異世界流刑少女刑に処す。 雉さんは呪われた王女だった件

土田一八

第1話 ヤキトリと雉さん

 ジュリアはアルグラルドの呪いを無事解呪し、その功でアルグラルド皇帝フレリーナからアルグラルド侯爵に叙された。そしてファルブスという土地を下賜され、ファルブス候ジュリア イリアスと名乗り、妖精族の家臣も加わった。将来の異世界の旅に備えるという名目で相変わらずジュリアはフレリーナにいいように使われていた。侯爵叙爵と領地下賜は荒廃したアルグラルド帝国の復興の一助を担わされていたのだった。

 そんなある日、蒼き妖精のナーニャは森に出かけて枝拾いをしていた。

「~♪」

 鼻歌を歌いながらナーニャは枝拾いをする。

「ちょっと、そこのあなた」

「?」

 ナーニャは人の気配がしないのに女性の声で呼び止められた。

「おかしいな?確かに女の人の声がしたのになぁ?」

 ナーニャは辺りを見渡すが人の姿は無い。

「ちょっと!あなたってばっ‼」

 同じ人の声がするが姿は見えない。

「変なのぉ?」

「変なのじゃない‼」

「へっ?」

 ナーニャは足元を見ると一羽の雄雉がこっちを向いている。

「やっと、気が付いた」

 雄雉は何か文句を言っている。

「えっ?」

 だが、あわてんぼうのナーニャは雄雉の思っていた反応とは真逆の反応をした。

「ぎゃあああ⁉雉がしゃべったぁぁ⁉」

 人語を話す雉に驚いたナーニャは持っていた小枝を放り投げてその場を走り去ってしまった。

「はぁ」

 雄雉はそんな姿を見て溜息をついた。



 ジュリアの家。といっても城館が完成するまでの仮住まいであった。ジュリアは庭先で鉈を使って薪割りをしていた。これも鍛錬である。幼い頃、祖父がやっていたのを思い出してやっているわけだが結構重労働だ。西部劇だと大男が斧を使うイメージがあるがそこまで力がある訳ではないので、なるべく細い木を選べば鉈で十分なのだ。尤も力仕事は紅の妖精であるファナに任せている。そこにナーニャが慌てて戻って来た。

「ジュリア様~!」

「どうしたの?」

「で、出ましたぁっ!」

「何が?」

「雉が」

「雉?」

「人語を喋る雉なんてきっと魔物ですぅ~!」

「はぁ?ちょっと落ち着いて」

「絶対お化けですぅ!」

 ナーニャはすっかりパニックになっている。

「何の騒ぎです~?」

 家から騒ぎを聞きつけて出て来た純白の妖精ネロナが私に聞く。

「ナーニャが喋る雉と出合ったらしい」

「喋る雉ですかぁ?」

「そうなのっ!ネロナちゃんっ‼」

 ナーニャは真剣な表情で訴える。

「喋る雉なんて聞いた事がないから、本当は雉じゃないのかも」

「やっぱり魔物?」

「襲われたの?」

 ネロナはニーニャに質問する。

「ううん。話しかけられた」

「逃げる要素が無いんじゃないの?」

「魔物かお化けだと思ったので……」

「何かあったの?」

 今度は白銀のスロナが出て来た。

「あ、スロナ。人語を喋る雉にナーニャが話しかけられたんだって」

 ネロナはスロナに話を振る。

「喋る雉?」

「それってどう思う?」

 私はスロナの見解を聞いてみる。

「人間が雉に姿を変えられたんじゃないかなぁ?」

 スロナは冷静に結論を導く。

「それは十分考えられるね」

 私はスロナの考えに同意する。

「ナーニャはどの辺りで会ったの?」

 ネロナはナーニャに質問する。

「森だよ」

「ちょっと行ってみるか」

 私は念の為に様子を見て来る事にした。ここの領主でもあるし。ナーニャは気味悪がって嫌そうな顔をする。

「ナーニャはネロナと家にいて。スロナは私について来て」

「「「分かりました」」」

 3人の妖精達に指示を与えて私はスロナを伴って森に向かった。


「さて、うまく会えるといいけれど」

「ずっと森にいるとは限りませんし」

「そうなのよね。ファナに見つかってヤキトリにされていなければいいけれど」

「雉って食べられるのですか?」

「一度だけ食べた事があるけど、柔らかくておいしいよ」

「そ、そうですか…」

 スロナは一瞬、想像したようだが想定外らしくイメージは出来なかったようだった。妖精だって普通にお肉食べてるけどね。と思いながら私はジト目でスロナを見る。


 森の近くまで来た。が、雉の姿は見当たらない。畑や草地にいるイメージだったけれど。

「森の中にいるのかな?」

 そう思って森の中に入ると女性の悲鳴が聞こえた。


「助けてー‼」

 雉は必死に逃げ回る。

「得物、待てー‼」

 赤髪の少女は雉を追いかけて次々と矢を放つが雉に全て回避される。


「今の声は?」

「ファナですね」

「あっちね。行こう」

 私とスロナは声がした方に急ぎ足で向かう。


 ドスドス!

