04 憤慨、そして超絶無敵王は立つ

「はぁ? ハンバーガーを取り上げたって?」

 ツヨシ君から私が街から離れていた間の報告を受けたが、私が街から出てスグに問題が起きたとの事だった。

 その報告を聞いて私は憤慨する。

 確かにミランダはツヨシ君が出会った男の言うようにNPCだし、彼の言ってる事はある意味で正しいのも理解はできる。

 理解はできるが、納得できるかと問われれば否だ。

 あまり自己主張をする子ではないミランダだが、そんな事をされたのなら彼女がそのネモイェと名乗った男を嫌うのは頷ける。


「アタイの知っている無名食堂とは変わってしまったのかねぇ……」

「師匠が関わっているのは予想できるんですけど、無名食堂ってどんな料理屋だったんです?」

「あぁ、食堂って名前から料理屋だと思うのも無理は無いけど、アレは私がリーダーだったチームの名前なんだよ」

「チーム?」

「エデンでは遊ぶ目的が似たような人達が集まって、より幅広い活動に役立てようってのがチームなんだよ。他のゲームではクランだったりギルドなんて呼ばれていたりすモノだね。まぁ、ギルドに関しては仕事クエストを分配する本来の意味の職業組合として使われてるけどね」

 私は簡単にではあるがツヨシ君の誤解した認識を説明する。


「なら、常連ってのは? 同じ楽しみ方で遊ぶ人の集まりなら、そんな言い方しないですよね?」

 ツヨシ君はチームのあり方について聞き、さらなる疑問が浮かんだようだ。


「元々無名食堂ってのはアタイがエデンで家を持った時にソコで小料理屋のゴッコ遊びをする名前として付けたモノなんだよ。だからチームのメンバーなんかも入れたりするつもりは無かったんだけど、この世界もそうだが一人で活動するには色々と制約がきつい世界だろ。そんなのもあって少しづつだけど一緒に遊ぶメンバーが増えていったのさ」

「師匠の料理屋ゴッコに付き合って集まったメンバーだから、そのお店の常連……って、事ですか?」

「まぁ、そんな感じだね。だからそのチームのリーダーであった私はその小料理屋の女将さんって呼ばれていた訳」

「お姉ちゃん料理屋さんのコックさん? だからお姉ちゃんのハンバーグはすごく美味しかったんだね!」

 ツヨシ君に説明をしているとミラちゃんが目をキラキラさせながら言ってきた。

 ハンバーグは食堂で大量購入したヤツだったんだけどね……

 まぁ、ミラちゃんがそれで喜んでくれるなら良いか。


「一度は取られちゃったみたいだけど、ハンバーガーは美味しかったかい?」

「うん、お口の中がわっしょいしょいして、ミラ毎日でもお姉ちゃんのハンバーグ食べたい!」

「ならまた別のものも作ってあげようね」

「わ~い」

 ミラちゃんは独特な表現でその美味しさを伝えてくれる。

 でも、そんなミラちゃんが可愛らしくて思わず頭を撫でてしまう。


「それで師匠、ネモイェさんでしたっけ。その人には会いに行くんです?」

「行かない。ツヨシ君の話聞いたら、いくらプレイヤーであっても仲良くしたいとも思わない」

 元無名食堂のメンバーというのは気になるが、あの集まりは誰でも気持ち良い場所を提供するってのが根底にあったはずだ。

 そう考えたらツヨシ君の会った男が元無名食堂のメンバーとは思えないのだった。

 そんな思いも手伝って自分ばかりを押し付ける輩に会いに行く気持ちなんて持てる訳も無かった。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽




「やぁ~の、ミラも行くの!」

 翌日、ツヨシ君と改めて遺跡に向かおうとするとミラちゃんは私の腰にしがみ着いて抗議の言葉を上げる。


「アタイ達はとても恐い場所に行くからミラちゃんは宿で待っててくれないかな?」

「やぁ~の!」

「ちゃんとお留守番できるように一杯ハンバーガーもあげるから、ね?」

 そう宥めると彼女は私を見上げ、少し考えた後に手を出す。

 お留守番して貰うにあたり、先に余裕を持った数のハンバーガーを渡していたが、追加でよこせとの事なのだろう。

 それで納得してくれるならと追加で数日食べても大丈夫な数のハンバーガーを渡す。

 それを確認し、抱えたハンバーガーは消え去った。

 多分彼女自身の荷物枠の中に収めたのだろう、NPCが荷物枠を持ってるのか知らんけど。


「やぁ~の、ミラも行くの!」

 そしてアイテムをしまうと再度私の腰に強くしがみ着き、先程と同様の言葉を繰り返したのだった。

 あざといな、完全にしてやられた。

 こんな対応されるとミラちゃんはNPCなどでは無く、中の人が居るんじゃないかとさえ感じてしまう。

 それともこの選択はデジタルゲームによくある断る事を許さない強制イベントの類なのだろうか?


