも感じるが、血飛沫をあげる様なエフェクトが表示されるだけに留まる。
そして振り抜いた大剣が振り下ろされると同時に対戦相手のNPCはその場に崩れ落ち、試合終了のゴングが会場に鳴り響く。
倒れた対戦者をその場に残し、俺は試合会場を後にした。
一閃したところでやはり気分は晴れるものでは無い。
たまには外に行って派手に狩りでもしてくるか……
苛つきが無くならないまま俺はそんな事を考えのだった。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「おや、チャンピオン。逃げ出さずに来てくれて嬉しいですよ」
すでにヤツは会場入りしており、俺が来るのを待っていたみたいで、俺が会場に到着するなり、まだ幼さの残るあのガキは俺に対して涼し気にそう言ってきた。
今日はルーキーであるツヨシとかいうガキから申し込まれた試合の日だった。
「お前こそ俺に倒される為にご苦労なこった」
余裕を見せ待っているガキを見て、俺の中に燻っていた苛つきが勢い良く燃え上がるのを感じる。
こんな生意気なガキに舐められるのがとてつもなくムカつく。
今日の試合は簡単には終わらせてやらない。
何度もこの大剣を叩き込んで、お前がいかに無力かを思い知らせてやる。
試合のリングの上では力尽きても死亡としては扱われない。
つまり倒れた相手であってもいくらでも攻撃を続ける事が出来る。
攻撃されて痛み等はそれ程では無くとも、その不快感は確実に与え続ける事ができる。
ならばレフリーが止めに入るまで何度だって攻撃を続けてやる、それだけの事だ。
それで俺の苛つきが解消され、そして戦闘に有利になるバフ付きの食料も入手できるなら、この世界に来てからマンネリ続きだった日常も少しは変化があるかもしれない。
だが、まだだ。
「アナタがいくら最強だったとしても、無敵な僕には勝てっこありませんよ」
俺の苛つきなど関係ないといった感じで生意気なガキはリングに上がる。
その手に武器らしい武器は握られていない。
代わりに拳を傷めない為のグローブが成されている。
アイツはエデンの戦いでは不利とされている格闘の使い手か。
ならその間合いの外から俺の自慢の大剣で遊んでやれば良い。
エデンというゲームは武器の間合いによる有利不利は厳格だったりする。
間合いが開いている時は飛び道具である弓や銃器が圧倒的に有利だが、その有効射程を割ってしまえばその威力は半減以下になる。
そして次に間合いが広いのは総じて槍だが、その取り回しは剣や槌に比べると扱いが難しく、それを使いこなす者は多くない。
槍だってその間合いに割り込んでしまえば、遠心力による大きな攻撃力も活かす事はできずに一方的に痛め付ける事だって可能だ。
そして槌、これは剣と間合いはほぼ一緒だが、その重量による打撃がメインで大ぶりになりがちだ。
冷静に対処すれば、それも恐くはない。
剣はその間合いの丁度良さ、取り回しの容易さからエデンでは最強とされている。
懐に飛び込まれるとその手数の多さで厄介なのは拳を用いた格闘だが、今まで剣のみを扱って来た俺にとってはその間合いに飛び込まれるヘマを打った事は無い。
闘技場において格闘をメインで戦う相手も多く、その攻撃の手数の多さから観客は盛り上がる事が多いが、実用性のみを追求すれば選択する武器は剣をおいて他には無い。
教えてやるぜ、ゲームにおける効率ってヤツをな……
「お兄ちゃん、がんばれ~」
観客席から幼い女の子の声援が飛ぶ。
あれはあのガキと一緒にいたメスガキか?
無邪気に応援しているが、これから一方的に嬲られる事になるというのに呑気なものだ。
その隣では女将さんも涼しい顔のまま俺達の様子を伺っている。
その表情はまるでガキが負ける事なんて全く疑っていないといった様子だ。
俺を無視している様なそんな女将さんも、無邪気に声援を送るあのメスガキもムカつく、ムカつく、ムカつく……
女将さんは俺だけを見てくれてれば良い。
この世界では俺が中心なんだって事を思い知らせてやる。
試合進行を務めるレフリーがリングの中央に立ち、これから開催されるエキシビジョンについて説明をはじめる。
使用する武器についての制限は無く、消費アイテムなどの制限も無い。
試合と判断されている間は力尽きても行動不能になるが死亡扱いにはならない為に魂の登録場所に飛ばされる事は無く、試合終了と共に回復が可能。
ようは死亡のリスクの無い何でもアリな対人戦が行えるのがこの闘技場という施設だ。
何でもアリだが、それ故に開始と終了を明確化し、トラブルが起こらないようにするのがレフリーの役割でもある。
その事をリング中央でレフリーである男が宣言し、右手を高々と上げ試合開始を告げる用意をする。
いよいよだ、この俺の中で燻っている苛つきを思う存分発散させてもらうぜ!
