移動速度

シロいクマ

移動速度

俺達は勇者パーティー。


この世を滅ぼすと言われてる、魔王を討伐するため冒険してる。



世界が無くなったら、魔王だって消滅すると思うんだが。

そこんところを魔王がどう考えてるのか、会えたら聞いてみたいと思ってる。


メンバーは、勇者、賢者、魔法使い( 俺の事だ )と聖騎士の4人。


勇者は良いヤツだ、そりゃもう良いヤツだ。

曲がったことが嫌いで、理屈に合わない事があると神様にだって『 違う! 』って言える。


困ってる人が居れば性別や年齢に関係無く助ける、もちろん見た目は考慮しない。

他の勇者は女しか助けないとか、胸の大小がどうとか助ける基準があるのにだ。

誰だって助ける。



勇者は良いヤツだ、そりゃもう良いヤツだ。

良いヤツ過ぎて騙されそうになることがあるのが欠点だ。

そこは俺達メンバーがフォローしてるんで、大事おおごとになったりしてない。



魔王配下の四天王、その3人目との戦闘が終わった。

俺達の勝ちだ。


囚われてた人が居ないのを確認してから、俺達は広い宝物庫を漁ってる。

いや、物色中だな。

俺達は勇者パーティーで盗賊じゃないんだから。


「 勇者! ちょっとこっちに来てくれ! 」


「 何か良いものでも在ったか、賢者 」


勇者は賢者の居る方へ歩いてく。

勇者や賢者とは別の場所を物色してた俺も、賢者の方へ移動する。

足元の金貨がウルサイ、金貨の上って滑るんで歩き難い。



魔王やその配下が集めた宝物の内で、俺達が持ってくのは武器、防具、それと貴重なポーションや魔道具だ。

それ以外の金品は、半分が国に、残りの半分が難民救済に使われる。


魔王やその配下が暴れた結果、難民とならざるを得なかった人達の為に使われる。

人類だけじゃ無い、被害を受けた全員の為に使われる。


『 国の取り分が多すぎないか? 』


『 そう言うなよ、勇者。 兵士を動かすのだってタダじゃ無いんだ 』


『 それでもだ。 魔王達が持ってる宝って、ほとんど国民から奪った物だろ? 』


『 金貨とかはそうだろうな。 それ以外の宝物は違うんじゃ無いか 』


『 う~ん。 まぁ、そうかも知らん 』


『 いや、確定だから。 属性が付与されてる魔法の剣が、一般家庭にあるわけ無いだろ。 そこは認めろよ 』


結局勇者は、俺と賢者の提案を了承した。

『 半分は魔王による難民救済にあてる 』 と言う魔法の制約を、に掛けると言う条件付きで。


勇者は良いヤツだ、そりゃもう良いヤツだ。

異世界人って言ってたな。


「 勇者! コレを見てくれ! 」


嬉しそうな賢者が差し出したのは汚い袋?


「 ・・・・・・袋だな 」


そうだ、袋だ。

勇者は正しい、俺の目にも小汚い袋としか見えない。

俺が足を止めて、物色しに戻ろうとしたのは当たり前だろう。


「 只の袋じゃ無い! 何でも収納できる魔法の袋だ! 時間停止機能付きだぞ! 」


賢者が袋を持っていない手を差し出す。

その手には、湯気の出るコップが握られている。

アレは4時間前の休憩の時のお茶だ。


「 おお~すげぇ~。 時間停止機能付きの魔法の袋か! 」


( まさか! )


俺は目を疑った、一度は止めた足を急いで動かす。

金貨で滑るが急がないと。


「 勇者が前から欲しがってたろ? 在ったんだよ、そこに 」


賢者は部屋の隅に向けて、顎をクイッとやる。

( あり得ない、在るはずが無い。 お茶は飲み干したハズだ )


先に賢者の元に辿り着いた勇者は袋を受け取ったようだ。


「 どうなってんだ、コレ 」


「 そこは僕にも判らないな。 手を入れて、お茶を出し入れしただけだから 」


「 手を入れたのか。 じゃ俺も・・・・・ 」


( まずい! )


