あざとかわいいヤツは焼き鳥の刑

御剣ひかる

姉ちゃんご乱心だっ!

 うちのインコ、ピー助はいわゆる「あざとかわいい」ヤツだ。家族はみんな、両親も弟もヤツのそんな正体に気づいていない。

 例えばヤツが水浴び用の水を跳ね散らかしてもにこにこ笑ってみている。無邪気でほほえましいしぐさだと思ってる。

 けどあれって絶対わざとだ。

 だって水をあちこちに蹴り飛ばして、こっち見るんだよ、ちらっと。

 んで、首傾げるのよ。「どう? かわいいでしょ?」って言ってるみたいに。

 前なんかそれで危うく映画のチケット駄目にしそうになってピー助を怒ったら、そんなところにチケット置いてるのが悪いんでしょってわたしがお母さんに怒られた。

 そりゃそうだけどさー。

 ピーちゃんに罪はない。チケットの大切さなんて判らないんだから自分できちんと管理しなさい、って、そういうことじゃないんだよ。

 こっちが、ピー助がこうやったら困るなってことを確実に仕掛けてくるんだよ。

 夕方のお散歩タイムで(もちろん家の中だけ、だけど)かごから出している時、リビングで勉強しているわたしのそばによってきて。ぶつぶつつぶやく。時には大声で邪魔してくる。

 なにが「ルセー」だ。うるせーのはおまえだっつーの。弟の口癖をまねてるから余計に腹立たしく聞こえる。

 あらぁ、お姉ちゃんにかまってほしいのねーピーちゃん♪ じゃないよ、母っ。せめてこっちに来ないようにしといてよ。

 けどこれ言ったら「勉強は自分の部屋でしなさい」って言われるのが目に見えているから言わない。

 自室で勉強って、なんでか、はかどらないんだよね。それならまだピー助がそばをちょこちょこしているぐらいの方がマシだ。

 って、別に、可愛いからとかじゃないんだけどさ。

 ……可愛くないわけでも、ないけど。


 金曜日の夕方、明日のデートに着ていく服のチェックをした。

「ねー、これでおかしくない?」

 お母さんにワンピースを見てもらう。

「あらぁ、よく似合ってるじゃない。そんなのいつ買ったの?」

「プレゼント。明日着て行こうと思ってさー」

「あらあらぁ、彼氏くんやるわねぇ」

 ふふふー。彼を誉められるとにやける。

 最高潮に気分がいい。

 けど、なんか、嫌な予感が忍び寄ってくる。

 ふと見ると、机の上を「お散歩中」だったピー助が、わたしの肩に乗ってきた。

 ヤツは体をふるふるっと振ると、あろうことかっ、粗相しやがった!!

 で、いつもの、首かしげ。

「……ぃっ、うおあぁぁぁあ!」

 腹の底からの雄たけびがわたしの口から飛び出した。

「すぐに服脱いで、きちんと洗ったら――」

 お母さんがまこと正論をぶちかましてきた。

 そうした方がいいのは判っている。そうしなきゃって思う。

 けど、けどっ!

「ふぅざけるなぁこのクソ鳥があぁ! 焼き鳥にしてくれるわあぁぁっ!」

 ピー助はとっくに飛んで逃げている。察しのいいヤツめっ! だが逃がさんっ!

 わたしは食器棚を開けて竹串をひっつかむとピー助に振りかざした。

 当然ヤツや逃げる。

「逃げるなや! 焼き鳥になれ!」

「お、落ち着いて!」

「ピー助は食えないよっ」

 弟にまでもっともな指摘をされて余計にイラついた。

「るせー!」

「ルセー、ルセー!」

 真似しやがった! きぃぃぃっ!

「姉ちゃんご乱心だっ!」

 逃げるピー助を追うわたしを取り押さえるお母さんと弟というすごい絵面のところに帰ってきたお父さんは半笑いで硬直した。


「ほら、焼き鳥だよ。これでなんとか機嫌なおして」

「服の汚れは取っておいたからね」

 お父さんの偶然の土産と、お母さんの神の手の洗濯によって、どうにかクールダウンできた。

「ピー助、ねーちゃんに『ごめんね』って言っとけ」

「ゴメンネ、ゴメンネ」

 弟がピー助の謝罪を促して、ピー助が多分偶然だけど口真似をしたから、思わずふっと笑った。

 まったく、かわいいで全部許されると思うなよ?

「次やったら確実に焼き鳥にしてやるからね」

 言いながら、ピー助と名づけた焼き鳥を貪り食ってやった。



(了)

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