「ファイッ!」
レフリーが掲げた右手を振り下ろし、試合開始を宣言した。
俺はファイティングポーズを取り構えているガキに向かって勢い良くその距離を詰める。
まずは駆け寄りながら下方向からの逆袈裟から剣を振り上げての攻撃だ!
人型モブであってもこの様な攻撃をする相手は俺自身も知らないから、この攻撃に対処するのは所見で捌くのは無理だろう。
そう俺は思ったのだが……
ガキは半身をずらし逆袈裟の剣筋を交わし、その状態のまま身体を俺に寄せて滑らせ、そのまま身を屈めた状態で足元に蹴りを入れて来る。
エデンではそんな攻撃方法なんて
なのにその存在しない攻撃をしてくるガキ。
俺はその思いもしなかった攻撃を喰らってバランスを崩し、その場に仰向けに倒れ込んでしまう。
ガキは追撃とばかりに俺の顔面に向かって拳を振り下ろす。
その拳を回避できずにマトモに喰らってしまう。
倒れた相手に対しての追撃なんてものもエデンでは
立て続けに二度もエデンでは存在しなかった攻撃を喰らい俺は驚愕する。
あのガキ、
エデンでは有りもしない攻撃に俺は驚いたが、ダメージそのものは無いと言っても良い状態だ。
「てめぇ、何しやがった?」
転がってガキから距離を起き、素早く立ち上がって理解できなかった攻撃に対して問う。
「ローキックとジャブを使っただけですよ」
格闘の間合いから外れたにも関わらず、涼しい感じで自身が放った技について明かすガキ。
だがそれを聞いて納得できる訳が無い。
ローキックは立った状態からの軽い足技であり、それ自体に相手を転倒させる効果なんて無い。
そしてジャブに関しても同じく
「エデンではそんな使い方できなかったハズだ」
俺は驚きを悟られないようにそう聞き返す。
「嫌だなぁ、アナタだって下から切り上げるなんてゲームでは出来ない事してるじゃないですか。それと一緒ですよ」
そう言われてみて、ハッとする。
確かに初手で見せた逆袈裟切りなんてのはエデンでは行えない。
言われてみて、このエデンに似た世界はそれとは違うと云う事を改めて実感させられる。
「アナタがチャンピオンで居られるのは世界に管理されている人形相手だからですよ。人形っていう言い方は、僕は好きではありませんけどね……」
格闘の間合いの外に居るはずのガキは処するのはいつでも可能とでも言わんばかりに、そんな事を漏らす。
「っざけんなぁ!」
ガキの言う通りなら、ここはゲーム世界であってもエデンとは違うと云う事になる。
俺はその事に多少の戸惑いを感じるが、エデンのそれと酷似しているなら有利であるのは揺るぎない。
再び剣を構えて俺はガキに斬り掛かる。
──だがガキは俺のその行動をまるで見越していたかの様に左手に
その盾捌きはエデンのそれで見ていたものとは違い、腰を沈め俺の剣戟に対してまるでアッパーカットでも行うように下から大きく振りかぶってのものだった。
剣戟はその盾による衝撃によって弾かれ、その勢いを殺せないまま俺は後ろにふらつく。
これは【衝撃盾】か? それにしては
間合いの有利さで言えば俺の方に分がある。
そう思い、持っている大剣を構え直そうとするが、先程の衝撃のせいか身体が痺れていうことを利かない。
ガキはそれすらも見越していた様に盾を正面に構えて突進してくる。
その突進に
「そこまで。勝者、超絶無敵王!」
声のする方に意識を向けると、そこでは勝者を宣言するレフリーの姿があった。
何が起こった?
「ね、アナタの最強なんて簡単に打ち砕けるんですよ」
ガキは俺に対して冷たさを感じさせる声で告げ、試合場を後にする為に彼に背を向ける。
俺は負けたのか?
相手が取った行動はたったの四手、その中で有効打らしきものはただの一度も喰らってはいない。
なのにガキの方が勝者だと?
理不尽な出来事に苛つきを感じながらも状況を把握する為に辺りを見渡す。
すると俺の身体は試合をするリングの外のに出されており、それが原因で試合に負けたと云うのが理解できた。
「認めねぇ、お前如きルーキーが最強を打ち破れるなんて!」
理解は出来たが納得できるかと問われれば、それは別の話だ。
手に持っていた剣に力が入る。
俺は衝動のままに叫び、ガキの背中にその力の象徴を叩き込む為に走り寄る。
「うっ……」
だがその刃は届くよりも前に俺の胸に違和感を感じ、それが届く事は無かった。
胸元の違和感に視線を落とすと、そこには
まただ、複数の矢を放つ技はエデンにはあっても二本同時に矢を放つ技なんてものは存在しない。
その矢を放った相手を確認しようと視線を向けると、そこには敵意を顕にした女将さんがいつでもソレを放てるように次の矢をつがえて弓を構えていた。
アナタを傷付ける事なんてしないのに何故女将さんはそんな
ガキに負けた怒りよりも女将さんに向けられた敵意の方が衝撃が強く、俺はその場に力なく膝を着いたのだった。
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