焼き鳥同盟
洞貝 渉
焼き鳥同盟
「え、鳥じゃないの?」
驚いたように目をまん丸にするのは、十代前半位の少女だった。
「だってさ、空から落ちてきたでしょ? 鳥は空を飛ぶからさ、君も空から来たからさ、だからだから、ね? 君は鳥でしょ?」
少女は血まみれだった。
周囲には、化け物としか形容のしようがない生き物だったモノがごろごろと転がっている。
全部少女が一人でやったのだ。
「俺は、人間だよ」
本当はもっと怖がるところなんだとは思う。が、恐怖は湧いてこなかった。
現実感がまるでない。
「ええ? ニンゲン久々に見た!」
少女は返り血に染まった顔で、嬉しそうに笑う。
「ボクはね、獣人なの!」
ひょっこ、という効果音が聞こえてきそうなノリで少女の頭から犬耳が、それから腰のあたりからは尻尾が現れる。
「……犬?」
「イヌ? 違う違う。君が空から落ちてきたのに鳥じゃないのと同じで、ボクは獣人だから、イヌではないの!」
「俺は空から落ちたんじゃない。マンションから落ちたんだ」
「マション……? なにそれ?」
「……」
俺はつい今しがた、マンションのベランダから落ちた。
五階だった。
死んだ、と思った瞬間、強い衝撃があり……なぜかこの少女にお姫様抱っこされていた。
「ま、いいか。久しぶりに焼き鳥が食べられると思ったけど、君がいい餌になってくれたおかげで、いっぱいお肉が手に入ったし」
ウキウキと化け物の死体を引きちぎり始める獣人少女。
数秒置いてから、俺は今何を言われたのか理解した。
「……ちょっと待て、お前、俺のこと捕食するつもりだったのか?」
「うん!」
「うん! じゃねえよ!」
突然化け物に取り囲まれた時には、今度こそ死んだと思ったが、実は逆に俺はこいつらに救われたってことか? こいつらがいなきゃ、今ごろ引きちぎられていたのは、俺の方……?
「でもね、食べたりしないよ。だってさ、君はニンゲンなんでしょ? ここいらでニンゲンって滅多に見ないんだ。もったいないから捕食しない。焼き鳥は諦める。ボク、偉いでしょ?」
「……ああ、その、偉い、な?」
「えへへ!」
少女は肉片を木の棒に刺して、焚火にかざす。
「鳥の肉をね、こうやってやるとおいしいんだよ。焼き鳥っていってね、しおっていうのとかあまだれっていうのとか、付けると、もっとおいしい」
「あー、そうか。うまそうだな」
この世界のことはまだよくわからんが、どうやら鳥はいるし犬もいるし焼き鳥もあるらしい。……なんなんだこのピンポイント過ぎる情報は。
少女が嬉しそうに笑い、焼けた肉をこちらに差し出してくる。
「はい、あげる。焼き鳥の方がおいしいけど、サイクロプスのお肉も、おいしいよ?」
「……食えるのか、それ?」
「うん! 次はコカトリスを探して、絶対焼き鳥食べようね?」
「いや、それは人間が食えるものなのか⁉」
「人間もよく食べてるよ? よーしょくじょう? っていうのがあって、そこに人間用のコカトリスがいっぱい、いるの」
異世界の人間たくまし過ぎやしないか?
「ボクね、うんと昔にニンゲンから焼き鳥をもらったことがあるの」
「人間は珍しいんじゃなかったか?」
「うん。迷子だったみたいで、ボク、助けてあげたの。偉い?」
「ああ、偉いな」
「えへへ。でね、ニンゲンがボクの取ってきた鳥で焼き鳥を作ってくれたんだけどね、それがとってもおいしくてね。忘れられなくてね。また食べたくてね。……でも、ボク、ニンゲンとおんなじに、焼き鳥作れないの」
……ああ、なるほど。そうゆうことか。
「いいぜ。俺が作ってやるよ」
「本当に?」
「ああ。俺も料理は多少できるからな」
調味料とか、いろいろと必要な物はあるが、まあなんとかなるだろう。
「絶対だよ! 約束だよ! 焼き鳥同盟だよ!」
「いや、焼き鳥同盟は止めよう」
こうして俺と犬耳娘の、究極の焼き鳥を探求する旅が、始まった……のか?
焼き鳥同盟 洞貝 渉 @horagai
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