△▼△▼上辺だけの男△▼△▼

異端者

『上辺だけの男』本文

「おやおや、串から外してしまうんですか」

 夕食に出された焼き鳥を先に串から外す私を見て、妻はそう言った。

「うん、この方が食べやすくていい」

 私は箸でしごくようにして串から焼き鳥を外すと、皿に置いた。

 どう食べようと私の勝手だ。食べやすいならばその方がいいに決まっている。

 しかし、父が居たならばそうしなかっただろうな――ふと、そう思った。


 私の父は下らないことにこだわる男だった。

 食事時の会話も禁止。食べ方も父が言う「作法」に従わねばならなかった。

 今思い出すと、実に上辺だけの下らない男だった。そのくせ、自分は風雅の道に通じていると思い込んで、社長を務めるかたわら骨董品収集に没頭した。

 そんな父が癌で死に、会社が傾いた時にはそれらを売りに出そうとしたが――そのほとんどが二束三文の偽物だった。

 結局のところ、父は大してその価値も分かっていない上辺だけの風流人だったのだ。


 その後、会社を継いだ私は父のようにはなるまいと心に誓い、こつこつと地道に働いて会社を立て直した。

 そうして、気が付いたら以前よりもずっと大きな会社になっていたが、気取ったことは一切しなかった。

 私はざるそばのつゆはしっかり付けるし、寿司だって箸でネタだけはがして醤油に付けてから食べる。その方が美味いのだから、何も気取る必要は無いのだ。大事なのは上辺ではなく中身――その本質なのだから。

「お茶を入れましょうか?」

 食べ終えた私を見て、の妻はそう言った。

「ああ、頼む」

 私はそう答えた。

 上っ面だけで擦り寄ってくる人間の女よりも、アンドロイドの女の方がずっと誠実で良い。

 周囲は反対したが、この結婚に踏み切って良かったと思う。

 私はお茶を飲むと、少し眠くなってきた。

 あれ? 視界が歪む……このところ、少し働き過ぎたか?


 意識を失う直前、男の声が聞こえた。

「全く、こんな旧式のアンドロイドにこだわるから簡単にハッキングされるんだ。まあ、こちらとしては楽で良かったがね」

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