焼き鳥をだべる

エリー.ファー

焼き鳥をだべる

 なぁ、運命って信じるか。

 なんだよ、信じないのかよ。

 面白くねぇな。

 まぁ、焼き鳥を食えって、俺のおごりだからさ。

 なぁ。

 運命って信じるか。

 おいおい、聞けって。

 運命について話をしようぜ。

 大抵の人は皆避けて通るところだろ。

 そりゃ、必死に考えちまう人もいるだろうけどさ。

 普通は、遊びの範疇だ。

 でも、俺が話しているのは、その遊びの外についてだ。

 マジの運命は存在してるのかって話だ。

 昔のことだけどさ。

 俺、この焼き鳥になる夢を見たんだ。

 マジだぜ。本当のやつだぜ。

 で、思ったんだ。

 どうしたら、この焼き鳥っていう状態から抜け出すことができるんだろうって、悩みに悩んだんだ。でも、結局答えは出ない。

 気が付いたら、目が覚めてた。

 夢は終わったんだ。

 その時に思ったんだよ。

 俺は、いつから人間で、いつから焼き鳥だったんだろうって。

 そう。

 ただの夢だと思えなかったんだ。

 別の世界線で、俺は焼き鳥に生まれていたような気分になったんだ。

 不思議だろう。

 不思議だよな。

 変な話じゃなくて、不思議な話ってことにしてもう少し考えようぜ。

 何をって。

 考えることは一つだろ。

 運命はあるのかってことだよ。

 俺たちは、なんで、焼き鳥じゃないんだろうな。

 食べられる側じゃなくて、食べる側なんだろうな。

 どこかで、誰かが、何かを使って、運命を決めたのかもしれねぇと思うだろ。

 俺たちは、この焼き鳥を食べ物として見てる。 

 でも、焼き鳥からすれば、それは残酷なことだろう。な、そうだろう。

 その境目ってどこなんだろうな。

 きっと、運命だろう。

 そのはずなんだよ。

 ぼんじりも、皮も、ねぎまも。

 全部そうだろう。

 焼き鳥の中にも運命があって、選ばれる。

 俺たちはそれを外から眺めて、そこにはいないということを意識して安心する。

 本当に、ただそれだけの時間。

 無意味だよな。

 マジで、無意味だ。

 でも、それがいいんだ。

 焼き鳥と運命と自分の生き方。

 これをないまぜにして考えることができるのは、ここにいる俺たちの特権なんだ。

 焼き鳥じゃあ分からない。人間ってだけでも分からない。

 この話を焼き鳥を食べながらやっている人間にしかできない離れ業ってことだ。

 思考の先にあるのは、きっと無駄の集積場。

 でも、そこからダイヤモンドを見つけるのも、俺たちの特権。

 すべて正しくて、すべてに思い出がある。

 状況は一切変わらないままで、俺たちはこれからも焼き鳥を食べ続ける。

 一生をかけて考えるようなことではないと分かっているはずなのに、やめられない。

 焼き鳥と思考と哲学って似てるよな。

 なんとなく、口に入れて、なんとなく味わう。

 これ以外の用途なんか存在しないだろう。

 そうは、思うよな。

 思ってくれるよな、そうだよな。

 あぁ、良かった。

 俺だけかと思って泣きそうになったぜ。

 じゃあ、俺、もうすぐこの店を出るから。

 いや、他の店に行くとかじゃないんだ。

 もう、この店で焼き鳥を食べることはないんだ。



「懐かしいですね」

「何の話かな」

「また、焼き鳥を食べに行きましょうよ」

「あぁ、分かってる」

「えへへ」

「今、逝くよ」

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