A016『海への道』(28分で1054字)

A016『海への道』(28分で1054字)

【大衆小説】海・時間・残念な罠


 海へ行くぜ!


 テノルの一声に賛同して集まった連中がそれぞれの得意分野を出し合った。


 ソプラノはお金持ちのお嬢様なので、源となる人脈に声をかけると、暇で物好きな奴と恩を売りたい奴がこぞって協力してくれる。皆を乗せた交通手段の原子力潜水艦は暇な金持ちから借りた機体で、魚雷や銃器は恩を売りたい奴の贈り物だ。


 アルトは見習いとはいえ尼の一族の出身だ。原子力潜水艦からでも素潜りで食糧の確保を担当する。普段なら食べられないような貴重な動植物も、今なら食べ放題になる。


 バスはエリート街道を突き進んでいて、今は手にしたばかりの狩猟免許の使い所を求めていた。海で使える銃と罠を用意して、侵入者に備える。大抵は魚雷で片付くとの反論には、念には念を入れろと返す。戦場に十分は存在しない。些細な抜けがひとつでもあれば死に繋がる。


 そして主人公のテノルは、寝坊していた。最寄りの河川まで時間にして二十分、潜水艦で拾いに行ってもその場に誰もいないので、おかしいと思ってバスが家まで迎えに行った。


 今にも抜けそうな階段を登り、窓から手を入れてサムターンを回す。テノルは布団の中で、お腹を出して眠っていた。


「起きろ! 訓練開始だ!」


 足を揺らして起こす。目覚めたテノルは、大慌てで出発の支度を済ませた。着替えて、荷物を持ち、ゼリー飲料をおなかに詰める。


「テノル隊員、ただいま準備ととのいました!」

「よろしい。出発だ!」


 いかにもノリのよい大学生らしい雰囲気と共に、テノルは玄関へ向かう。


「だが気をつけろ。お前のために罠を仕掛けておいた」


 背後からの声は間に合わず、扉を開けると同時にタライが落下し、テノルの頭を鳴らした。さらに落ちたタライが次のスイッチを踏んで、ビー玉が共用部の廊下に放たれる。排水溝へ向かわせる傾斜により一箇所へ向けて転がっていく。すぐ歩くには不安定でも、待っていたら次の罠が作動する。雨樋に一定以上の重さがかかると天秤が傾き、一階から固定機銃が登ってくる。もちろん実弾を発射したら、犯罪の匂いを察知した人間が凶暴化し襲ってくるので、電動でピンポン球を飛ばす白いロボットのおもちゃだ。設置したバスの腕は確かであり、的確な狙いでテノルの右目へ飛来する。ぎりぎりで弾くのも織り込み済みで、落ちたピンポン球が次の罠を作動させる。階段の留め具の位置へ飛び込み、風速計と同じ仕組みでボルトを回す。このままでは階段が外れて、自力で降りることになる。


 海への道のりは遠い。


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