串のように真っ直ぐな愛〜居酒屋愛の巣〜

徳田雄一

居酒屋愛の巣へようこそ

「ここ行ってみる?」

「不思議な名前の店だ」

「うん。居酒屋愛の巣だって」


 俺は友人の女性の愛佳まなかと、ある居酒屋に来ていた。そこは建物全部がピンク1色で染まっている、居酒屋とは思えないようなお店だった。中に入っていこうと、俺と愛佳が暖簾をくぐるとそこには大勢のお客さんで賑わっていた。


「らっしゃぁせぇ。2名様ですか?」

「あ、はい」

「お客さん通りまぁす!」


 店内はとてもいい雰囲気ではあったものの、周りを見渡すと男性同士でいちゃつくゲイカップル、女性同士でイチャつくレズカップルや、ゲイやレズではない、異性愛を楽しむカップルが居た。


 付き合ってもいない俺らが居るには少し居心地が悪く、30分過ごしたらそそくさと消えようと考えていたら、愛佳はどうやら気に入ったらしく楽しそうに店員さんと話していた。


「お客さん、何食べます?」

「オススメは?」

「そうですねぇ。ビールに合う砂肝や豚串、なかなかそこらの店じゃ置いてない鹿の肉などがありますぜ?」

「じゃあ、豚串2本、砂肝2本、鹿串が4本!」

「かしこまりました!」


 店員さんは紙に注文内容を書いて厨房へと行った。俺は愛佳の目を見ながら言った。


「串食ったら行こーぜ」

「えぇ、このお店凄い良いよ?」

「そうかぁ?」

「じ、実はさ」


 愛佳が何かを言いかけた時だった。

 店員さんはものの5分にして、鹿串を4本持ってくる。


「ゆっくり食べてくださいね!」

「あ、あの。店員さん生ビールを」

「ふふっ。まずは酔う前におふたりで大事なことを話し合うべきですぜ?」

「え?」


 俺は店員さんにそう言われて、愛佳の方をちらっと見ると愛佳は頬を赤らめながらこちらを見つめてくる。


 なんなんだ。そう思っていた時だった。

 愛佳は俺の手を握りながら言った。


「わ、私このお店のこと知ってて連れてきたの」

「え?」

「ね、ねぇ。私の事どう思ってる?」


 俺は愛佳の目を見つめながら【友人】だと言おうと口を開いたが、何故か【友人なんかで済ませていいのか?】なんて考えが頭をよぎる。


 この店のせいなんだろうと思って1度空気を吸おうと愛佳から目を離して周りを見渡した時だった。


 ジーっと痛いほどの視線が周りから突き刺される。


 なんの期待の目なのか、俺は愛佳を友達としか思っていないのに!


 1度逃げようとトイレへ行こうと席を立つと、周りのお客さんは楽しそうに話し始めた。


 トイレに逃げ込み、愛佳のあの視線のこと、この店のことを調べあげようと店名などを検索するとそこには【居酒屋愛の巣:カップル誕生率100%】と書かれていた。


 愛佳はこれを知ってて連れてきたということは、もしや俺のことが好きなんじゃないかなんて思考が思い浮かぶ。


 トイレから席に戻り、俺は愛佳の目を見つめながら言った。


「あ、あの。俺は」


 すると愛佳は俺の言葉をストップさせて言った。


「私。貴方のことが好き」

「……俺も」


 空気に流されて言ったんじゃない。

 この店がカップル誕生率100%だから言ったんじゃない。

 俺は愛佳が好きなんだ。


 俺は鹿串を1本食いきり、串を見つめながら言った。


「俺は愛佳。お前をこの串のように真っ直ぐに愛す。だから俺と付き合ってくれ」

「うんっ!!!」


 俺は焼き鳥、そして居酒屋愛の巣のおかげで愛佳と付き合えることとなった。


 ☆☆☆


「起きてよー。仕事だよー?」

「……おん」


 今では愛佳と俺は結婚し、子宝にも恵まれて良い生活を送れている。ただやめて欲しいのは。


「お父さんったらダサいプロポーズしてきたんだよ〜?」

「えーなになに!」

「この串のように真っ直ぐにお前を愛す。って!」

「うわー。お父さんださーいっ!」


 焼き鳥が晩御飯に出てくる度に愛佳はこれを嬉しそうに話す。俺は今考えればなんてダサい台詞なんだと思いながらも、今の幸せを噛み締めている。


 皆もどうだろう。好きな異性、同性とこの【居酒屋愛の巣】で告白してみては。きっとうまくいく。


 俺と愛佳を結婚まで導いてくれたこの焼き鳥と、串、そして居酒屋愛の巣に感謝を。


 ☆☆☆


「愛佳愛してる」

「私もっ!」

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