焼き鳥が食べたいのに食べ辛い件について

トロ

第1話

「はい、どうぞ」


「これ食べるの?」


「焼き鳥なんだから当然でしょ? さっきから野菜ばっか食べてるじゃない」


 暇だったので友達を誘うと、一緒に居酒屋で飲む事になって現在店にいる。


 私は勧められたを手に取る。


 すると──


『無念なり……』


 ──と串に刺さった肉の塊からそうきた。


 私の顔は引き攣っているだろう……。



 丁度一年ぐらい前から──


 私にはが聞こえてくるようになった。


 残留思念? いや、というのだろうか? それが私に聞こえてくる。


 生きている動物や虫の声、植物の声、更には死んだ者の声とかも聞こえてくる。


 知らない情報が知れるし、とても便利な一面もある。


 でも、迂闊に耳を傾ける事が出来ない。


 世の中には知ってはいけない事もあるから……。


 これは俗に言う『サイコメトリー』みたいな能力なのかもしれない。


 こんな事を他の人には言えない。


 変人扱いされてしまうから。


 出来ればもっと、がほしかった……。



 力のせいで私はこの1年間、しか食べれていない。


 なぜなら──


 このみたいに肉の塊から魂の声が聞こえてくるからだ。


『やめて、やめてよ! 僕は何も悪い事してないよ!』


 と話す焼き鳥を今から食べないといけないのかと思うと憂鬱だ。


「美味しいよ? 早く食べなよ!」


「う、うん……」


 友人からの催促で私は口まで焼き鳥を運ぶけど、また声が聞こえてくる──


『僕は今から食物連鎖の頂点である人に食べられます。これが家畜の運命……次は野生の鶏に産まれたいなぁ……』


 ……食えねぇよ……。


 というか、声が普通に聞こえるせいで擬人化した鳥を食おうとしているみたいで罪悪感が半端ない。


 野菜はいつも『食べてくれてありがとう』『僕は君の栄養になるんだ』とか言ってくれるから食べやすいのに……。


 肉や魚は苦手だわ……。


 この間食べようとした鮭なんて──


『わしは海の覇者になるんじゃ! わしはお主如きに屈しはせぬわッ!』


 とか言ってたし……。鮭如きが覇者になれるわけねーだろ! と思いながらそっと箸を置いた記憶がある。



「ちょっと、顔色が良くないわよ? 大丈夫? 焼き鳥嫌いだった?」


 焼き鳥自体は大好きなの!


 本当は食べたいの!


 そんな事を考えているとまた声が聞こえてくる。


『ふっ、このチキンがッ! 僕を残すとは何事だよッ!』


 いや、お前の方がチキンだよ! しかももう焼かれて死んでるよ!


 と叫びたくなった。


 もう死刑執行しよう。


 久しぶりに焼き鳥が食べたい──



 私は何やら言いまくっている焼き鳥を無視して口の中に放り込む──


『うぎぁぁぁッ、痛いぃぃぃ、誰か……助けてぇぇぇぇッ!!!! ぐぁぁぁ……──』


 噛み砕くと断末魔を上げ、飲み込むと同時に声は聞こえなくなった。


「大丈夫? なんか泣きそうな顔してるよ?」


「大丈夫……ただちょっと命の尊さについて考えてたの……」


 人を食ったような罪悪感が私を襲う。


 だけど美味しかった……。


 これからもずっとこんな感じなのかなぁ……。


『仲間を食いやがった……呪ってやる……必ず──一族郎党呪ってやる……』


 皿に並べられた他の焼き鳥達の怨嗟の声が聞こえてくる。



 よし、殲滅しよう。声が聞こえるから躊躇うんだ!



 私は一気に焼き鳥を頬張り、食べる──



 そして、完食すると同時に怨嗟の声は聞こえなくなった。


「焼き鳥うっまッ!」


「涙目流すぐらい美味しかったの?!」


「美味しかった! もっと食べて私の血と肉にしてやるわ!」


 うん、好き嫌いは良くないよね!


 これからは声が聞こえても一気に食べよう!


 踊り食いしてると思えばいいよね?!






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焼き鳥が食べたいのに食べ辛い件について トロ @tonarinotororo

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