「ひっ⁉」

 雉の目の前の木の幹に矢が2本刺さる。

「ヌオオオ!ヤキトリ‼」

 ファナは矢をつがえる。

「あっ⁉やっぱり‼」

「ファナ‼待って‼」

 スロナは待つように叫ぶがファナの耳には入らなかったようだ。ファナは雉に向かって矢を放った。

「もはやこれまで…」

 雉は覚悟を決める。

「しょうがない」

 私は小刀を鞘から飛ばす。小刀は矢を射墜とした。

「チッ!何者⁉」

 邪魔されたファナはこちらに殺気立った視線を向ける。

「何者じゃないでしょう?」

 スロナは憤る。

「あっ!ジュリア様⁉」

 私の姿を見て我に返ったファナは膝をつく。私は小刀を回収する。

「ごめんねファナ。私はこの雉さんに用があるの」

「はぁ?」

 ファナは呆気にとられる。

「あなたが喋る雉ね?」

「あなたは?」

 雉は瞳を潤ませて私を見上げた。


「私はここの領主。ファルブス候ジュリア イリアス。アルグラルドの侯爵よ」

「よかった!私は貴女に会いに来たの」

 雉は羽をばたつかせて喜んだ。

「私はっ、イールランドの王女、イラトリアと申します」

 雉さんことイラトリア王女殿下はうやうやしく挨拶をした。

「銀髪の子は白銀のスロナ。赤髪の子は紅蓮のファナ。妖精さんだよ」

「スロナと申します」

「ファナだ。よろしく…」

 ファナはさすがにバツが悪い。

「ファナの事は許してあげて欲しいな」

 私はイラトリアにお願いをする。

「この姿ですし、それは矢無沙汰では無いのですが…」

 イラトリアは態度を保留にする。まあ、簡単には許さないよねと思う。

「所で、私に会いに来たとか?」

 私はイラトリアの本題に触れる。

「ええ。私にかけられた呪いを解いて欲しいのです」

 イラトリアは自分の願いを私に言った。ド・ストレートな展開だなぁ。

「解呪は呪をかける経緯を知る必要があるの。取り敢えず私の家に行きましょう」

「はい」

 ここは一旦家に戻る。

「あ、そうそう、イラトリアを見て逃げ出した子も妖精さんなんだけど、悪い子じゃないから許してあげてね?」

「ええ。驚かせてごめんなさい」

「ちぇ。俺の事は許さないのかよ…」

 ファナは文句を言う。

「しょうがないんじゃない?命取られる寸前だったし」

 スロナはファナを慰める。

「人数分のヤマドリは確保したけどよぉ、殿下も食べるのかな?」

「さあ?」

 スロナは苦笑いをした。


「ただいま」

「あ、お帰りなさい」

 ナーニャが出迎える。

「あっ?」

 ナーニャはイラトリアを見て凍りつく。

「ナーニャ、大丈夫だよ。雉の姿をしているけれど、イールランドのイラトリア王女殿下だよ」

「え?あ!はい。…蒼き妖精のナーニャと申します。よろしくお願いします」

「うふふ。よろしくね。ナーニャさん」

 イラトリアは微笑む。

「あら。こちらの方が噂の喋る雉さん?」

 ネロナが奥から現れる。

「うん。イールランドのイラトリア王女殿下だ」

 ファナがネロナに教える。

「初めまして。イラトリア王女殿下。私は純白の妖精ネロナと申します」

「こちらこそ。よろしくね」

 一通りの紹介が済んだ。

「所で、殿下はヤキトリ食べられます?」

 ネロナはイラトリアに質問をした。

「うっ。あの…ヤキトリからはどうしても離れられないのでしょうか?」

 雉の姿であるイラトリアは困惑する。

「今夜の晩飯。ヤキトリだから」

 ファナは採ったヤマドリの束をイラトリアに見せた。



「いただきまーす!」

 みんな焼いたヤマドリの肉をおいしそうに頬張る。イラトリアは小さく切ったヤマドリの肉やパンを感激しながら食べている。

「泣く程?」

 ネロナはちょっと引いている。

「うう……だって、人間の食べ物、凄く久しぶりだから…!」

 イラトリアに聞いた話では、葉っぱや雑穀、草の実はマシな方で昆虫やネズミ、ヘビを食べていておよそ人間の食べ物ではなかったとの事だった。そして、動物とかにされちゃうとこうなるんだとみんなは震撼したのだ。

「見た目や実態が動物であっても元の中身が人間だから人間の食べ物も食べられる」

 との解呪文献があったのを私が思い出したからだった。イールランドは大陸から離れた島国の王国でアルグラルドからは船で行ける距離だった。実際にイールランドに行くならばフレリーナの勅許が必要となるが解呪するにはその必要性があるのだ。それでも人間に戻れる希望を持てたイラトリアはイキイキとしていた。


                                完

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