07 師匠、こんなのクソゲーですよ!
※ツヨシ視点
「まだ終わらないのぉ?」
間延びした声で師匠が聞いてくる。
師匠はすごい勢いで蛇のお肉の納品を終わらせて、催促の言葉を投げかけるのはこれで四度目だ。
「そんなに暇なら何か別の事すれば良いじゃないですか」
少しイライラしながらそう言ってしまう。
「あ、
それでも特別な武具をもらうため、もう何度目になる数えるのもやめた
「お前に頼めるのはこれだな」
背の低いカウンターにもう見るのも嫌になってきた四枚の依頼書が目の前のに現れる。
すでに蛇のお肉を取り出しながら空いた手で依頼書を持ち上げ、残った依頼書が消えると同時に納品を完了させる。
やりはじめた頃よりは
「戦士は戦死しても戦史に残る、倒れる事を恐れるな」
もう何度も同じ事聞いたよ!
これが言い終わるまで次の
「とりあえずアタイは料理人ギルドで残った蛇肉でも焼いてるよ」
まだまだ終わりそうもないと思ったのか師匠はそれだけ言って傭兵ギルドを出て行ってしまった。
「師匠、終わりましたよぉ」
僕が傭兵ギルドのランクアップ試練の話が出たのは師匠が出て行ってからしばらくしてからだった。
師匠は料理人ギルドの厨房で手際よくフライパンを使って集めた蛇のお肉を焼いていた。
「もう少しで焼き上がるからね」
フライパンから目を離さないまま声をかけた僕に返事をしてくれる。
「で、師匠。傭兵ギルドの駆け出しランクの試練なんですが、"幕開けの洞窟"ってどこなんです?」
ランクアップ試練の内容は"幕開けの洞窟"の一番奥に置かれている石版を持って来るってあの暑苦しさを感じる傭兵ギルド長は言っていた。
「ん、知らない」
師匠に聞けばなんでも答えがもらえると思っていたが、その返事はそっけないものだった。
「でも、南門を出て街道沿いをしばらく行けば比較的大きな沼があるみたいね、その沼の周辺にあるって事らしいからそれ程遠くでは無いんじゃないの」
そういえば場所の説明もしていたっけ。
大量のお肉納品で気持ちがすっかり萎えてしまっていた僕は聞き流してしまっていただけらしい。
「アタイもまだまだ全然歩き廻った訳じゃないたけど、こっちの街は試練の内容を聞く限りじゃかなり内陸の街なのかねぇ……」
そんな誰に言う訳でも無かっただろうけど、そんな事を言う。
「なら僕とはじめての冒険ですね!」
師匠も知らないはじめての場所に一緒に行かれる事にワクワクしてしまい、思わず声をあげる。
「そうだね、はじめての場所だから色々準備してから試練に挑もうかね」
焼き上がったであろう蛇の肉をお皿に移し、それを荷物枠の中にしまいながら師匠は優しげに言う。
「師匠、ちょっと気になったんですけど……」
「何?」
「その焼いたばかりの蛇のお肉、いつも食べてるのと違いますよね?」
「いつものだよ。インベントリにしまうと取り出した時、何故か干し肉みたいな見た目に変わっているんだよ。ってか、自分の荷物確認してごらんよ。その枠に表示されているのだって皿に乗った肉料理って感じなのに取り出すと見た目は全然違うだろ」
ちょっとした疑問で聞いたんだけど、そうやって自分の荷物枠を確認すると確かに師匠の言ったようにその表示はお皿に乗った肉料理のものだった。
「なんでです?」
「そんなのアタイだってはじめて気付いた時には驚いたさ。でもここはゲームの中の世界だから、そう作られたモンだって自分に言い聞かせてるよ」
そう師匠はまるで言葉を投げ捨てるように言う。
「それよりも初めての場所、はじめての冒険、存分に楽しもうじゃないか」
さっきの少し冷たい感じを受けた声とはがらりと変わって、明るい声で言う師匠。
うん、やっぱり師匠は楽しげにしていてくれる方が僕は好きだな。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「師匠ぉ、これが本当にゲームなら、クソゲーですよ!」
僕と同じくらいの大きさの猪からの突進を何とか盾で反らしながら僕は叫ぶ。
小型の蛇を簡単に倒せるようになって僕は少しこの世界を甘く見ていたのかもしれない。
「そうかい?まぁ、倒れたとしても実際に死なない事は体験済みだろ。攻撃されても痛みは無いに等しいだから頑張れ」
少し離れた場所から師匠は涼しげにそう言いながら、弓を撃ってその攻撃を確実に当てて行く。
こんな事になるなら格闘で頑張るなんて言わなきゃ良かった。
師匠みたいに安全な場所から攻撃できる方法を選んでいれば良かった。
そんな事を考えた瞬間、再び突進して来た猪の攻撃を正面からまともに受けてしまい、僕の視界は真っ暗になった。
「あぁ、倒れちゃったかぁ…… 頑張ってここまで戻って来るんだよ。アタイは猪倒して待っているからさ」
真っ暗になったまま師匠の声だけが聞こえ、何度か見た事のある『魂の保管地に戻りますか?』という文字だけが浮かび上がった。
僕は『戻ります』と頭の中で思うと、しばらく前に出発したばかりの街の中心に戻って来ていた。
この状態って自分の体がなんだかボヤけた感じで透けてるし、なんだかフワフワと浮いてる感じがして落ち着かないんだよな……
『それよりも早く師匠の所に戻らなきゃ。いくら慣れていると言っていた師匠でも弓はまだ使いはじめたばかりで
嫌な考えが頭の中で大きくなる。
少しでも早く師匠の元に戻れるように落ち着かない体を動かした。