「ねぇ師匠、なんでミラちゃん連れて行けないんです?」

「まだ色々と分かってない事が多いからねぇ。不安材料は少しでも減らした状態にしておきたいんだよ」

 NPCの対応が人のそれに近くなり、柔軟な対応をするようになったとは言え、その存在はプレイヤーとは異なる存在だ。


「遺跡に行くのはそこらを説明してからにするか……特に急いでいる訳でも無いし……」

 そう言って、一度出た宿に戻る事にした。



「プレイヤーとNPCの違いは何だと思う?」

 宿に戻り、部屋に設置されたベッドに座った状態でツヨシ君に私は聞く。


「反応とか人と同じみたいになったし、何か違いあるんですか?」

 私の言いたい事の意図を掴めなかったツヨシ君は訳が分からないといった様子で聞き返してくる。


「プレイヤーとNPCには大きな違いがあるんだよ。一番分かり易い部分で言えば熟練スキルを持っているか持っていないか、だね」

「それの何が問題なんです?」

「アタイ達の能力は全て熟練スキルに応じて決定されているよね?それは戦闘に関わる部分、特にどれだけダメージを受けたら倒れるかが決まるヒットポイントなんかもそうだ。特定のNPC、この場合なら戦闘可能なモブならそう言ったデータが用意されているんだけど、じゃあミラちゃんの場合なら? そう考えてしまったんだよ」

 ツヨシ君は静かに私の言い分を聞く。


「それらの生死の判定に使うデータが無い場合、それらが攻撃された場合どうなると思う?」

「えっと……どれだけダメージを受けても、それを計算するものが無いんだから無敵なんじゃないかと思います」

「それは好意的に取った場合の話で、そういう状態になるならゲームとしては危機感が無くなってしまうから早々に修正されてしまう感じになるね。もうひとつ考えられるのは計算できるものが無いってのを数字ではゼロとして扱う場合だね。これは少しでもダメージを受けるとゼロ以下のマイナスになってしまうから、そうなると死亡扱い。プレイヤーは復活可能だけど、NPCはそのまま消滅してしまう可能性があるって事なんだ」

「それは……」

「そう、これがミラちゃんを留守番させたい理由だよ」

「師匠、復活可能かどうかを確かめる方法はあるんですか?」

「ある。……が、試したくない」

「どんな方法なんです?」

 ツヨシ君は声のトーンが落ちた状態で聞いてくる。

 そんな重い雰囲気を感じ取っているのかミラちゃんは何も言わないままでいる。


「そこらを歩いているNPCを実際に倒してみて、翌日辺りにその人が同じような場所に居るかを確認すれば良い」

「……それは確かに試したくは無いですね」

 エデンでも特定の勢力に敵対する為、その逆に友好を示す為に街にいる住人を倒してまわるプレイヤーも居た。

 それらを街中で見掛けた事もある。

 しかし表情の動かないNPCだからといって、それらを追いかけまわし、自分の操っているキャラクターに影響を与えないとはいっても一方的に蹂躙する行為を見てるのは気持ちの良いものでは無かった。

 そうやって倒されたNPC達はゲーム内で遅くても翌日になれば、その倒されたのと同じような場所で何事も無かったように再度出現するのだが、そのような事をこっちの世界で自ら試してみようとは思えない。


「この世界は私の知っているエデンに凄く似ているってのは何度も言ってるけど、その知っている世界とは徐々にだけど違ってきているんだよ。ミラちゃんはイベントに絡んだだけのNPCだってのも理解している。理解しているからこそ、アタイがこの世界を楽しむ為に不安材料はできるだけ抱え込みたくない」

 エデンでなら多少気分が悪くなるような事があってもゲームだからと割り切れた。

 多分こっちの世界もゲームであるのは変わらないのだろうが、そう思うには今のこの感情表現をするNPC達が住まう世界・・・・・は残酷ささえ私は感じるのだった。


「でもミラちゃんは僕たちと一緒に居たいんだよね?」

 ツヨシ君は隣でおとなしく私達の話を聞いていたミラちゃんに聞く。


「うん、一人はもうヤなの」

 その訊ねにミラちゃんは迷いの無い感じで答える。


「ならば師匠、簡単な話です。僕と師匠がミラちゃんを守れば一緒にいれます」

 ミラちゃんの返答を聞いた上でツヨシ君はそう言ってきたのだ。


「不可能では無いけど、そうする為には行ける場所や行動も制限されるし、何より凄く大変だよ」

「できないって言わないんですね。なら、どんなに大変でもやってみましょうよ」

 そう無責任とも取れるような事をツヨシ君は言って、ミラちゃんに微笑みかける。

 そんなツヨシ君に対してミラちゃんは抱き着く事をでその気持を表現したのだった。


「何とも面倒な弟子を持っちまったもんだよ……」

 呆れ半分でそんな言葉が漏れてしまう。


「だって僕は超絶無敵王って名前ですよ。どんな敵に対してだって負けません!」

 そうツヨシ君はおどけて言うのだった。

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