歳若き人ならざる者の災難
熊坂藤茉
一体どうしてこうなった
「いーやーだー! 何で、どうして折角の誕生日が実質婚活パーティになるんだ父上ー!」
「それはね娘よ。我々
折角の誕生日。父上の判断で、私のバースデーパーティは婚活中の若きフリークスが集う見合いの場と化していた。
「言い分は分かる、分かるがなんでよりによって今日なんだ!」
「だってこうでもしないとお前が参加しないし」
「分かってるならやるなよぉー!」
「分かってたからやったんだよ」
壁の柱にしがみついて動こうとしない
ドレスがしわくちゃになるのも厭わずに、魔力フル回転の膂力で以てその場に留まり続けていた。――あの声を聞くまでは。
「またじゃじゃ馬が滅茶苦茶やってるな。いい歳こいて何してんだか」
声のする方を見やれば、そこにいたのは知人のエルフ。私達と比べれば短めの、けれどもその他の種族達で考えれば長い寿命を持つ存在だ。
「そんなんだから行き遅れてるんだろ、お転婆ババア」
「ばば……っ、やっとこ\
柱から跳ねるように飛び掛かり、きしゃーと物理的にも噛み付いてやる。すんでの所でぺちんと額を
「うわ出た不死者の上から目線。しかも言い草が若者じゃないぞ」
「なん……だと……」
「それも実は大分古い」
「嘘でしょ我が家じゃめちゃめちゃ現役よ!?」
ショック。うちのセンスはちょっとばかり古かった。いやでも50年前とかは最近扱いでよくない?
「ていうかなんでいるのさ。私は今すぐ帰りたいが」
「待て待て概念の家に帰ろうとするな。誕生日の祝いに来たに決まって……なんでそんな疑いの眼差しで見るんだオイ」
こちらの視線に対して異を唱えるスカシんぼエルフ。なら教えよう視線の意味を。
「バースデーパーティを父上の一存で婚活パーティにされた経験はおありで?」
「あー……まあ、御愁傷様?」
「一言!? たったの一言!?」
素気ない言葉にガーン、とダメージを受けていれば、困った顔を私に向けて来る。
「いやあ、こっちには関係ないしなあ」
「お前だって結婚どころか婚約もしていないだろぉ若造がー!」
むきゃーと猿山の猿も斯くやという勢いでバタバタと暴れる私を、メイド達が賢明に押さえ付け始めた。くそー、私は抗うぞー! こんなの不当だ私の88回目の誕生日を返せー!
「そらエルフで99歳はまあ若い方だけどねえ。まあいいや、はいコレ誕生日のプレゼント」
「はい? 何コレ」
ことん、と頭の上に乗せられた小箱を受け取って開けてみれば、中にはビロード張りの小さな箱が。これ母上の鏡台でそれっぽいの見たことあるぞ。ていうか怖くて開けたくない。
「何って、左の薬指にねじ込む用の指輪」
しれっと告げられた言葉に固まる私。待てこら今何つったそこのエルフ野郎。
「……火山に放り込んだり」
「しないしない。後それ多分エルフ以外の奴がメイン張ってた気がするぞ」
動揺の余り支離滅裂になり始めた私に対して、いつもの調子でツッコミを入れて来るこいつはオリハルコンの心臓でも持ってるのか? せめてもっとこう、ムードとか浪漫をだね!?
「というか関係ないって言ってたが!?」
「そら関係ないでしょ、最初からプロポーズするつもりだったんだから」
何故コイツはムードとか浪漫の代わりに爆弾を提供して来るんです?????
「待って待って、いつからそんな」
「いつって確か……30年くらい前? 書類と仕事の整理があったからまあまあずれ込んだけど」
その分指輪代溜まったからトントンかなー、なんてのたまうコイツ。ビンタしても許されそう。そもそも、うん――――
「う――」
「う?」
「嘘だ信じるかコンチクショー!!!!!!!!!!」
有らん限りのクソデカボイス。全力で叫んだ私は脱兎の如く逃げ出した。もうパーティなんざ知るか! 私はおうち(心身が健康でいられる絶対安全圏概念)に帰ります!
そうして私の散々な88歳の誕生日は、11年後に奴の手でとっ捕まるまでのロスタイムに突入したのだった。
歳若き人ならざる者の災難 熊坂藤茉 @tohma_k
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