広い宝物庫には宝が一杯だ、広ければ広いほど嬉しい。

お宝が、山ほど詰まってることだからな。

しかし今は、広い宝物庫のこの距離が邪魔だ、金貨の山も上を歩くには邪魔だ。


「 ん? あれ? 」


「 どうしたんだ、勇者? 」


まだ距離がある、俺からじゃ勇者の背中の一部しか見えない。

誰の像だか知らないが、俺の視界を遮るな。


「 いや、ちょっとな。 手が・・・・・・ 」


勇者は利き手を袋に入れてる様だ。


「 ははは! 掛かったな勇者! 」


「 何をしている! 」


滑る足元に苦労しつつ、やっと2人に近づいたとき、賢者は勇者に向かって極大魔法を撃とうとしていた。


「 時間停止機能付きの袋に手を入れたな! お前の手はもう抜けない! 」


「 ・・・・・・ 」


「 判るか? お人好しで、公平で、誰にでも優しい、欲が無い勇者様! 」


「 ・・・・・・ 」


賢者は何をしようとしてるんだ? 勇者の褒め殺しとか?


「 馬鹿なお前に教えてやろう。 時間が遅くなる空間では、移動速度も遅くなる。 時間経過が1/10なら移動速度も1/10だ! 時間が停止したらどうなると思う? 勇者様? 」


煽るな~賢者。

ストレス貯まってるのか?

そう言えば賢者も異世界人って言ってたな。


「 王と話し合ったのさ! ここの財宝の1/4は俺だけ・・の物になる、王に3/4持っていかれるけどな。 だが、これで俺は遊んで暮らせる! 」


「 魔王の討伐はどうするんだ? 」


「 知らんな! 他の勇者がやってくれるだろうさ! ハハハ・・・ 」


ここで勇者に防御魔法を掛けるのは不味い、使おうとしただけで賢者に気付かれる。

勇者が魔法を耐え切ってくれたら、ポーションで復活も可能なんだが。

俺の治療を、賢者が黙って見ているとは考えにくい。


「 アハハハ・・・ハァ? 」


俺が瞬きをした次の瞬間、大笑いしてた賢者の身体を聖剣が貫いていた。

聖剣を持つ勇者の右手はガントレットをしていない、素手だ。


「 賢者。 お前の言う通りだ 」


勇者は、お人好しで、公平で、誰にでも優しく、欲が無いってところか?


