先輩と後輩

温故知新

先輩と後輩

「親父! 熱燗1つ! あと、さっきの盛り合わせも!」

「あいよ〜」



ここは、俺が社会人になって今の会社に入社してから、すっかり行きつけになっている焼き鳥屋台だ。

まぁ、きっかけは当時新人だった俺が酷く落ち込んでいた時に、面倒見のいい気さくな先輩が連れて来てくれたことだった。

田舎から都会に出て、社会人として右も左も分からない俺のことを、先輩と店主の親父は飾らない言葉で心配して励ましてくれた。

それっきり、俺は先輩と一緒にこの屋台に足を運ぶようになった。


この屋台と出会って随分と時が経ち、ここに連れて来てくれた先輩は数年前に退社し、あの頃のように一緒に行く機会が激減した。

が......



「先輩、どこっすか? ここ」

「どこって、見れば分かるだろう。焼き鳥屋台だよ。焼き鳥」

「へぇー、そうなんすね。俺、こういう屋台、初めて来ました!」



俺が初めて屋台に来た時に言った言葉を、そっくりそのまま言う後輩に、目の前の親父が焼き鳥を作りながら小さく笑った。



「へぇ、若い兄ちゃん、こういう屋台に来るのは初めてなんかい」

「はい、そうっす!」

「そりゃあ、嬉しいことを聞いた。実はな、お前さんを連れて来たそこの無愛想な兄ちゃんも、若い兄ちゃんと同じ頃にこの屋台に来てくれてな、今の兄ちゃんが言った言葉を......」

「親父! そんなの良いから、早く焼いてくれよ! 俺、今日はコイツのお陰でいつもより腹を空かせてるんだよ!」

「ええっ! 俺のせいですか!? 確かに今日は先輩には大変お世話になりましたけど......」



恥ずかしさのあまり後輩に八つ当たりしてしまい、しょぼくれる後輩に心の内で謝ると、カウンターに山盛りの焼き鳥が乗った大皿が置かれた。



「ほら、お前さんらが痴話喧嘩しているうちにいつものやつが出来たぞ。熱燗ももうすぐで出来るから、いつまでも突っ立ってないで、さっさと座って食ってくれ」

「「はっ、はぁ......って、痴話喧嘩じゃねぇから!!」」

「ハハハッ!!」



景気良く笑う親父の顔につられて僅かに笑みを浮かべると、就業時間が終了した直後に『先輩、相談したいことがあります!』と突進して来た後輩と共に、いつものカウンタ席に座った。

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