焼き鳥を忘れるな

イノリ

焼き校舎や焼き裏できゃまってきます

「な、なんだこれ……?」


 給食を終え、各々が自由に過ごす昼休み。

 中二病真っ盛りのクラスメイト達の喧騒が騒がしい。

 そんな中、僕が少し席を離れている間に、知らない紙切れが二枚机の上に置かれていた。名前も書いていないし、誰がこんなものを置いたのかわからない。

 その二枚の紙切れには、それぞれ別のことが書いてある。

 一枚目は、意味不明な文字列。


『焼き校舎や焼き裏できゃまってきます』


 なんだこれ、以外の言葉が見つからない。

 焼き校舎? 何? この学校これから焼けるの? そんな縁起でもない。

 というか焼き裏ってなんだ。肉か? 焼き肉の話か? しっかり裏返して焼くようにみたいな意味か!?

 最後の、きゃまってきます、これに関してはもはやなんだ。日本語なのか? きゃまって……構って? 構ってきます? いやどんな書き間違えだ。というか仮にそれが正解だとして、それを伝えられて何になるっていうんだ。

 焼き校舎や焼き裏で構ってきます(誤字アリ)……うん、意味不明だ。そんなことを僕に言われても。

 これに比べれば、二枚目の方が断然理解しやすい。


『焼き鳥を忘れるな』


 何を隠そう、今日の給食のメニューの一つに焼き鳥があった。

 割と甘めのタレがかかった柔らかい鳥で、それはもううまかった。

 ほら、そこでたむろする男子も、「さっきの焼き鳥うまかったよなー」「でも給食に焼き鳥なんて珍しいよな」「だなー」とか言ってる。

 まあ確かに、しばらくは忘れられなそうな味だった。……で?


 だからって、焼き鳥を忘れるな、なんて僕に言う理由は? 誰がそんなことを? 何の得になるって言うんだ、それで。

 あ、さては給食のオバチャンか? 自信作の焼き鳥だったから、ちゃんと記憶に残してほしかったとか。

 いやいや。なら一枚目の紙はなんだ。こんな意味不明なメッセージと共に置かれたら、むしろそっちの方が記憶に残ってしまう。

 第一、なぜ給食のオバチャンが僕だけに。意味不明だ。


 まさか、一枚目と二枚目の紙が別件というわけはないだろう。

 僕が席を離れていたのはほんの数分。たったそれだけの間に、何のかかわりもない二人が全く違うメッセージを伴って、差出人不明の紙を置いていくなんて意味不明なことをする可能性は限りなく低い。ないと断言してもいいほどに。

 なら一体、これは――。


「ん……?」


 焼き鳥を忘れるな、の紙の方に何か書いてある。

 文字じゃない。絵だ。これは……たぬき?


 あっ、そういうことか!

 この紙はつまり――僕への呼び出し、ってことか。

 僕はその結論に納得して、再び席を立ち、指示された場所へと向かった。ちょっとだけ、ドキドキしながら。

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焼き鳥を忘れるな イノリ @aisu1415

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