戻ってみると僕の考えとは全く違っていて、猪相手でも蛇の時と同じように……違う、その時以上に綺麗な身のこなしで猪を圧倒していた。
顎から伸びる牙を突き上げて攻撃を繰り出せば、それに合わせるように小さい身体を屈ませ、盾をさらに下から打ち上げるように叩きつけ猪を怯ませる。
かと思ったら瞬時に左腕の盾が弓に切り替わって、怯んでいる猪に弓を放ち、確実にその矢を当てて行く。
体制を立て直して猪は突進を仕掛けるが、その攻撃も師匠は少し身体をずらし、その頬に力強く盾を叩き付ける。
勢いの乗った突進は力の方向性を無理矢理変えさせられて、吹っ飛ぶように師匠から大きく取る事とる。
距離が離れたら後ろに移動しながらまたいつの間に持ち替えたのか、弓で攻撃を繰り返す。
格闘で殴っていた時は踊るような動きできれいだなんて思ったけど、この戦い方はまるで理解できない。
何度も身体に突き刺さっては消える矢の攻撃を受けた猪は不利と感じたのか、師匠に背を向け逃げ出した。
だけど僕に勢いよく突進を仕掛けて来た勢いはまるで無く、よろよろと力ない足取りでそのばから離れようと必死な感じだった。
そんな猪に迷わずにさらに攻撃を仕掛ける師匠。
結局、そんな僕の理解の範疇をこえた戦いは結構な時間がかかったけど、師匠の一方的な攻撃で終わった。
透明な体のままで僕はそんな師匠の戦いを最後まで見続けてしまった。
僕の倒れた身体は師匠が戦っていた場所より少し離れたところにあった。
その身体に透けた僕の手を置くとその中に吸い込まれるように溶け込む。
この自分の身体に戻る時の腕からぬるま湯を少しづつ全身にかけられるような感覚は何度やっても気持ちわるいな。
「師匠、戻りました」
倒れた猪にその身体を預けて座っていた師匠に声をかける。
「おかえり」
まるで戦闘など無かったような穏やかな口調で僕の帰りの声を返してくれる。
「猪との戦い、凄かったですね。意味が全然分かりませんでしたよ」
先程見ていた師匠の戦いの感想を言う。
「なんだ、霊体で見ていたのかい」
驚いた様子も無く言葉を返してくれる師匠。
「何なんですか、あの盾が急に出て来たり、突然弓になったり…… 意味が分かりませんでしたよ」
「あぁ、ツヨシ君には必要ないと思って説明してなかったっけ。視界の右下辺りに枠があるのでしょ」
この世界に来てから確かに何か絵が書かれている枠があるのはずっと気にはなっていた。
そのうちのひとつが攻撃を現しているのは蛇との戦いので、そうだろうとは思っていた。
「盾を使ったりする時にその持っている技を意識しないと使えないっては蛇と戦う時に軽く説明したと思うけど、その枠にね、自分が覚えている技だったり所持品を登録しておけるのよ」
僕が師匠の説明してくれいる枠の確認をしているであろう事を考えてくれてか、そこまで話して少し言葉を切る。
「んで、その枠に街を出る前に買った新たな盾の技書や所持品の登録をしておいて、状況によってそれらを意識すると……」
そうやって言って上げた左手には弓が瞬時に握られ、続いてその弓が消えて盾が装備された状態になっていた。
「こんな感じで瞬時に装備が切り替えられるの、理解できた?」
師匠が説明してくれて理解は出来たけど、なんだか納得はできない。
この感じがきっと師匠の言うゲームならではの部分の事なんだろう。
「武具の切り替えについては理解できましたけど、あの盾の使い方は? 僕とはなんだか使い方が違ったように見えたんですけど……」
武具の切り替えが意味の分からない大部分だったけど、あの盾の使い方も僕の知らないものだった。
僕がどんなに盾防御をしようとしても猪の攻撃は牙を突き上げての攻撃や、数歩の距離があれば仕掛けて来る突進で【盾防御】だけでは間に合わなくて何度も攻撃をくらった。
「冒険の準備する時に一緒に盾の技書購入したでしょ?」
「【盾攻撃】と【バッシュ】とでしたっけ?」
「そう、それ」
「そのふたつも使ってただけだよ。あぁ、もしかしてツヨシ君その技の存在忘れてた?」
そう言われてはじめてソレも盾の防御に使えるんだと知った。
「忘れたんじゃなくて、技を覚えれば【盾防御】した時に使ってくれるものだと思ってました」
「そう思っていたんだね、それじゃ説明しなかったアタイが悪いか……」
師匠はバツが悪そうに気落ちしたような声を出す。
「えっとね、説明が遅くなってしまったけど、技書で覚えたソレはそれぞれ別の技として使わなきゃならないんだ。だから色々な技を覚えたら、それだけ色々意識しなきゃならない事も増えるから多彩な技を使った戦闘ってのは見た目よりも結構忙しい事になるんだよ」
そうやって技だったり武具だったりを駆使しての戦いがさっき見た師匠の動きなのか。
今の僕じゃ到底真似できそうにも無いや。
「ランクアップ試練、軽く済ませようと思ってたけど、今の状態じゃ少し難しいかもしれないね。蛇は卒業だけど、しばらく鹿と猪で戦闘訓練して、慣れてからにしようか?」
僕が思っていた事を察してくれたのか、師匠がそんな事を言ってくれる。
「蛇肉と蛇皮を売っただけだと無理して技書ふたつも買ってお金もギリギリだったし、戦闘訓練しながら少しお金稼ぎしようね」
そう師匠はおどけた感じで僕に言ってくれたのが何だかこそばゆかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます