06 戦士は戦死しても戦史に残る
「それで? 扱う武器はどうするんだい?」
傭兵ギルドの隣にある武具を扱っているお店に向かいながら師匠は僕に聞いてきた。
師匠とはじめて会ったのはこちらの時間で一ヶ月くらい前。
何も分からないまま衛兵さんに剣を向けられて倒れた時の事だった。
その倒れた僕に声をかけてくれたのが師匠であるグレイビー・フールって名前の人だった。
背丈は僕の胸の辺り程度しか無く、見た目は子供って感じだけど、どうやら僕よりもだいぶお姉さんらしい。
立って話す時はいつも見上げる感じで話してくれるけど、その姿も声もとっても可愛く感じてしまう。
「う~ん……また新しい武器とか使うとしたらあの蛇からでしょ? なら僕はこのまま殴る事を頑張ろうかなぁ。そうすればお金も使わなくて済むだろうし……」
声をかけてくれた時は師匠も使っていた武器を壊してしまったばかりだったらしく、僕と一緒に蛇を殴って倒していた。
でも僕の戦い方と違って蛇が突然飛びかかってその長い体を活かして締め上げようとしても、その動きをまるで分かっているように少し後ろに下がっただけで踊るように避けるのはその見た目の可愛さもあって凄く綺麗に思えた。
そんな可愛くて綺麗な子みたいに強くなりたくて僕は師匠って呼ぶ事にしたんだ。
そうやって呼ぶようになってはじめのうちは『グレイビーで良いよ』なんて言って顔を背けられる事もあったけど、今ではそれが当たり前になった感じみたい。
「男の子なら大きな両手剣や格好いい片手剣に憧れるモンじゃないのかい?」
少し明るい声で僕にそう聞いてくる。
師匠が言うにはここはゲームの世界で、僕たちはその中に閉じ込められているらしい。
だからかこの世界は角ばっているような、そんな変な感じを受ける場所だった。
木とかそういう物まで角ばっているのは初めて見た時は本当に驚いた。
「マスクレンジャーは剣とか使わないよ?」
テレビで見たヒーローを思い出しながら師匠に言う。
僕がここの世界に来る前、そこではテレビと呼ばれていた物で見たヒーローのポーズを取りながら師匠に言い返す。
師匠は本当の自分の名前とか住んでいた場所とか全然思い出せないらしい。
夜の暇になる時間の話で、そんな事を言っていた。
「そうなるとアタイと近接同士で被るねぇ。仕方がない、効率良くないけど弓使いにでもなるかね」
そんな事をブツブツと言いながら師匠は武器とかを売っているお店に入って行く。
僕もその後をついて行くけど、このお店に入るはじめてだな。
「ものづくりは生活を支える至高、今日は何をお求めだい?」
お店の中に入ると奥で腕組みをしたオジサンがそう大きな声で言ってきた。
壁には色々な武器が壁に飾られていた。
向こうの世界ではこういうお店は見た事が無いし、師匠が言うようにこれならゲームの中って言われても信じてしまう。
でも壁に飾られているものはどれも緑がかった物だったり赤っぽいものだったり、僕がテレビの中で見た銀色の物とは違っていたし、なんだかどれも薄汚れた感じの物ばかりだ。
「師匠、なんだかスグ壊れそうなのばかりですね。これなら僕はやっぱり武器いらないです」
「でも武具は今のところお店で買うしか入手方法が無いんだよね……」
少し残念そうな感じで師匠は言う。
街のは角張った感じが強いのに、人だったり動物はデフォルメとリアルの間を取ったみたいな感じで、そんなのもあって師匠はお人形さんみたいだ。
少し荒っぽい口調もなんだか背伸びしている女の子って感じで僕は結構好きかもしれない。
「これと、あとこれも。それと一番安い矢を買えるだけお願い」
てきぱきと買い物をしている師匠はちっちゃい動物が一生懸命に餌を集めているみたいで本当に可愛いなぁ。
あれ? なんで防具をふたつも買ってるんだろう?
「はいこれ、ツヨシ君の分ね。格闘で頑張るって事だったから」
そう言って僕に革製のジャケットと腕に固定するような小型の盾らしき物を押し付けてくる。
「師匠ぉ、これは?」
なんか使い古された感じがしるジャケットだけど、どうやら防具って扱いみたい。
そんな僕の考えなんて無視するみたいに革のジャケットを押し付けられて僕は戸惑ってしまった。
「稼ぐ為にはしっかりした装備は必要なんだから」
ぶっきらぼうにそう言うってるけど、師匠は自分のも買ってたし他にも粗末な作りに感じる弓とか、大量の矢も買ってたみたいだけど、そんなお金どうしたんだろう?、師匠だってお金があまり無いのは僕も分かってる。
「ほら、次行くよ」
そんな僕の心配をまるで気にしてないみたいにさっさとお店を出ようとする。
僕は慌てて師匠に着いて行く。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「はい、ソコ!」
買ったばかりの弓を肩に通し、師匠が僕に合図を送ってくれる。
その声に合わせて飛びかかってきた小型の蛇を先程買ってもらったばかりの小型の盾ではたき落とす。
一通りの買い物を済ませ、僕たちはここしばらく通って見慣れてしまった蛇の群生地で狩りをしていた。
攻撃の合間に師匠の合図に合わせて飛びかかって来た蛇を盾ではたき落とす練習をしているんだけど、慣れないせいもあってなかなか難しい。
「はい、下がって!」
そんな四苦八苦している僕の事を分かっているのか、師匠は少し早いタイミングで合図を出してくれている。
再び飛びかかって来た蛇は僕が後ろに移動した事で、攻撃は空振りに終わる。
だが獲物を前にまだ諦めていないみたいでその鎌首を持ち上げ、次の攻撃の為に様子を伺う。
だけどその持ち上げた頭は僕にとっては殴るのに丁度いい高さだ。
そのあまり大きくない頭に向けて力一杯拳を叩き付ける。
「どう? 動きには慣れた?」
蛇を倒し終わった僕に師匠はイタズラっぽい口調で聞いてきた。
「全然ですよ。踏み付けたくてもそういうのは身体が動かないで出来ないし、何だがイライラします」
移動とかバランスを取るためだったら身体は自由に動くのに、攻撃の為に動こうとするとまるでいうことを利いてくれない。
それこそがこの世界がゲームとして作られているからの制限なんだって言ってたけど、自分の身体くらい自由にさせてもらいたい。
「どの敵も攻撃する時は決まった動きをするから、それさえ覚えて、適切な行動ができれば完封できるよ」
涼しげにそうやって師匠は言うけど、はじめて相手する敵とかだったりはどうするんだろう?
師匠も僕もこの世界に来たのはつ最近だから、
「それじゃ今度はアタイが戦うから、見て覚えるんだよ」
そう言って次の獲物を探しはじめる師匠。
しばらくすると蛇に追いかけられる感じで師匠が戻ってきた。
「さぁ、見ててね」
僕の近くまで駆け寄るとそう言って追いかけて来た蛇と向き合う。
あ、師匠は逃げて来たんじゃなくて近くで見せる為にわざとここまで連れて来たのか。
追って来た蛇が頭を持ち上げ攻撃姿勢をとる。
師匠は弓を持たないままで僕と同じ格闘で倒すみたいだ。
まるで踊ってるような動きで蛇の攻撃をかわし、確実にその拳を頭に叩き込んでいく師匠。
その動きは僕とは全然違ってキレイと感じるくらいに凄い。
「ほい、終わり」
僕が倒したよりも早い時間で簡単に倒してしまった師匠。
蛇からの攻撃は当たり前のように一度も受けなかった。
僕なんか師匠からの合図があっても何回かは飛びかかられてしまったのに。
これが経験による違いなのかなぁ。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「今日も一杯狩ったね」
すっかり日は落ち、真っ白な月が夜空に浮かぶ中、カラカラと笑っている様な感じで師匠は言う。
この世界では表情の動きはあまり無くて、多少の動きはあってもその声と表情とで違う感じをうける事が結構多い。
これも師匠はゲームだから決まった表情しか出来ないんだよって言ってたけど、どうなんだろう?
「いつまで蛇を狩り続けるんですか?」
僕は少しげんなりしながら師匠に聞く。
「傭兵ギルドが"駆け出し"と認めてくれるまでかな」
街から厄介者として見られていたのを卒業した後、僕と師匠は一緒に傭兵ギルドに登録した。
ギルドってのは関連する活動を助けてくれる集まりで、
実力がどれだけあっても登録して一定の成果を持ち込まないとギルドのランクは上がらないんだって師匠は言っていた。
今の僕と師匠のギルドのランクは"見習い"。
「なんで蛇のお肉なんです? あれ
見習いが受けられる
「確かに報酬は出ないんだけど"駆け出し"ランクに上がる為には一番の近道なんだよ。他の
自分の持ち物を確認すると蛇の肉が五十七個とその皮が四十二個、一杯狩ったなぁ。
「でもなんでランクを上げるんです? 他の街に行くならランクなんて上げなくても良いとうに思うんですが……」
何か意味があるからランクを上げるんだろうけど、僕はその意味を教えてもらっていない事に気付き更に聞いてみた。
「ツヨシ君も武具屋を見たでしょ。街で買える武器や防具ってあまり良いのが無いんだよ。だからギルドの
ランクを上げる意味を教えてくれる師匠。
特別な武具ってなんだろう?
でも自分だけのって感じがして良いな。
そんな話をしながら歩いていると傭兵ギルドの建物が見えてきた。
「筋肉と地道な努力は決して裏切らない、日々の鍛錬に賛美せよ」
建物に入ると奥で腕組したまま仁王立ちしている傭兵ギルド長が割れんばかりの大きな声で僕たちに言う。
ここに来る度に同じ事を言うここのギルド長はちょっと暑苦しく感じる。
この同じ事しか言わないのもゲームであるからなんだとか。
「これからまた納品作業だと思うとちょっとアレですね……」
僕の脇で一緒に歩いていた師匠にそう漏らしてしまう。
そんな僕の言葉に師匠は笑顔を向けてくれるが、あれは多分苦笑しているんだろうな。
「
蛇のお肉を収める為、ギルド長に声をかける。
その僕の隣で師匠も同じような事をギルド長に言っていた。
「お前に頼めるのはこれだな」
そう言って四枚の依頼書が目の前のに現れる。
その中から〈蛇肉の納品:三個〉と書かれたものを取ると他の三枚の依頼書が消える。
そして荷物の中から蛇のお肉を三個を取り出し、今受け取ったばかりの依頼書と一緒に差し出す。
「戦士は戦死しても戦史に残る、倒れる事を恐れるな」
そうギルド長が言うと置いた蛇のお肉と依頼書が目の前から消える、これで
何とも間抜けなやり取りだが、これを繰り返す感じだ。
僕がこの街の厄介者扱いされていた時はこの一連のやり取りは蛇のお肉の納品だけで、ほかの
でもやっている事自体は何も変わっていない。
「
僕の隣で同じ様に蛇のお肉の納品をしながら師匠はそう言ってくれた。
「
そして僕は再びギルド長に対して
なんだかゴールの見えないマラソンをしているようで気持ちが落ち込むけど、特別な武具をもらう為だよね、。
うん……がんばろう……
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