「 時間停止機能付きの魔法袋に手を入れたら抜けない・・・・。 時間が停止してるんだ、手を抜くどころか動かせもしないだろう 」


勇者が聖剣を放すと、賢者は身体を聖剣に貫かれたまま、床に倒れ込んだ。


「 何故だ? 何故利き手が抜けたんだ? 」


「 判らないのか? 時間が停止した空間の中に、どうやったら手を入れられる? 時間が停止してるんだぞ? 」


勇者が聖剣に手を掛ける。


「 ・・・・・・クソッ 」


勇者が魔力を込めると聖剣が発光し、賢者の身体はチリとなって消えた。

勇者は良いヤツだ、そりゃもう良いヤツだ。

だが、こういうことも出来るんだな、罠を仕掛けた賢者の裏をかくとはな。


「 やるじゃないか、勇者 」


やっと勇者のところまで近づけた。


「 ・・・・・・まぁな 」


「 どこか抜けてて、オッチョコチョイで、罠とか策とかに弱かったお前が。 賢者の罠を見破るなんてな、成長したな! 」


「 それ、褒めてるのか? 」


「 もちろん、最大級に褒めてるさ! それで、どうやって賢者の罠を見破ったんだ? 」


「 簡単だ・・・ 」


勇者は袋に手を入れようとしたんだと、そしたら手が動かなくなったと。

ガントレットの中で手は動いたんで、ガントレットから手を抜いて賢者のスキを見て聖剣で切ったと。


袋を見る、ガントレットは袋の入口の表面にくっついたまま床に落ちてる。

コイツ、手を入れようとしやがったのか。


で、ガントレットが触れた瞬間に、袋の空間とガントレットの接触面だけ時間が停止したけど、中の手は空間に触れてないから動いたと。


たまたま、偶然に。


ガントレットは袋から離れようとしない、袋の中の空間は時間が停止してるってのは本当なのかもな。


勇者は良いヤツだ、そりゃもう良いヤツだ。

曲がったことが嫌いで、理屈に合わない事があると神様にだって『 違う! 』って言える。


「 今度は裏切らないヤツを仲間に加えないとな! 」


何時でも前向き、やっぱり勇者は勇者だった。

そこがコイツの良いところでもある。


「 賛成だ。 次は巨乳の僧侶の娘なんかどうだ? 」


「 不謹慎だぞ、魔法使い! 俺達は苦しんでる人々を救う使命があるんだ 」


「 知ってるよ。 だがな、『 巨乳の娘は勇者を裏切ったことは無い 』、って言う統計データがあるんだが? 」


「 そうなのか? だとしたら、検討の余地は在るのか・・・・・・ 」


まぁ、充分に検討してれ。




「 ハァ、ハァ・・・ 」


「 で、聖騎士。 お前は今頃来て、何がやりたいんだ? 」


「 ハァ、ハァ。 すまない、これでも全力で走ってきたんだが 」


「 ご苦労だったが、魔王の配下の討伐は終わった。 他にも在ったが、全部終わった 」


全身鎧と、全身が隠れられる大型の盾と武器。

冒険に必要な食料やら水やら何やかんや。

結構重い、相当かさばる。

聖騎士は息も絶え絶えで、汗まみれだ。


「 聖騎士。 俺達とお前じゃ、移動速度が違い過ぎる 」


「 なんの話だ勇者? 」


「 最初に言ったはずだ。 俺達の戦闘スタイルは遊撃に近い。 少数精鋭で敵の弱点に切り込むスタイルだ。 移動速度の低下は致命的だ 」


移動速度が遅いと、敵に戦力を集中する時間を与えてしまう。

戦力が集中すれば、やらなくて良い戦闘までするハメになり、継戦能力が失われる。

最悪なのは数で押し切られることだ。


魔王を倒すのが勇者の役目だ、なんなら魔王だけ狙ってれば良い。

魔物を全部倒すのは・・・・・・勇者の仕事なのか? なんか違う気がする。


「 チョット待て勇者 」


「 お前は優秀だ、防御力も高い、それに強い 」


「 そうだ。 俺が敵の攻撃を受けている間にお前が攻撃すれば、どんな強敵でも倒せる! 」


勇者が顔を歪める。


「 聖騎士。 攻撃を受けてるってなんだ? 」


「 何って、俺が盾でこうやって受けるだろ、その間のことだ 」


「 盾で防いだら、敵は攻撃したままの姿勢で止まってるのか? それとも1回攻撃したら、コッチが攻撃するまで何もしないで待ってくれるのか? 」


勇者が悩んでる、『 盾で防がれたら、直ぐ距離を取るよな。 剣ならケースバイケースで考えるけど・・・  』 、ブツブツ言ってる。


敵が魔物でも人間でも、戦いの最中に止まってるなんてあり得ない。

魔物の方が数が多いから、魔物の中にはサボって止まってるヤツも居るだろうけど。


「 すまない、どれだけ考えても俺には聖騎士の戦い方が判らない 」


「 だが、ヘイトを向けさせる事は出来る。 その間に 「 聖騎士、それはオカルトだ 」 」


「 確かに戦闘中に大声や音に反応するヤツは居る。 だが、戦ってる相手から目を離すのは素人だけだ。 戦いに慣れたヤツはそんなことしない 」


声や音は聞こえる、声や音が届く範囲にいれば嫌でも耳に入る。

だが、それで目を逸らすのは素人だけだ。

もっと素人なら気づきもしないか?


それに気付いていても反応しない、注意を逸らさない、注意すべきはそういった熟練した魔物だ。

戦い慣れた魔物こそが最大の脅威だ。


まして戦ってる相手を無視して、音がした方に移動するなんてのはあり得ない。

防がれてるのに、攻撃が通ってないのに、何時までも盾を殴り続ける魔物は見た事が無い。


俺は居てくれても構わないけどな、それだけ楽になるから。


「 君の防御力は素晴らしい、攻撃力もある。 だが、我々の戦闘スタイルとは合わなすぎる。 すまないが、君をパーティーから外す 」


( もっと移動速度を落としても良いから、もっと重装備にしてみろ。 籠城戦や防御戦なら無敵になれるぞ )


床に崩れ落ちる聖騎士。


勇者は良いヤツだ、そりゃもう良いヤツだ。

シッカリ助言をして、活躍できる場を考えてやるんだから。

勇者と俺はサクサク進む、魔王討伐の冒険その先はまだ長い。


「 で、巨乳の僧侶の娘なんだが 」


「 その時考えるよ 」


勇者は良いヤツだ、そりゃもう良いヤツだ。

曲がったことが嫌いで、理屈に合わない事があると神様にだって『 違う! 』って言える。


俺達の魔王討伐の冒険は続く、もう少しだけコイツに付き合ってやろう、色々と心配だ。




-end

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